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   ブラックコーヒー・前編 (現代パラレル)




 院生控室の扉を叩こうとしたとき、タイミングよく内側から扉が開いた。
 顔を出したのは院生2年のヒューズだ。


「あっ・・」
「・・っと!」


 互いにピタリと動きを止めて1秒後。先に活動を再開したのはヒューズの方だった。


「えーと、確か1年の・・・」
「リザ・ホークアイです」
「あぁ、そうそう、リザちゃん」


 ペコリとお辞儀をするリザと、ポンと手を打つヒューズ。なんともほのぼのとした光景だ。
 リザの手には分厚い本やらプリントやらが積まれていている。勉強熱心な後輩が先輩に質問でもしにきたのか、とひとりで納得したヒューズは、「俺、ちょっと用事 あるから、質問はあっちでパソコンと睨めっこしてる童顔のお兄ちゃんに聞いてくれなー」 とリザの頭を撫でて廊下の向こうに消えてしまった。ちなみにヒューズの 用事とは愛しの恋人に電話を掛けるためだったりするのだが、そんなことを知る由もないリザは「ありがとうございます」 と頭を下げてヒューズを見送った。
 もう一度ノックをして、扉を開ける。


「・・・失礼します」


 厚く重たい扉の向こうは、コーヒーの香りで満ちていた。
 入口のすぐ右手には流し台があり、その奥にある机の上でコーヒーメーカーがこぽこぽと音を立てている。部屋の真ん中には長机が2つ、パイプ椅子は4脚。 右側の壁にも長机があって、そこには黒いデスクトップパソコンが設置されている。他にも文献が詰まった本棚や、丸まった毛布が投げてあるソファーなど、院生控室には気になる ものがたくさんある部屋だったけれど、しかしリザの視線は一人の人物に注がれていた。
 パソコンに向かっている、黒髪の大学院生。
 リザが入室きたというのに、男は振り返る気配すら見せない。そして男の顔はディスプレイばかりに集中していて、手は休むことなくキーを打ち続けている。 いわゆる、タッチタイピングだ。
 いや、タッチタイピングが別段珍しいわけではない。リザは練習中の身だが、パソコンに慣れている者であればある程度は身につく技術だろう。しかし、その速さが 尋常ではなかった。リザの立っている位置からではよく見えないが、キーボードを打つ、その音の速さだけでディスプレイが文字で埋まっていく様子が容易に想像できる。 速い、すごく速い。
 リザがその様子をじっと見入っていた、丁度そのときだ。


「ヒューズ、次のファイル」


 いきなり黒髪の男が声を発したので、リザは驚いた。 相変わらず画面を注視したままの、リザに一瞥もくれない状態での発言だったのだ、リザが驚くのも無理はない。


 ヒューズとは先ほどの眼鏡の大学院生のことだろうか?
 まさか彼が出て行ったことに気が付いてないのだろうか?
 自分のことを彼と勘違いしている?


 リザの頭の中で、疑問がぐるぐると渦を巻く。持参した本や筆箱をぎゅっと抱え込み、リザは無意識のうちに身を硬くしていた。
 よく観察してみると、男の膝の上には分厚いファイルが乗っている。あの代わりになるファイルを渡せばよいのだ、ということはリザにも理解できる。だが・・・・・


「ヒューズ・・!」


 先より苛立ちが見える催促の声が響いた。
 ファイルをとってあげたいが、長机にはたくさんのファイルが散乱していて、リザにはどれが男の言う『次のファイル』 なのか分からなかった。
 リザの心音は大きさを増す。ついでに本を抱える腕にも力が入る。


「おい、ヒューズ! だれの課題を代わりに打ってやっているんだと       ・・・」




 そしてついに、黒髪の男      ロイ・マスタングは振り返った。

















fin.

















2007/12/ 5 up