斯くして女神が微笑んだのは ひどく、おどけた声が聞こえた。 俺のことを『ルル』と呼ぶ者は少ない。シャーリーか、もしくは会長が『ちゃん』付けで呼ぶかのどちらで、それが男となると皆無のはずだ。 しかし不思議なことに、いま、聞き覚えのある声に『ルル』と呼ばれている。 その、神経に障る甲高い声。 胸騒ぎがしてあたりを見回すと、墨を溶いたような闇の中から次第に人影が浮かび上がった。 一歩、また一歩と近づいてくるのは、長身痩躯の若い男だ。 銀色の髪に、紅い瞳。猫背の所為でせっかくの長身を台無しにしている男 しかし、突如として現れたマオではなく、あいつが抱き上げているものにこそ俺は息を呑んだ。 ぐったりとした様子で抱えられている、拘束衣姿のC.C.。白い顔はさらに血の気を失い、琥珀色の瞳は閉ざされている。 外傷はないようだが、異常があることは明らかだった。 あの、驚異的な治癒力をもつ、C.C.が。 「ッ、・・・そいつに何をしたッ!」 「んん〜〜〜?? C.C.は僕のC.C.なんだからぁ〜、何をしようと僕の自由だろ〜」 C.C.を抱えてさえいなければ、マオは今にも手を叩きだしそうだ。 まるきり子ども染みた男に苛立ちが募る。 誰がお前のだ、誰が。 第一、いつC.C.と接触した。 そいつは、 「違うぞ、マオ!そいつは俺のッ そこでルルーシュはハッと目が覚めた。 今まで目の前にあった光景がすべて夢であったと悟るのに、ここまで時間を要したことはない。 暖かい、ベッドの中。 ルルーシュはC.C.に抱き締められるように横たわっていた。 眠りについたときはいつものようにC.C.を後ろから抱き締めていたというのに、それが何故かC.C.の胸に顔を埋めるような形で、しかも厚手の上掛けを頭のてっぺんまで被っている。 ・・・・・もしかしたらこの寝苦しさが夢見の悪さの原因かもしれない。 頭を拘束する腕を解いて上掛けからモゾモゾと這い出たルルーシュは、起床には早い時間であることを確認してから再びベッドに潜り込み、夢の内容を思い返した。 マオにC.C.を奪われそうになるとは、なんとも面白くない夢だ。 いま隣で眠っているC.C.はまったくの無関係であるのに、お前も少しは抵抗しよろ、と理不尽なことを云いそうになって、ルルーシュは慌てて口を噤んだ。しかし結局子ども染みた嫉妬心を抑え きれなくなって、C.C.の首元に顔を埋めて薄い皮膚を遠慮なく吸い上げる。 マオの動揺を誘うために吐いた嘘が真実になろうとは、あのときは考えてもいなかった。 ・・・・・いや、あのときも相当無茶な行動をとったのだが。それでも夢の中の出来事に腹を立てて所有痕を刻みたくなるような関係になるとは、そして自分がそんな男になるとは微塵も想定してい なかったのである。 それが紆余曲折の末にこの関係に落ち着いているのだから、あのときの選択は正解だったのだと、今さらながらルルーシュは満足した気分になった。 「残念だったな、マオ」 まるきり小馬鹿にするような調子で呟き、夜目にも鮮やかな痕に目を細める。 瞼を閉じれば、地団駄を踏んで悔しがる、集合無意識内のマオの姿が見えた気がした。
『斯くして女神が微笑んだのは』 2014/4/27 修正して再up |