See you after school. 02:春はまだ寒く 無駄に広い生徒会室には誰もいなくて、理咲は苦い表情を浮かべた。 今期のアメストリス学園高等部の生徒会は、規格外である。 本来4人いるべきはずの役員が3人しかいない。 しかも、その3人ですら、自ら率先して立候補したのではなく、教員に頼まれて仕方なく役職に就いたのだ。 一年生も終わりに近い、生徒会役員選出の頃。 はじめは理咲も蚊帳の外だった。理咲は部活動に重点を置いていたため、時間の割かれる生徒会になど入る気がなかったからだ。 しかしある日、担任に「どうしても」と頼まれた。 理咲は断り続けたが、他に立候補者もいなければ適任者もいないと、終いには泣きつかれる始末。さらに、生徒会指導教員の鞍馬にまで 「お願いできないかなぁ」と言われては、情が強い理咲でも折れるしかなかった。 しぶしぶ承諾した後、他の役員候補の名前を聞いて理咲は後悔した・・・・・・が、もう後の祭りで。 今こうして生徒会副会長なんてやっているのである。 理咲が生徒会役員選挙に出ることを決めたとき、すでに生徒会長と書記の候補は挙がっていた。 2年生(当時)の増田と、その親友である。 増田も鞍馬から直々に頼まれたらしく、半分投げやりな様子で生徒会長を引き受けたという。 一方、増田の親友・氷薄は「書記くらいなら」とあっさりOKしたらしい。 この学園内で、良くも悪くも有名な2人の名に理咲は眩暈を覚え、本気で選挙に落ちることを願ったが、他の候補がいない信任投票で落選するはずがなかった。 また、残る会計候補だけはどうしても決まらなかった。 教員が頼んで頼んで頼み込んでも誰一人として「やります」と言わなかったのだ。 アメトリ祭の多忙さに辟易した者もいるだろうし、増田・氷薄・理咲というありえないメンバーに気後れした者もいるだろう。 結局、選挙当日になっても候補者がおらず、氷薄が書記と会計を兼任する形で緊急措置をとって、生徒会役員選挙は行われたのである。 そして、ここに今期の生徒会が発足した。 一応、会計の適任者が見つかり次第もう一度選挙をすることになっているのだが、おそらくそれは叶わないだろう、とは高等部関係者全員の見解だ。 (生徒会長がまだ来てないなんて・・・・本当に何やってるのかしら・・) 生徒会の会長に推されるくらい有能なはずなのに、増田はいつものらりくらりと面倒事をかわしている気がする。 もうすぐ全クラスのクラス代表者会議があるというのに、去年の資料集めは全て氷薄に任せてしまっている。 その所為で今日氷薄は集合が遅れるのだ。理咲も提出物を出しに職員室まで行ってきたので、増田はすでに在室していると思っていた。 なのに増田の影すら見えないとは、一体どういうことだろうか。 今日は、生徒会の手伝いをさせられる、選ばれし1年生(会長に眼を付けられた哀れな生贄、とも言う)が来る予定になっている。 そこに生徒会長不在というのは、よくない。 (探しにいくべきよね・・・) だが、入れ違いになったら? 探しに行っている間に1年生が来たら? 理咲は考える。 今日の放課後、例年通りなら1年生は抜打ちで身体検査を受けているはずだ。髪の色・爪・化粧・ピアスを取り締まる、アレ。 ということは、もうしばらく1年生は教室待機だろう。探しに行くなら、今のうちだ。 もし入れ違いになったとしても、会長がいれば恰好は付く・・かもしれない。 それに、1年生の動きを察知しつつ、増田が見つからなければ頃合を見計らって生徒会室に戻ればいい。 そう考えて、とりあえず理咲は荷物を降ろした。 ちなみに、増田も理咲も携帯電話くらい所持しているし、連絡先も知っている。 アメストリス学園高等部は、携帯電話の授業中での使用は認めていないものの、放課後での使用に関してまで規制していない。 それでも、理咲は増田への連絡に携帯電話を使おうとは思わなかった。 今まで一度も理咲から連絡を入れたこはない。 今まで一度も増田から連絡が来たことはない。 あるのは面と向かった会話だけ。 それが、理咲と増田の日常だった。 増田が理咲の携帯に連絡を入れてこない理由はわからないが、理咲の方は単に小さな通信機械を介しての、冷たいだけの文面、もしくは声だけのコミュニケーションが嫌いだっただけだ。 加えて理咲は漠然と、連絡しても増田は返事をしないのではないかと考えていた。 電話なら発信者の名前が表示されるし、メールなら送り主がわかる。 つまり、どちらも連絡をとりたくないと思えば無視できるのだ。 仕事しろだの、サボるなだの、諌言しか出ないと決まっている電話やメールに、増田が返事をしてくれるはずがない。 ならば無駄な労力は避け、理咲が直接増田を探し出して、理咲が直接伝えればいい。 そんな結論に至ったのは、生徒会発足の初日・・連絡先を交換する前だった。 万が一を想定して連絡先は交換したけれども、今後連絡する予定は皆無だ。 現に今も、理咲は直接増田を探しに向かおうとしている。 (最初は・・・一応、教室。その次は・・屋上で、図書館、学習室、化学実験室、第1講義室・・・・・あ、氷薄先輩と一緒とか?) そう考えつつも、おそらく増田は屋上で見つかるだろうと理咲は予測した。 生徒会発足時からの経験で、増田がいろいろなところで転寝をするのが得意だと知った理咲は、最近のお気に入りが屋上だと認識している。 昨日だって、目ぼしい1年クラス代表に出頭命令を出した後、生徒会室へ帰らずに立ち入り禁止の屋上に転がっていたのだ。 もちろん、すぐさま見つけ出した理咲が生徒会室に強制送還したのだけれど。 (風邪でも引いたらどうするんだろう) ずいぶん暖かくなったとはいえ、まだ4月上旬である。 桜が散ったばかりの空も、透き通るような青には程遠くて、どこか淀んだ雰囲気の青空が広がるばかりだ。 午後も3時を回って陽光が弱まった、吹曝し状態の屋上で転寝なんて・・・・馬鹿でも風邪を引くに違いないのに。 (やっぱり先に屋上を見てくるべきかしら・・・・) 寝込まれても困るし、と理咲は予定を少々変更する。 氷薄からの連絡を見越し、制服のポケットに携帯電話が入っていることを確かめてから、理咲はドアノブに手を掛けた。 春はまだ、ずいぶんと寒い。 |