「大佐ぁ、ちゃんと軍議出てたんスか?」
廊下で偶然顔を合わせた上官に対する言葉が、本当にそれでいいのか?
スーパードール・リザちゃん 2
勤務態度が不真面目であるなどと言われている私だが、軍議をサボるほどいい加減な性格はしていない。
聞きたくもない話を聞き、『こんな時間を取らせるなら書類を減らせ』と不満を募らせる毎日だというのに・・・
非頭脳派のお前と代わってやったらさぞかし苦渋に満ちた顔になるんだろうな是非とも見てみたいものだぞハボック!
「出たに決まっているだろう」
現に今は軍議からの帰りだ。執務室まであと75mの、東方司令部西棟最上階廊下。
「ならいいんスけどね。じゃあさっきのはやっぱり雷だったんじゃねーか?」
「こんなに晴れてるのに雷なんて鳴りませんよ・・・」
ハボックの台詞前半は私に、後半は共に書類を持ってきたらしいフュリーにあてたものだ。それはどうでもよいが・・・雷?
私は窓から空を見上げた。透き通った青ではないが、華霞の空は心地よく春を主張している。・・・・この天気で雷?
晴天の霹靂すぎるだろう、と思わず呆れた。
「何があった?」
ハボックがいくら馬鹿でも、常識くらいはあると信じている。それを破ろうというのなら、それなりの理由があるのだろう。
「いやぁ、30分くらい前に光ったんすよ、大佐の執務室」
「・・・は?光った?」
「いや、光ったっていうよりは、光が漏れてきたってかんじらしいんですけどね」
「目撃者の話によると、エドワードくんが錬金術を使うときの光に似ていたそうなんです」
「報告を受けて俺らがすぐに見にいきましたけど、特に異常はなかったっすよ」
錬成光らしいと報告を受けた直属の部下が錬金術師である私の所在を確認するのは正しい。だが30分前、私は会議に出席していたし、
同じく錬金術師である鋼の兄弟も今日は来ていない。私の執務室にだけ雷が落ちるという特異なことはないであろうし、そもそも今日は雷が落ちる空模様
でもない(比喩的な意味を持たせれば落ちることも時折あるが)。それに、錬成光は雷などと光り方が異なるため
見間違えることはない・・と思う。
「おい、本当に異常がなかったのか」
「あったらとっくに報告行ってますって」
「大佐がいらっしゃるかのと思ってましたが、人影も全くありませんでした」
「そうか・・・」
気に掛かるが、どのみちこれから執務室へ行くのだ。確認作業は自分の手でできる。
「中尉はどうした」
「えっと・・総務に書類を取りに行ったきり戻られてません」
「そういえば大佐の執務室にもいなかったなぁ」
大佐と違って黙ったままいなくなったりしないのに、とハボックが余計なことを言う。よほど命が惜しくないらしい。
「ではハボック、お前はイーストシティ駅にヒューズを迎えに行って来い。40分後、北口前だ。フュリーは中尉を探してきてくれ」
「「了解」」
カチリと敬礼をして踵を返す二人。手持ちの書類を私に押し付けることも忘れていなかった。
・・・・・・まぁそれくらいのことで腹を立てたりはしないが・・もう少し上官として敬う気持ちを持ってもいいんじゃないのかと
思うのは間違っているのだろうか。
執務室の扉はいつもと変わらず重々しい感触を腕に残して開いた。一見して異常なし。足を踏み入れてもいつもと変わらない・・・・が、
空気がおかしいと感じた。 意識過剰か? 胃のあたりが少し痛んだ。
だがその痛みはすぐに胃だけでは済まなくなった。
歩みを進める中で巡らした視線の先、来客用のソファの足元・・・
( ナニガイジョウナシダ・・・)
見慣れた青が落ちているのが目に入ったのだ。
全身冷水を浴びたような感覚が駆け抜け、すぐに焼かれるような熱を感じた。心臓の音が嫌でも耳につくし、極度の緊張の
ためか視界が狭くなる。
見つめる先の青い軍服は一般の軍人のものより幾分小さい・・と思う。あぁ、軍服よりも軍靴の方がもっと違いがわかりやすい。
そして何より、床に転がる髪留めが、その持ち主を宣言しているというものだ。
「・・・・中尉・・」
喉に声が張り付いて、掠れた音しか出なかった。
イーストシティおよび、その近郊における謎の連続失踪事件・・・
これが、頭の中にとっさに浮んだ事柄だった。
だが、何故だ!?失踪したのは全て錬金術師だった。中尉は確かに錬金術師の娘だが、彼女自身にその才能はない。だったら
何故彼女が消えていなくなる必要がある!?
連続失踪事件を事件たらしめている所以は、残った血痕の他にもう一点あった。
残された、被害者の衣服。
人だけが急に溶けていなくなったかのような衣服の残され方に憲兵司令部は事件性を見出した。というか、誰だって
見出すだろう?事件として扱わない方がおかしい。
・・・ではなくて。
自分でツッコミを入れるくらい混乱しているが、とにかく今問題にすべきことは中尉の安否だ。フュリーに中尉を探させている。
見つかれば・・・無事でいてくれればそれでいい。
逸る鼓動を抑えつつ、主を失くした軍服に手を伸ばした。本当に、何も意識せずに。
襟から覗く黒のハイネックが中尉のアンダーウェアそのものじゃないか・・・・・と、また一つ絶望の淵に進んだとき。
持ち上げた上着の中から、何かが転がり落ちてきた。
「きゃっ・・・・」
それは地面に衝突すると同時に可愛らしい悲鳴を発し、それからゆっくりと身を起こした。
少し乱れた金糸はそれでも光を纏い、輝き。
陽に焼けない肌は透き通るような白で、真紅の練成陣とのコントラストが目に眩しい。
無駄な肉など一切ない背は美しいカーブを描き、細いウェストへと続いている。
微かに覗く胸もまろやかな曲線と柔らかさを主張しており、晒された太股は見ただけでその弾力を伝えてくる。
その身長(推定)およそ15cm。
「んなっ・・・!!」
とりあえず一番最初に出た言葉が、これだ。情けないことこの上ない。
それでも私の存在を知らしめるには十分な要因だったらしく、まるで小さな人形サイズのような生命体(さっき滑らかに動いたのだから
生命体で間違いないと思う)はこちらへ振り返った。くりっとした大きな鳶色の眼が瞬きを数回繰り返す。
「・・え・・・・大佐・・・?」
「ぅわああぁあぁああああぁ!!?」
人間、動揺していると突拍子もない言動をとるというが、それを自ら証明することになろうとは。
「ふ、服くらい着ていろ、馬鹿者!!!」
最も重要なポイントはそこではないだろうに・・・
口を衝いて出たのは、こんな間の抜けた言葉だったりした。
To Be Continued.
2007/4/18 up
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