人恋しくなるこの季節の、この時間










   絡めた手から伝わるものは













季節の遷り変わりは速い。ついこの間まではこの時間帯でも明るかったというのに、今ではもう西の空にほんのり赤味が残るだけになってしまった。
司令部から見て家は東の方角に位置しているため向かう先の空はすっかり夜の準備が整っている。この次第に濃くなる闇色と肌寒さに少し気分は沈むけれど、 それでも独り歩きではない帰り道は他の何にも換えることができない大切な時間だ。




絡めた手から伝わるものは
相手の気配・・・相手の温もり・・・相手の鼓動
そして     






「少し寒いな」
「ええ、寒くなりましたね」
「こういう日にはやはりシチューだな」
「相変らずお好きですね、シチュー」
横に並んで真っ直ぐ前を見つめて歩く2人は互いの顔が見えない。だが震える空気や声の雰囲気から、ロイはリザが笑っていることを容易に察した。
「む・・・いいじゃないか、美味いんだし。君だって好きだろう?」
逆も同じ。ロイが少し拗ねたことなどすぐに解る。
「好きですよ?ただ、嗜好が昔から全く変わっていないので面白いと思っただけです」
「君のシチューは師匠のところで修行していたころから美味かった。だからシチュー好きが変わるはずがない」
「シチューだけではありませんよ。砂糖とミルクたっぷりの紅茶が好きなところも、甘いものが好きなところも変わってません」
「そうだったかな」
「そうです。当時ウチは貧乏だったので甘いお菓子なんて買えなかったでしょう?なのにあなたは甘いものが好きなので随分と困りました」
「それで甘いミルクティー?」
「精一杯の努力の結果です。そしてその結果、今の貴方まで甘いミルクティーじゃないと紅茶飲まないじゃないですか」
「家に居るときはね。・・・そうか、努力の結果か。それは嬉しいな」
「少し後悔してます」
ふぅ、と軽い溜息の音。けれどもその響きは優しいままだ。
「あぁ、あと蜂蜜がけのパンケーキ」
「あれは父に不思議な顔をされましたね。食事が甘くていいのか、と。お蔭であれ以降父の前では作りませんでした」
「そうなのか?師匠の家でもよく食べた記憶があるのだが」
「・・・・・」
「そうか、ありがとう」
「・・・いえ。私も食べたかったんです、パンケーキ・・・」
なんだお互い様じゃないか、とロイは笑う。リザの照れ隠しが十二分に含まれていることを知った上で。


「あ、一番星ですよ」
「金星だな」
「・・・・・」
「どうした?」
「・・・その言い方はあまりロマンチックではない気がします」
「錬金術師は科学者だから、性分だよ。・・・君の夫はそういう男だ」
「そうですね・・・そうでした」
「ははは。それでも一緒に居てくれるんだろう?」
「ずっと、です」
「あぁ、そうだったな。嬉しいよ」
「・・・はい」






薄暗い帰り道に2人
見上げた空には星一つ










絡めた手から伝わるものは
相手の気配・・・相手の温もり・・・相手の鼓動
そして、相手の何気ない優しさ




絡めた手から伝えるものは
今この瞬間の、幸せ

















fin.

















2006/11/1 up