それは当初、憲兵司令部の管轄だった。


     イーストシティおよび、その近郊における謎の連続失踪事件。


 しかし、『事件』とは断定し切れない事件であった。本当に事件かもしれないし、ただの偶然かもしれない。 更にはそこに悪意があるかどうかすらわからない、曖昧な『事件』。
 よって国軍ではなく憲兵による捜索や調査、現場検証が執り行なわれているだけであった。


 本当に単なる失踪事件。
 家の主が姿を消す・・たったそれだけ。家から金品が消えることもなく、狼煙程度の煙すらちらついていない。 つまり、故意に誰かが家主を連れ去ったのか、自らの意思で家を出たまま行方がわからなくなったのか、 外部者にはわからなかった。なので外部者・・憲兵たちには出来ることが少なかった。と同時に、だからこそ 憲兵司令部の管轄だった。
 失踪した者は今の段階で7人。だが確認が取れていないだけで、もうすでに失踪済みの者もいるかもしれない。


 しかし、なぜ全てが曖昧なのか。


 ・・・・それは失踪者たちの共通点に因る。
 第一に、彼らは一人暮らしをしている者や人払いをしている者が多い。 歪んだ性格、性質、はたまた愛する家族との死別。そして隠匿。己の身を守るために、他人を近づけないことを 選ぶ人種である場合が多く、事の発覚が大幅に遅れることは想像に難くない。 更に、近所に住む人に話を聞いても、有力な証言が得られることが少ないのである。今回もまさにその通りであった。 最初に事態が発覚した3人はむしろ、事態が発覚したこと自体が謎になりつつあった。
 第二に、彼らに共通の職業。不意に行方がわからなくなるということがありうるその職業。
 彼らは凡人には理解できない頭脳を持ち、人々に不思議を見せる。科学的な理論で証明し得る事柄も、 その科学性を理解出来ない凡人にとっては奇跡にも等しい。
 彼らは人から理解されないことが多々あり、逆に人を理解しないことが多々ある。 そのため、「彼らは秘密の会合にでも出かけたのではないか」などという全く以って不確かな憶測が浮び得るのだ。


     そう、彼らは錬金術師・・・飽くなき探求者であった。


 つまり、周りの人から見れば『変わり者』だった。変わり者は変わった行動・言動をするから変わり者と呼ばれる。 少しの間くらい失踪しても周りは苦笑いで済ます、それで終わる筈だった。


 だが、今回はこの中途半端な事件を『事件』たらしめている要因があった。
 書斎の床、もしくは机に数滴の小さな血痕が残されていたのである。致死量どころか、負った傷が致命傷にもなりはしない と断言出来るほど可愛らしい血痕。
 だが、憲兵司令部の誰か頭の切れる人物は、これが只の偶然ではなく『事件』であると直感したのだろう。 3人目の失踪者の書斎から血痕が確認されると、憲兵司令部から支部へ、失踪者の捜索と共に、イーストシティ近辺において 人づきあいの疎遠である錬金術師の安否を確認するよう命令が下った。
 しかしその後の報告において増えるのは失踪者の人数だけであり、有力な情報などが増えることはなかった。つまり、解決の糸口が 見つからず、八方塞がりになってしまったのである。
 八方塞がりだが、しかし事件と断定して捜査を始めた以上は何か形を成さなくては面目が保てない。そうこうしているうちにまた一件失踪が 発覚する・・という袋小路に追いやられた憲兵のイーストシティ支部。


 そんな彼らの状況を一変させたのは、国軍東方司令部所属・マスタング大佐の部下であるブレダ少尉からの一本の電話だった。


 最初の事件発覚から、54日目のことである。
















prologue・fin.

















2007/ 1/10 up