同じ姿勢を続けていた所為で、肩が凝った。
 首を回すと、意外に派手な音。
 斜め下からは、労るような、気遣わしげな視線。

















   スーパードール・リザちゃん  4

















 ヒューズの活躍によって中尉の服が(一応)落ち着いた後、結局普通に仕事を再開することになった。
 私としては記憶が新しいうちに、中尉からいろいろと話を聞きたかったのだが、「業務を滞らせるわけにはいきませんから」の一言で却下されてしまったし。
 ・・・・べ、別にサボれると思ったからではないことだけは言及しておく。


 私はあの後、執務室に缶詰だったわけだが、中尉縮小化に関して現在何も動いていないわけではない。 ブレダには、憲兵のイーストシティ支部から例の事件の詳細提供を求めるよう指示してあるし、ヒューズには、中央あたりでも類似した事件が起きていないか確認してもらう ことになっているし、フュリーには、錬成光が治まったときに跡形もなく消えていたというオフホワイトの手紙の差出人(当然、私の記憶にない女性の名だ) を特定するよう命じてある。
 状況判断だが、今回の縮小化は十中八九、錬金術によるものであることは間違いない。 となると、自然に縮小化が解けることはないと見てよいだろうから(一時的なんて等価交換の原則に反している)、傍迷惑な錬金術師を探し出すか、錬成陣自体を再現して解読しなければならないことになる。
 どちらにしても簡単には済まないだろうな、この事件・・・。




「もう昼食の時間ですね。休憩にしましょう、大佐」




 中尉は人形サイズ(メイド姿)で執務室外に出ることは出来ず、ずっと私と共に居た。彼女と執務室に二人きり、という状況は珍しくないというかむしろ日常茶飯事だ。 緊張することはない      はず、なのだが・・・・・
 今の中尉は床に立つと小さすぎて仕事にならないので、私の執務机の端で仕事をしている。書類を机に広げ、 その上を移動しながら書面を読み、必要ならば訂正やサインを(もちろん通常サイズの万年筆を駆使して)入れていく。
 そのちまちました動きが、ありえないくらい可愛いのだ。
 私は小動物愛好家でもなければ、人形を愛でる趣味もない。だが、人形サイズ中尉をこよなく愛しいと感じる。・・・感覚的には、師匠の家にいた頃に、 幼かったリザの頭を時折なでなでしたくなったような感じに似てなくもないが・・やっぱりどこか違う。
 中尉は中尉であって中尉なのだから、何が起こっても中尉だ。つまり、上官の意見を無常にも切り捨てるところとか仕事熱心なところとか凛とした雰囲気は変わってない。 だから中尉が幼児化したのならともかく、単に等縮しただけの中尉をいつもより可愛いと思うのはおかしい。
 なのに私は確実に通常の5割増くらい中尉を可愛いと思っている。
 なら、やはりサイズの問題なんだろうか?
 しかしだな、私は小動物愛好家ではないし、人形を愛でる趣味も                あれ?思考がループしてないか?


