言の葉の先 考えても意味のないことが脳裏をふと過ぎるのは、日々の中でもちょっとした空白の時間だ。 明らかにして何があるわけでもない。 しかし好奇心を満たしたい欲求は少なからずあるわけで、さして重要でもないことだからこそ、ルルーシュは気兼ねなく言の葉を紡いだ。 「そういえば、続きは何だったんだ?」 「・・・え?」 C.C.にしてはめずらしい、毒気を抜かれたような声。顔を上げれば、彼女は目をまんまるに瞠ってルルーシュを見つめていた。 まぁ、いささか唐突だったことは認める。意味が通じないのも無理はないだろう。 しかし、だからといってそんな驚き方をしなくてもいいだろうに。 C.C.の意外性に満ちた幼い表情に口元が弛みそうになるのを制しながら、ルルーシュは補足する。 「初めて会った日、毒ガスと称して運ばれていただろう。その輸送トレーラーが事故を起こしたから助けに行ったんだが、そのときお前の声が聞こえた。“見つけた、私の・・・”、と」 その続きを聞かせろ、と。ルルーシュが云いたいのはそういうことだ。 あの日、あのとき。 あの事故はルルーシュ自身には関係のない、そのまま立ち去れば夕方には記憶からも立ち消えるような、そんな一場面だった。 誰か助けを呼べだとか、他人任せで自らは面倒事を厭う野次馬たち。あのときルルーシュが単身で救助に向かったのは正義感でもなんでもなく、ただ彼らと しかしその前に見かけた不思議な光がまったく気にならなかったわけではないのだ。 今にして思えば、あれはC.C.の姿を形作っていた。あの光も声も、その後の出来事が衝撃的すぎて記憶の彼方に追いやられていたが、決して軽視できるものではなかったというのに。 しかしC.C.には覚えがないのか、不思議そうな表情は変わらない。「お前と会う前・・?」と呟いているところを見ると、記憶を辿っているのだろう。続きを促すために余計な発言は避け、ルルー シュはルルーシュで記憶を反芻する。 やはりどう考えても、あれはC.C.の声だった。 ルルーシュは今までに何度か同様の、謎の声を聴いた。『謎の』というのは、例えばC.C.が死亡していたり周囲に居た者たちに聞こえていなかったりと、いずれも空気を介して伝えられる声帯の 振動によるものとは考え難い状況下で聞こえた声だったからで、あれはおそらく相手の脳に直接思念を送る、いわゆるテレパシーのようなもので語りかけていたと考えるのが妥当だろう。それな らばトレーラーの外壁を隔てたルルーシュに声を届けることだって可能かもしれない、等々。 ルルーシュはひとりで満足そうに納得しいてた。 そのとき、不意にC.C.の視線が上がる。 大粒の琥珀は相変わらず不思議そうな色を湛えながらも、なぜか口元はゆるゆると薄く笑みを描いた。 不穏な気配。それを敏く察知したルルーシュの背にざわりと寒気が走る。 しまった、と思ってもすでに遅い。防御態勢が整わないまま、手痛い攻撃が繰り出される。 「“私の”?」 その言葉を聴いた瞬間、頬にカッと熱が上った。 例の声が聞こえたのはルルーシュがC.C.と直接まみえる前。その時点で“私の”と聞こえたということは、彼女にとって特別な存在なのだと、そのときから意識していたと云っているようなもの だ。たとえルルーシュにそんな意図が皆無だったとしても、C.C.が思い込んだままではどうしようもない。 とりあえず揶揄するような眼差しを止めさせようとルルーシュが息を吸い込んだところで、「私に覚えはないが」と前置きをしたC.C.の、あっけらかんとした声が響いた。 「あのとき云ったとしたら、“見つけた、私の『友人の息子』”だろうな」 「・・・・・・・・・・・・・・・はァ?」 あまりに予想外すぎる回答に思わず、本当にうっかり間抜けな声が出てしまった。ルルーシュは慌てて表情を取り繕ったが、C.C.は気にした様子もなく「契約する前なのだろう?」とコトリと小首を傾げる。 肩から零れる、癖のない緑髪。それを無言で眺めていたルルーシュは、何やら釈然としない感情を持て余していた。 出逢う前のことなのだから仕方ないと解っている。だが第三者を介して、しかもよりによって母マリアンヌの息子として認識されるだけの関係だと明言されたのだ、これでいい気分など味わえるはずがない。 「どうした、怒った貌をして。気に入らなかったか?」 クスクスと笑いながらC.C.が顔を覗き込んでくる。 怒っているわけではない。でも多少臍を曲げているのは事実。C.C.の云う『怒った貌』とやらを改めることもなく、ルルーシュは沈黙を守り通した。 ふと、C.C.の眼差しが優しくなる。 宥めるような、慈愛に満ちているような。 細められた瞳の幅は変わらないのに放つ雰囲気が格段にやわらかくなって、ルルーシュは僅かに目を瞠った。 「過去は過去だ。今は違うのだからいいだろう?」 美しい琥珀の瞳に揶揄の色はない。 だからだろうか、C.C.の反応など能々吟味せずにスルスルと言葉が出てしまったのは。 文字通り目の前に流れる髪を一房指に絡め、問う。 「では、今は?」 間に誰も介さない、ルルーシュとC.C.の関係。それに既存の言葉を当て嵌めるとしたら、どれがより正確なのか。そもそもC.C.は何を選ぶのか。 今のいままでぶつけることを避けていたこの疑問に対するこたえが思い掛けず手に入りそうな状況に、ルルーシュの期待は膨らむ。 ・・・いや、まったくの想定外と云えるのだろうか。意図的に会話を誘導したのではないとはいえ、こんな話題を振れば、遅かれ早かれ同じ質問に辿り着いていたことは明白なのだから。 ルルーシュが手の内を明かしていない状況では回答を拒否されるか、逆に問い返される可能性もある。その場合の有効的な返答を計算していたルルーシュは、しかしC.C.の唇端が上がるのを見た。 綺麗な弧を描く、薄桃色の唇。 「お前は、私の、」 果たして、C.C.のこたえは
『言の葉の先』 2014/ 4/23 修正して再up |