ひどく思いつめているような硬い表情を崩さない後輩を鏡越しに見遣って、ミレイは苦笑した。 後輩といっても勤め先であるテレビ局の後輩ではなく、小学校・中学校・高校を通しての後輩だ。付き合いの長さも手伝ってか、かわいい後輩の悩みの原因は察しが付いている。 「こらこら、お仕事中にそんな貌しないのー」 「・・・っ、会長〜〜〜」 だからわざと揶揄するような助け船を出せば、素直な彼女は案の定すんなりと乗ってきた。 行方不明だったルルーシュが帰ってくる。しかも、絶世の美女を連れて。 シャーリーは昔から何事に対しても一直線に進んでいくタイプだった。それが恋愛のことになると殊更で、しかし向かうべき方向から逸れてしまっても構わずに突猛進するものだから、軌道修正 がひどく困難で、ついつい周りを巻き込みがちになる。 高校卒業後に美容・理容専門学校へ進学して、一度は都心にあるヘアサロンに就職したのに、すぐに下町に帰ってきた。高校生のときに病気で父親を亡くしているから、たった一人で美容室を 経営している母親を助けたいという想いもあったのだろう。 しかしシャーリーをよく知る者は、それだけが理由ではないことを解っていた。 同じ下町出身で、現在は行方不明のルルーシュに、シャーリーは片思い継続記録を更新中である。 終着点が見つからなかった恋はいつまでも彼女の中で燻って、いつまでも彼女を苦しめた。次の恋なんて色づく余地もない。だから潔いシャーリーはとことん自分の恋と付き合う覚悟を決め、下町に帰ってきたのだ。 ルルーシュと逢えるとすれば、彼の最愛の妹が暮らす、この下町が確率的には一番高い。そう 踏んだからこその、下町への帰還だった。もちろん母親を想う気持ちにも、下町を大切に思う気持ちにも嘘や偽りはない。しかし、恋する乙女の栄養源はやはり恋なのだろう。 それでも期待と不安に満ちた下町生活から一ヶ月経ち、半年経ち、一年経ち・・・結局ルルーシュに逢えないまま、年月だけを重ねてしまった。恋のバイオリズムも減退期の底が見えずに悩んで いる。そんなときに聴いた噂だったから、余計にシャーリーは落ち込んでいた。 やっと想い人に逢えるのに、もう失恋が確定しているなんて哀しすぎる。 もやもやとした感覚が胸から離れなくて、ここ数日は思いつめたような貌ばかりしていた。商売道具であるハサミに影響が出なかったことだけは不幸中の幸いだろう。 「ルルちゃんが出て行ってから、もう随分と経つのねー・・」 「・・・・・そうですね・・」 沈んだ声で相槌を打ちながら、シャーリーは慣れた手つきでミレイの髪を梳いていく。 一方、話をするか雑誌を読むかしかできないミレイは、まるで軽い世間話のようなノリでその話題に触れた。本当はミレイにとっても決して軽視できる話題ではないのだけれど、彼女の方は シャーリーとはまた違った意味で心に決めていることがあるのだ。 だから、言えた。 「ねぇ、シャーリー・・・可能性ってさ、諦めたときに初めてゼロになるんだって知ってる?」 「・・・会長・・?」 「だからさ、どーんと当たってくればいいじゃない」 砕けたときは私が受け止めてあげるからさ、とミレイは続ける。恋する乙女にとっては冗談でも聞きたくない言葉だったりするのだけれど、ミレイが言うと厭味に聞こえるどころか、とても頼もしく 聞こえるのだから不思議なものだ。 シャーリーが手を止めると、鏡越しに見えたミレイは笑っていた。シャーリーがひそかに目標としている、優しさに満ちた大人の女性の笑顔。それに後押しされて、萎みかけていた恋のパワーが少しだけ回復する。 素直で何事にも一直線な性格は、舵の取り方さえ間違えなければ限りなく強さを発揮するから。 「会長・・・私、今度ルルに逢えたらちゃんと言います。好きだ、って」 「ん、その調子その調子! やっぱり女の子は恋をしてるときが一番かわいいわねぇ」 悩んで、立ち止まって、振り返って、それでもまた前に向かって歩き出して 進化して、いくのだ。 |