「大佐?・・・大佐、どうされたんです?」
「いや、何でもない」


 君のことを考えていたら無限ループに嵌ってしまったよ、なんて言えるわけがない。不審者を見るような眼差しを向けられるのは、さすがに御免だ。


「休憩、だったな」


 さて、どうしたものか。
 私は司令部の食堂でも外のカフェテリアでもいいのだが、問題は中尉だ。他人に姿を見せられないのだから、当然共には行けない。一人で執務室に待機させておくにしても、 執務机から飛び降り不可能な状況(床までの距離が今の身長の4倍以上あるからな、怪我するだろう)では、突然の来室者に対応できないだろうし。だからといって床に置いていくのも 躊躇われる。中尉に人形の振りをしてもらう・・・にしても、執務机に中尉人形(しかもメイド服)があったら、私に変態疑惑が浮上するじゃないか。それはいかん。
 いざとなったら椅子経由で卓上から避難してもらうしかないな、と考えたそのとき、都合よくハボックが顔を出した。
「すんません。中央からのこの書類、ヒューズ中佐に持ってってもらいたいんで確認お願いします」
「いいところに来た。それは先に済ませてやるから、二人分の昼食を適当に調達してこい」
「っ大佐・・!」
「大佐がすぐに?てか俺パシリ?」
 中尉とハボックはほぼ同時に声を上げた。おそらく中尉は私も執務室に残ることに、ハボックは私が書類を即決裁することに驚いたんだろう。
 ・・・そんなに驚くことか?特にハボック。
「あの・・・・でも、俺も今から昼休みなんスけど」
「業務に差し支えなくて結構じゃないか。少しは上官に気を使え」
「でも俺、今月金無くて・・・」
「誰がお前に払わせると言った」
 安月給の部下に奢ってもらうほど私は零落れとらん。半分呆れながら、上着の内ポケットを探る。
「大佐、僭越ですが、私のことを気に掛けてくださってるのでしたらお気遣いはご無用です。食堂なり、狙撃されにくい安全な飲食店なりで昼食をお摂りください」
 それなのに、中尉は少し呆れたような、困った顔でこんなことを言うのだ。
 私は君のことを心配しているのだよ、中尉。席を外せないのは当然だろう?
「では頼んだぞ」
「ホント何買ってきても文句言わんでくださいよ」
 だから私はハボックに札を何枚か握らせて、ヤツが行かねばならない状況を作る。まぁ先ほど蹴り飛ばしてしまったことも重ねて悪いとは思うが、緊急事態では 多少の犠牲(命に支障がない場合に限る)が必要だ。つまりは対価だな。よし、頑張れハボック。
「ついでにお前も何か買ってくるといい。駄賃だ」
「なんスかそれ・・・子供のお遣いじゃないっスか!」
「迷子になっても迎えは遣らんからな」
 仕上げにハボックが持ち込んだ書類に目を落とせば、完璧。聞く耳持たず、のポーズに、ハボックはぶつぶつ文句を言いながら出て行った。 あの様子だと煙草1カートン買ってくるかもしれない。私はあまり煙草の煙は得意でないんだが・・・まぁいいか。


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


 ・・・い、痛い。斜め45度下方からの視線が刺さるように痛い。進言と存在を無視された小さな鷹からの視線が痛い。そりゃあ無視したことは悪いと思うが、 これも全て中尉のことを思っての行動なのに。全く以って損な役回りだな。
   何だね」
「・・・休憩は休憩でお休みください。仕事が溜まっているわけではないのですから、貴方まで執務室に詰める必要はないんです」
 中尉の顔には無視された恨みも浮かんでいたが、基本はさっきと変わらない、少し困った顔だ。
 今思ったんだが、縮小化してから中尉に表情が出やすくなったんじゃないか?ほら、服のお披露目のとき、はにかんでたし。ヒューズに満面の笑みを見せるし (あれはちょっと腑に落ちない)。・・・もしかしたら、急に中尉を可愛いと感じた原因の一つは、中尉が素直に感情を表出しているから、 かもしれない?いや、ちょっと違う。堆積を変えずに物質を小さくすると表面積が増加するように、中尉も小さくなることによって感情が表面に出やすくなった、と表現した方が より適切だろう。その微妙な変化を、私は無意識に感じ取っていたのかもしれないな。断じて電波系とは無関係だが。
 ・・・まぁ、この話はこれ以上考えないことにしよう。


 可愛いものは、可愛い。


 なんかもうそれでいいような気がしてきた。
「いいんだ。気にする必要もない」
 なんだかんだ言って、中尉を独占できる現状を楽しんでいるんだ、私は。だったら片時も離さないで傍にいればいい。
         そうだろう? My Little Doll.
 私は中尉の頭をそっと撫でた。手に触れる面積は非常に小さいが、それでも髪の滑らかな感触は十分楽しめる。


 ・・・。
 ・・・・・?
 ・・・・・・・ん?
 ・・・・・・・・・あれ?
 さ、ささささっき、なんかすごいこと口走らなかったか!?え?・・ほら、そのー・・・doll、とか、なんとか。 dollって・・自分で自分が恥ずかしいじゃないかっ・・。    っやばい、身体が硬直して頭から手を退かすことが出来ない・・!
 って、なんか中尉の顔赤くないか?私の手の下で恥ずかしそうに目を伏せてるよ?・・・・“doll”あたりは声に出してないよな、俺!?










 一度パニックに陥ると、一人ではなかなか正気に戻れない。知ってはいたが、それをこんな形で経験するとは思わなかったぁ。 と、冷静に分析している自分も存在しているのに、思考が空回りしてどうにもならない己が悲しい。
 天国のホークアイ師匠、今だけでいいです。不肖の弟子をどうか助けてください・・! メイド服騒動でテンション上がりまっくったから今日はもう上がらないと推測したのは間違いでした。むしろ逆に調節できなくなってました。 認めます、認めますから助けてください、師匠。


 ・・・・・とりあえずハボックでもヒューズでも構わないから、だれかこの場で、何かアクションを起こしてくれ!!

















To Be Continued.

















2007/5/31 up