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捏造度高いです!ご注意ください!!



















 突然の訪問にも関わらず、リザは笑顔でエドワードを迎え入れた。
 エドワードが通された居間は南向き。午後の陽に満ちた空間は久方ぶりながらも以前とあまり変わらない姿を彼に見せる。 家具の暖かみのある造りと色調は相変らずだし、どこか妻子自慢が得意だった男の家を思わせたりするところも変化はない。
     いや、写真が少し増えたか・・?
 そんなことを思いながら、エドワードはお茶を淹れているのであろうリザを待っていた。















  花が咲いた















「お待たせ」
 澄んだアルトが聞こえた方へ振り返ると、リザがゆっくりとお茶を運んでくるところだった。
「全然待ってないよ・・・というか、お腹大きいのに無理させてゴメン」
「あら、無理はしてないから大丈夫。動きが緩慢になるけれど、気にしないで頂戴ね」
「うん・・」
 エドワードの正面に座ったリザは淹れてきたミルクティーに口をつける。そのお腹には命が宿っていて、 純粋な重量以上に重そうだとエドワードは思った。
「チビはまだ学校?」
「えぇそうよ。あの子も7歳だもの・・・まだ授業を受けている時間だわ」
 そう言ったリザは嬉しそうに微笑んだ。
 ロイとリザの一人目の子どもは今、学校に通っている。両親が家庭教師による教育ではなく、 他の子どもたちと共に学ばせることを希望したからだ。登下校は一応護衛が付くものの他の生徒と基本的に扱いは変わらない。 格別身体が小さいわけでもないのだが、エドワードは『チビ』と呼んでいた。
 『チビ』が増えてから益々この家は暖かくなった、とエドワードは思う。具体的な言葉では言い表せない、ほんの 些細な変化かもしれないけれど。でも、居間に射す陽光ですらほかの場所よりも暖かく感じるのだ。
 そんな家の中、最も陽を集める出窓に置かれた一つの鉢がエドワードの注意を引いた。
「リザさん、あのサボテン・・前からあったっけ?」
「この家に越してきたときから、ね。あの人がイシュヴァール戦のすぐ後から育てていたみたい。 今もあの人が世話をしているけれど」
「ふぅん・・・・・花は造花・・?」
「いいえ。本物よ」
 ぷっくりと丸い緑の身体に、鋭い棘に似合わない可憐な花がいくつも咲いているサボテン。 あれにロイが水を遣っている姿を想像して、エドワードの口端が緩むが、
「名前はトゲミドリ2世」
「・・・・・・・・・・・・」
 あまりのネーミングセンスに思わず固まってしまった。
「枯れてしまったのが1世。最近あの人から話を聞いたかしら?」
「・・・・わかった?」
「『造花』でピンときたわ」
 そう言ってリザは朗らかに笑う。その様を見て、エドワードの思考は彼方に飛んだ。
 自分が記憶しているリザはこんなに笑う人ではなかった。確かにリザはいつも自分と弟に優しかったが・・しかし 顔は常に微笑み程度で、楽しそうに笑ったところなんて見たことがなかった。だからなのか     自分は今、目の前にいる女性が・・・記憶の中の女性と同一人物だと解っているにも関わらず、異なる人のように感じている。
 一体なにが彼女を変えたのか。・・・やはり時間だろうか。それともあの男なのだろうか。・・・子ども・・?
 いや、原因がなにであってもよいが、とにかくあの殺伐とした軍の中では得られなかったものを手にした結果、今のリザが いるのだ、とエドワードは思考を結んだ。
    人は変わる。気付かないところで。
    そしていなくなる。手が届かないところへ。
 あるわけがないにも関わらず、不意にロイの声が聴こえたような気がして・・・エドワードに釈然としない焦りが募っていった。




「あの・・リザさん・・・・」
「・・・なに?」
 真っ直ぐに向けられたリザの顔を直視することができず、エドワードは視線を逸らす。 それでも弱々しく零れたエドワードの言葉は、リザの耳に届くには十分な大きさをもって静かな部屋の中に響き渡った。
      ずっと傍に・・いて、ほしい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・これ、プロポーズに・・聴こえる・・・?」
「そうね・・・それはウィンリィちゃんに伝えたい、一番の気持ちかしら?」
「・・これ以外、思いつかないんだ」
 エドワードは眉根を寄せて心底情けない表情を浮かべる。
「きっと大丈夫よ。ウィンリィちゃんならわかってくれるわ」
対するリザは相手に心からの笑顔を贈った。




 コチコチと時計の音が鳴る中、陽の色が薄っすらとオレンジ色を帯びてきた。そろそろ元気いっぱいの『チビ』も 家に帰ってくる頃だろう。
 ティーカップを片手にエドワードが帰る旨を伝えようとしたとき、なぜかリザが溜息を吐いた。 その顔はいわゆる『困った笑顔』というもので、エドワードの頭の中にはクエスチョンマークが浮んだのだか、
「でもね、エドワード君。いくら不安だからといって、ウィンリィちゃん以外の女の人に軽々しくプロポーズの言葉なんて 言うものではないわ」
 ごほっ・・!
 すっかり失念していた重要事項に、今更ながら慌てたエドワードは咽てしまった。
「次は本番にするか・・・・練習するのなら一人でしなきゃダメよ?」
「わわわわ・・わかってるよ!ごめんリザさん、さっきの忘れて!」
「エドワード君も約束を守ってくれるなら。等価交換ね」
「守る守る!絶対ウィンリィにしか言わないから・・・・つーか少将に知れたら俺、焼き殺されるんじゃ・・・」
「頑張ってね、エドワード君」
     なにをだ!?
 赤くなったり青くなったり忙しいエドワードに対し、リザは一貫して笑顔であり、 優雅に紅茶を飲む姿は少将夫人に相応しいと言えた。
「俺もう帰る。お茶ごちそうさま。チビによろしく」
「えぇ、また遊びに来てね」
 エドワードを見送るため、リザはゆっくりと立ち上がる。そんなリザをチラリと見ながらエドワードは尋ねた。
「・・・・・・またサボテンの花・・見に来ていい?」
 薄黄色の、どこかウィンリィの髪の色に似た可憐な花。
「いいけれど、サボテンの花は春の短い間だけしか咲かないから・・また来年の春・・・ウィンリィちゃんと二人で見に来て頂戴」
「・・・・・ありがと」
リザの答えは即答だったが、条件付のお許しにエドワードは少し困ったような笑顔を返した。


 その後、玄関にて短い別れの挨拶を交わしてエドワードは帰っていったのであるが・・ その後姿は昔と変わらず危なっかしくも頼もしく、そしてなにかが吹っ切れたようであった。



























 リザが居間に戻ると例のサボテンが目に付いた。エドワードはこれからリゼンブールに帰るのだろうか。 次の春を待たずとも、また近いうちに2人で顔を見せに来てほしいものだ。 そして、初々しさの残る笑顔を見ながらいろんな話ができたら     ・・・・






「来年も綺麗に咲くといいわね」


 優しく響いた呟きは、微笑みと共にオレンジ色の光にそっと溶けていった。

















fin.

















2007/2/8 up
2007/4/22 訂正