“おかしい”としかいえない二人 ノックをしてから執務室へ入室したハボックとブレダを迎えたのは、彼らの上官であるロイとリザ。 だがしかし腐れ縁の少尉コンビは威厳を醸し出す扉を開け放った格好で固まった。いや、別に上官ふたりが執務室に詰めていることなんて珍しくもないというか 当たり前すぎて逆に二人居ないとつい所在を確かめてしまうぐらい日常的なことなのだが。 だがそれは普通に業務をこなしているから自然なのであって、今現在ハボックとブレダの目の前に広がる光景は明らかに日常を逸していた。 大佐が中尉に耳掃除をしてもらっている・・・ 一目瞭然かつ単純なその光景をわざわざ言語化して再認識しなければならないほど、ありえない光景だった。 もう少し詳しく状況を解説するならば、ロイとリザは執務机ではなく革張りのソファにいて、ソファの端に掛けたリザの膝にロイが頭を乗せている。ロイの足はハボック たちの方へ向いているのだが、立っている彼らからはロイの顔が丸見えだった。見えたのは眼を伏せた、いわゆる寝顔だ。 一方のリザは右手に愛銃ではなく耳掻きを持ち、左手をロイの耳に添えている。顔は俯いているため窺うことはできないが、怒っている気配は感じられなかった。 むしろ柔らかい、かもしれない。 まるっきり自宅で寛いでいるかのような光景。 しかも、恋人たちのような。 入室した部下に今の姿を見られても慌てることなくふたりは平然としていた。それが逆にハボックとブレダを恐怖させる。 「お前たち、入るのか入らないのかはっきりしろ」 それまでピクリとも動かなかったロイの声がいきなり響く。その唐突すぎる反応に慌てた凸凹少尉コンビは勢いに任せて室内に足を踏み入れてしまった。 踏み入れてしまってから、後悔する。 (・・気まずい・・・・気まず過ぎる・・!) (見てはいけないものを見た俺らは処分されんのかっ!?) などと脳内ではのたうち回っているものの、表面は平静を装う。非常時にこそ冷静さを求められる軍人の鑑的態度だ。 「メーラビアン事件の調査書、置いておきますんで」 「第3会議室の使用許可申請書も後でサインお願いします」 そそくさと執務机に寄るふたりにロイは「ん」と短く返事を返す。その間も耳掃除は進んでいて、ロイもリザも侵入者の存在など全く気に掛けていないようだった。 終いには最後の仕上げとばかりにリザがロイの耳へ軽く息を吹きこむ。そんなこと、相手が家族か恋人でない限りしないだろうに、リザは平然とやってのけた。 伏せた睫の、なんと艶っぽいことか。 「はい、終わりです」 「ご苦労」 言ってロイはすぐにリザの膝から頭を起こした。が、あっさりとしていても糖度高めな遣り取りを見せ付けられたハボックは我慢ができなかったらしい。 「んなこと家でやってくださいよ!!」とついに叫んでしまった。 部下から怒鳴り声を受けたロイとリザは無表情でハボックを3秒ほど凝視し、3秒ほど互いを見つめ、またハボックに視線を戻す。そして実に不思議そうな顔をした。 「恋人でもないのになぜ家で耳掃除をしてもらうんだ」 お前馬鹿か、とでも言いたそうなロイに、リザは首を縦に振って賛同の意を示す。 「「・・はぁ!?」」 しかし少尉コンビは素っ頓狂な声を上げた。タイミングやトーンの上り具合までぴったりだ。 「恋人じゃないんですか・・?」 「中尉は部下だろう」 「え、でも・・耳掃除してくれる女の人なんてたくさんいるでしょうに、なんで中尉・・・」 「信頼の度合が違うからな」 「 「大佐は不器用だから」 ((ま、ますます解んねー・・・)) いくら信頼しているからといって、部下に耳掃除させたりするものだろうか。 いくら上司が不器用だからといって、膝枕まで貸して耳掃除するものだろうか。 『恋人同士だから』と説明してくれた方が、よほどすんなり納得できるというものだ。 ハボックとブレダは呆然と上官ふたりを見つめた。しかし当のふたりはすでに平常の上司部下モードに切り替わっていて、「会議の資料集めておいてくれ」「了解しました」と 言葉を交わしている。 己の仕事だって残っている少尉ふたりはそのまま部屋を辞した。 が、複雑な気分であることに変わりはない。 「「あのふたり、絶対おかしい」」 廊下を行く凸凹が同時に上げた言葉は、またしても見事に一致した。 後日談 結局、中尉に耳掃除してもらう一番の理由は? 「ん? 彼女は昔から耳掃除が上手いんだ。それに丁寧だしな」 それで、大佐に耳掃除をしてあげる一番の理由は? 「・・さぁ? 昔からしてることだし・・・もう惰性なのかしらね」 だから、そんなんじゃ納得できねーよ! fin. 2007/8/ 6 up |