まるで、金色の水面のようだった。 舗装されていない小道は荷馬車がやっと通れる程度の農道で、あるいは歩いた方が目的地に早く辿りつけるのかもしれない。荷台の上で揺られながら、リザは普段の生活では考えられない ほどゆっくりとした時が過ぎていくのを感じていた。 収穫の時期を迎えた小麦は黄金色に色づき、農夫たちが懸命に刈入れを進めている。 一見穏やかな作業に見えるが、その実、かなりの重労働だ。 しかし、彼らはまた糧を育てる。明日につながる今日を生きるために。 それが、彼らの日常なのだ。 そこまで考えたリザの脳裏を掠めたのは数ヶ月前まで在った戦場だった。 仄暗い、記憶。一瞬だけ、眩暈のように目の前が暗くなる。 だが・・・ 「子どもたちも真剣だな」 向かいに座っていたロイの声に、はっと我に返った。 今は護衛中・・と思い直しながらロイの視線の先をたどると、少し離れた農道に小さな子どもたちの塊が見えた。まだ鎌を持てない年頃の子どもたちは、大人の仕事の邪魔にならないように自分たちで遊んでいるのだ。 黄金色とは対照的な緑の絨毯の上にしゃがみ込んで、なにかを探している。 ( よく目を凝らして、緑の絨毯の正体に思い至った。同時に、懐かしさが込み上げる。 まだ世界を知らない少女だった頃、リザもよく四つ葉のクローバーを探して遊んでいた。『いいことがある』『願いが叶う』と本気で信じていたのだ。実際に願いが叶うことはなかったけれど。 (無邪気、ね・・・) リザが信じなくなったものを、幼い子どもたちは信じている。リザに見えるものは子どもたちに見えなくて、だけどリザに見えないものが子どもたちには見えている。 これがきっと、大人と子どもの差。 (・・・・それでも・・) リザは視線を正面に戻した。 相変わらずロイは荷台の縁に片肘をついて、郷愁を思わせる風景を眺めている。その瞳はとても穏やかで、まさか彼がイシュヴァールで英雄と呼ばれた殺戮兵器だとは誰も思わないだろう。 (私にとっては、この人が・・・) 四つ葉のクローバーよりも、よほど確かな幸福の導に思えるのだ。 確かに、四つ葉のクローバーは優しさと希望であふれている。だが、それだけでは足りない。 人の醜さや愚かさを知っていて、それでも「生きて皆でこの国を変えてみせよう」と すべては、ゆずれない願いのため。 民族や出身など関係ない、人々が幸せに暮らせる国へと変えるために 「守るべきもの、だわ・・」 リザはぽつりと零した。独り言よりもさらに小さな呟きだったが、ロイにも届いたらしい。次の瞬間には、ばっちりと眼が合った。 ロイのきょとんとした顔は、すぐに微笑へと変わる。 |