生きる理由を見つけることができなかった。 生きていく意味を見つけることが、どうしてもできなかった。 親もなく、兄弟姉妹もなく。施設からは早々に追い出され、しかし学がない少女が独りで満足に 生きていくには厳しすぎる世の中で、初めのうちは人に頭を下げて一生懸命に生きていたはずなのに・・・いつしか生きること自体に絶望して。最後の最後に拾ってもらったパブでも引き攣る顔で 無理に笑うのがひどく苦痛で、なかば自棄を起こして無愛想・我儘な女を演じてクビになることを願っていたら逆に客受けが良くなって、辞めようにも辞められなくなって。ベタベタと触ってくる酒 臭い客が嫌で嫌で仕方がなくて、内心では半泣きになりながら、それでも何故かズルズルと続けていた。 もう死んでしまいたいと、いつも考えていた。 なのに、考えるだけで実行に移さなかった・・・いや、移せなかったのは、怖かったからなのかもしれない。 そんな、臆病者の理由をつけて、ずっとずっと生に縋っていた。 だけど、あの日。一段と寒さが増した、晩秋の夜。 店が閉まった後で客の一人に連れまわされて、酔いつぶれて、持ち帰られるのだけは全力で拒んだけれど、気が付いたら見覚えのない路上で転がっていて。このままでは確実に凍死すると 解っていたけれど、それでもいいかと瞼を閉じた。 それは、すべてを諦めた瞬間だった。 それは、すべてに終わりを告げた瞬間だった。 なのに トントントントントン・・と一定のリズムを刻む小気味好い音によって、C.C.は目が覚めた。 暖かい布団の中で寝返りを打つと、台所に立つ男の斜め後ろ姿が視界に入る。ご丁寧にエプロンまでして、真剣そのものの貌で包丁を握る姿は様になっているようで、実は非常に笑える。 見慣れた光景。 ほぼ習慣化してしまった、寝覚めの風景。 しかし、当然のことながら初めてのあの日はかなり混乱した。夢でも見ているのか、それとも生まれ変わったりでもしたのかと本気で思ったのだ。二日酔い特有の鈍い頭痛と見知った自室に よって、すぐに違うと悟ったのだけれど。 その後、C.C.は台所に立っていた見知らぬ男にさんざん怒られた。潰れるほど酒は飲むな、だとか、こんな季節に外で寝るな、だとか、仮にもお前は女だろう、だとか、とにかく怒られた。そのと きC.C.の中には確実に反発心が芽生えたけれど、喧嘩腰ながらに話が深くなるにつれて男の態度が軟化して、最後には「俺がこの世界を変えてやる」 とまで言われると、逆にその人となりに興味が湧いて。 気が付けば、ごく自然にふたりで生活を始めていた。 「 「ん・・おはよう、ルルーシュ」 何気ない会話が、当たり前になっていた。 ルルーシュと出逢っても、C.C.の実質的な生活に大きな変化は生じなかった。バニーは変わらず続けているし、懐かない猫のような性格はすっかり定着している。 でもルルーシュと出逢ったことで、些細な変化はいくつも起きた。 そのひとつが食生活である。起床が昼近く、夜は酒の場に居るC.C.は基本的に一日二食しか食べない。以前はそのどちらもがデリバリーのピザだった。ところがそれに猛反発したルルーシュに よってピザは一日一食、Sサイズ一枚に制限されてしまったのだ。もともと販促品のぬいぐるみ目当てで始まったピザ生活だったのでC.C.に異存はなかったのだが、嫌そうな貌をしてみたところ、 毎日ルルーシュが食事をきっちり用意してピザを注文できない状況を作り出したものだから、C.C.にとってのブランチ、ルルーシュにとっての昼食はルルーシュ手製のごはんをふたりで食べるのが習慣化してしまった。 施設育ちで独り立ちも早かったC.C.は掃除や洗濯、もちろん料理だって出来る。ただ、ブツブツ と文句を言いながらも結局は世話を焼いてくれるルルーシュを眺めるのが楽しくて、ついルルーシュ任せにしてしまうことは否めない。 だが実際、ルルーシュの作ったごはんはとても美味しかった。栄養士たちが機械的に作る施設のごはんなどとは比べ物にならないくらいだ。 だから今日も『おふくろの味』の味噌汁を堪能して、カボチャの煮物に箸を伸ばす。挽肉入りの 餡がカボチャに程よく絡んで、食べやすい。やはり寒い季節には暖かい煮物だな・・などと内心独り言ちたC.C.は、正面に座るルルーシュの箸が止まっていることにふと気が付いた。 厳しい表情のまま、ルルーシュは手元あたりを凝視している。よく見れば顔には疲労の色が滲んでいて、目の下にはうっすらと隈があった。料理の出来に満足していないのとは違うルルーシュの 様子に、C.C.は小首を傾げる。 ルルーシュが最近、資金調整に勤しんでいることは知っていた。事前に聞いていたので、昨晩は予定通りに実家へ行ったのであろうことも予測はできた。しかしC.C.は一度眠りに就いたらかなり 豪快に寝てしまうため、先に就寝してしまった昨晩、帰宅したルルーシュが布団に潜り込んできたのかどうかは全く分からない。 「ルルーシュ・・?」 声をかけたのは、心配したからというわけではなかった。ただ何となく、気になっただけである。 しかしルルーシュは何も答えず、おもむろに茶碗と箸を置いた。その思いがけない行動に、今度はC.C.がきょとんとする番だ。 きんぴらごぼうに伸ばしかけた箸も止まる。 「C.C.」 「・・なんだ?」 正面から見つめてくる紫の双眸の力強さに圧されて、茶碗を置くことさえできなかった。 「今の仕事を辞めて・・・・・・・・おでん屋を・・やらないか?」 |