C.C. Aegis Project. 03:恐い人を遠ざけましょう 斑鳩に着艦してから、3分後。整備士や団員で溢れる空間に、俺たちもようやく降り立った。 喧噪が嘘のように消え、視線が一点に集まる。 複座ではない蜃気楼にC.C.が同乗していた・・・しかもゼロに抱えられて降りてきたとなっては、注目するなという方が無理な話だろう。 当事者自身が違和感を感じているのだから、致し方のないことだ。 しかし、見たまま感じたままを口にできるほど度胸のある者がこの場に存在しないのも当然で。 俺は幹部と各国の要人を早急に招集するよう指示を出し、C.C.を伴ってその場を後にした。 C.C.には予め『話はすべて後で聞くから、とりあえず俺に付いて来い』と言い含めてあった。 文明の差に混乱しているらしいC.C.の疑問をいちいち解決していたら、部屋に辿りつくまでにかなりの時間を要してしまうのは必至。 それに、ゼロの斜め後を我が物顔で歩くのがC.C.という女の常だったのだ。表情はどう繕いようもないが、とりあえず違和感のないように先導することは可能である。 C.C.を人目に触れさせないため、頭の中で何度もシミュレートした、私室までの最短かつ人通りの少ない通路を足早に辿った。 中華連邦平定のため、あらかたの幹部は各地に散っている。それに追従している者も多いので、斑鳩に現在残っている団員は平常の三分の一、といったところだろうか。 条件は概ねクリアした。 これでC.C.を余計な者と接触させずに済む。 ・・・・・C.C.が記憶喪失だなどと、どう説明してよいものか、迷うのだ。 原因は何だと聞かれれば答えようがないし、第一に性格が違いすぎる。もはや記憶喪失というよりも別人格の発現と説明した方がすんなりと受け入れられるだろう。 また、この話から殲滅作戦の内容が流出することも危惧の一部だった。正義を重んじる藤堂、人が善すぎる扇の賛成を得られる作戦ではなかったのだから。 エレベータで下層へ下り、人工灯に照らされる通路を進む。 このフロアはゼロの私室や副司令官室、情報関係の特務室で占められており、ここまで来ればもう誰とも接触することはない。 そう確信して肩の力を抜き、C.C.に視線を移そうとした、そのときだ。 第三者の大声が、通路内に響き渡った。 「ぉおおい、ゼロ〜! お前どこ行ってやがったんだよ!」 『た、玉城・・』 荒い足音を立てながら近づいてくるのは、単純かつ低俗な思考のわりに突飛な行動を起こす問題児・玉城だ。 視線が俺に向いていることを踏まえると、玉城はC.C.が喉の奥で引き攣った悲鳴を上げたことに気付かなかったのだろう。 ついでに、こちらに走った動揺にも。 「ったく、斑鳩にいるかいないかぐらい言っとけっつーの!無駄に探し回る俺が馬鹿みてーだろ!?」 『あ、ああ・・・』 実際に知能は足りていないがな、とは口に出せず、適当な相槌を打つ。後方にいる挙動不審な女を悟られないことが優先事項だった。 だが・・・・・ 「しかも相変わらず女連れで、いい御身分 ああ、どうしてお前はこういうときだけ目敏いんだろうな、玉城・・・。 「お前、ゼロの後ろに隠れる趣味なんてあったのかぁ?」 「えっ・・あの・・・あ、・・・・・」 無神経な男はずかずかとC.C.との間合いを詰める。一方のC.C.は俺の後ろに隠れるような恰好で玉城から逃れようとしていた。 逃げるC.C.、追う玉城。 ・・・・どんな力関係の図だ?ありえないだろ。 よりにもよって玉城に怯んでどうする、C.C.・・・。 「ぁあ!?なんとか言えよC.C.」 「っ、・・・」 そんなに玉城が恐いのか、C.C.は震える手で外套を掴んできた。 思わず、口角が上がる。最初は俺にもあれほど怯えていた女が、今はそうでもないらしいことに、何故かひどく優越感を感じたのだ。 C.C.は琥珀の瞳を彷徨わせたまま、身体を竦ませて震えている。唇を固く閉ざしているのは、『何も言わずに』付いて来いという俺の指示を忠実に 守っているからなのだろう。 外見がC.C.でも、中身が奴隷の少女であるのなら助勢してやらなければ、と仏心に思う。 『おい・・・』 「お、もしかして風邪でも引いたか?」 しかし、空気を読まない男はC.C.の顔を覗き込みながら、白い額に手をあてようとした。C.C.はびくりと身体を震わせて、固く目を閉じるばかりだ。 目の当たりにした光景に、言いようもない苛立ちが身体中を駆け巡る。 『 制止の声は不気味なほど冷静に、しかし、地を這うような低さをもって発せられた。 振り向いた玉城の、驚きを隠せていない髭面も、中途半端に浮いた右腕も、鬱陶しいことこの上ないがこの際どうでもいい。 玉城と同じように、目を丸くしてこちらを見上げたC.C.の薄い肩を抱き寄せる。 ほぼ無抵抗な女の痩身は、すんなりと外套に収まった。 『指示があるまで待機していろ』 それだけを言い置いて踵を返す。 同様の動きを強要された女の小さな悲鳴をも外套に包み込んで、俺は今度こそ私室に向かった。 背後から谺してきた大絶叫を完全に無視したことは、言うまでもないことである。 |