C.C. Aegis Project. 01:連れて帰りましょう 特異な空間から脱出できたのだから、今度こそ二の次になっていた課題へと思考を切り替える必要があった。 ナナリーとカレン救出のタイミングや、ディートハルトに一任していた超合集国のこと。それに対するブリタニアの動向など、他にも手を打たなければならないと 思っていたことは山積みなのだ。それらに絶対的な影響を与えるあの男の所在、手にした新たな力、向かう先や、ギアスについても不明な点は多く、こちらも早急に情報を 得なければ致命傷になると、頭では理解している。 理解は、しているのに・・・ 気がつけば、目の前の女のことばかり考えている己がいるのだ。 共犯者という言葉を隠れ蓑にして、互いに堆く築き上げた壁を壊そうとしなかった。 そういう女なのだと勝手に結論付けて、掴む直前にひらりと躱す身を追及しようともしなかった。 気遣ってやることさえ、しないで。 むしろ、不器用すぎる優しさに庇われていたのはいつだって俺の方だった。その事実に気付くのも遅く・・・失いかけてから策を講じることも多かった。 今回の一件がそれだ。黒い拘束衣のC.C.に指摘されなければ、確実にC.C.を失っていたのだろう。 何度同じ轍を踏めば気がすむというのか。 ・・・・・・今だからこそ、怒りは己に向かう。 だが、あのときは焦りばかりが先行して、制御できなくなった感情をすべてC.C.に向けてしまった。 翻意させるためとはいえ、闇雲に言葉を重ねたのだ。どの言葉に反応したのかは分からないが、それでもあのときC.C.を泣かせたのが俺だということだけは明白だろう。 笑わせてやる? 支離滅裂もいいところだ。 (・・・・・・・それでも・・・) 結果としてC.C.は、自身の意志であの男を・・・・死を、拒絶したから。 頑とした態度を崩そうとしなかった女が、俺の言葉に耳を傾けたから。 今度こそ掴めると思ったのだ。真実の、C.C.を。 それなのに・・・ 「・・もう少し寄ってくれないか。前が、見えない」 どうしても穏やかにならない俺の言葉にびくりと震えて、蚊が鳴くような声で躊躇いがちに、しかし、正しく「はい」と返事をしたC.C. (と呼んでいいものか、もはや分からない少女)は、従順な態度で身を寄せてきた。 蜃気楼のコックピット内に、ふたり。 重苦しい空気に気を病んでいるのは俺も同じだが、畏怖が加味される分、C.C.の方が重圧を感じているのだろう。 緑髪の隙間から僅かに窺える肌は、すでに白を通り越して青くなっていた。 畏縮しきった身体の細かな震えは、直接こちらに響いてくる。膝の間にC.C.を座らせているのだから、当然と言えば当然なのだが。 それでも出来る限り身を寄せる体勢をとらなければならないのは、前方モニターの、特に下方の状況確認が困難になってしまうからだ。 感覚だけでナイトメアを動かす自信は、残念ながら、ない。 C.C.の不死性、あるいはガウェインをここまで望ましく思う日が来るとは思わなかった。外傷を負ったとしても傷一つ残さず回復する女であれば、 蜃気楼の肩に乗せるなり腕に抱えるなりしていたかもしれない。複座構造のガウェインは文句の付けようがないだろう。 だが、いくら思いを馳せても仮定は仮定。 現実とは、相容れないのだ。 C.C.が不老不死ではなくなった。それが、現状である。 実際に怪我をさせて確認するわけにもいかないが、C.C.が普通の人間に戻ったと見て、まず間違いはないだろう。額から紋章が消えた・・・つまり、C.C.に 力を移した修道女があっさりと死んだことを顧みれば、予想は確信に変わるのだ。 死ねば永遠に還ってこない、生命。そんな『当たり前』にC.C.が組み込まれ、剰え俺が焦心する破目になろうとは思ってもいなかった。 それでも、ロロとは極力接触させないようにしなければ、などと、あれこれ考えを巡らせている自分がいることも事実なのだ。 今度こそ、護りたい。 そう、強く思う。 正直なところ、不老不死の力どころか記憶の大半まで失くしてしまったC.C.に戸惑いはある。抉られるような、喪失感も。 だが、決して明るくない人生を歩んできた少女が生きたいと願ったからこそ生き延びて、愛されたいと願った末にC.C.が生まれたのだとすれば、 そのころまで意識が遡った、このC.C.を軽視するわけにもいかないのだ。本質の中核を成すのは、やはり幼き日の経験と感情と記憶なのだから。 (どちらにせよ、C.C.を傍においておくことに変わりはないんだが・・・) だったらせめて、安心できる居場所くらいは作ってやりたい、と。 C.C.の本当の願いをようやく知った俺は、心の底からそう思った。 |