ぽたぽた落ちる


 バシッ・・・バシ、バシンッ・・と、散発的に弾ける火花。
 薄闇の中で恒常的に灯るのは蝋燭の焔。

 線香花火。

 いきなりこんなものを持ち出してきた女に出処を問えば、ニッポンを出るときに荷物の底にこっそり隠していたのだと、平然とした貌で返された。
 それでよく空港を通ったな、と、今になってヒヤリとした感覚に襲われるとは不愉快である。
 しかも、花火などというものはただでさえひと夏のうちに消化すべきものであるのに、保存の仕方が悪かったのだろう、季節をひと廻りした今となっては火薬が湿気っていて、肝心の火がなかな か点かないのだ。・・・・・もしくは、火花の勢いが驚くほど弱々しいか。
 ニッポン人はなぜこんなものを後世に伝え遺してきたのか疑問に思うほど、地味な遊びである。



「あ・・・落ちた」

 ぽつりと零れた呟きに傍らを見遣れば、地面に落ちた火球をじっと見つめる女の姿が目に入った。
 落ちてしまったものは戻らないというのに、何か感じるものがあるのだろう。しばらくそのまま固まっていたC.C.は、しかしふと思い出したように新たな線香花火を一本手に取る。
 だが、すぐには火を点けなかった。


 理由など単純だ。
 C.C.の考えていることなど、手に取るように分かる。
         呆気なく散るこの灯火に、人の生命を重ね見ていることくらい・・・。


 くだらない感傷だとルルーシュは思う。
 しかし、極力他人と関わらない生活を送り、不老不死となった年月も実感も得ていないルルーシュでさえ多少は感傷的になっているのだから、人の生き死にと共にギアスを紡ぎ、その裏で心を 痛めてきた魔女が、似合わない感傷を持て余してしまうのも道理と云えば道理なのだ。


 ぽとり、と。ルルーシュが手にしていた線香花火も呆気なく散る。
 だがC.C.とは違い、ルルーシュは新しい線香花火にさっさと火を点けた。
 残りの本数も少ないから、後日改めてしようという気にはなれないのだ。・・・それに、ルルーシュはルルーシュでくだらない感傷を持て余しているから、一刻も早く切り上げたいと急く気持ちもあった。


 儚く地に落ちる、線香花火。
 こんなふうに呆気なくこの女を失わなくてよかった、などと。
 らしくもないことを考える自分自身がひどく不慣れで。


        そんなことを考えていたら、C.C.が不意に顔を上げた。 かと思えば、火を点けたばかりの線香花火の先をルルーシュの線香花火に近づけてくる。

「っ、おい・・」

 せっかく火球が安定し、比較的力強い火花が散り始めたところだったのに、ルルーシュの制止の声は功を奏さず、二本の線香花火はひとつに溶け合って、また火球を形成する段階にまで後退してしまった。
 ジジジッと、いかにも熱そうな音をたてて膨れていく線香花火の先。
 小さく火花が散っているのは、先に火をつけたルルーシュの線香花火の影響だろうか。
 松葉のような細い火花が放射状に散る様は、まるで小さな打上花火で。
 いくら二本で支えているとはいえ、火球の質量が大きいから、少しでも余計な振動を与えると呆気なく落ちてしまいそうで、ふたりの間を通り抜けていく涼やかな風にさえルルーシュは殺気を向けたけれど。

 努力の甲斐も空しく、二本分の線香花火は音もなく地に吸い寄せられていった。

「なんだ、失敗か」
「〜〜〜〜C.C.・・」
「お前なら何とかしてくれるかと思ったんだが」

 ちら、と上目遣いに見上げられて、ルルーシュはグッと言葉に詰まる。
 焚き付けるような物云いをされると反発したくなるのはいかにもルルーシュらしいところであり、悪い癖だ。C.C.が相手となると特に顕著になるし、それは以前も現在も変わらない。

「・・・無茶云うな。線香花火だぞ」

 そして、口では無理だと云いながらも、頭ではC.C.を見返してやる手段を必死に模索してしまうところも変わらないのである。
 線香花火を最後まで散らさない方法なんて極力揺らさないように持つことくらいしかないのだから、さすがのルルーシュの頭脳も宝の持ち腐れではあるけれど。

「今度ニッポンに行ったら、もっと勢いのある花火をしてみたい」
「行く機会があれば、な」


 こんなふうにくだらないことに頭を悩ませることも、今では生活の一部になっているのだ。






『ぽたぽた落ちる』


2010/10/ 4 修正して再up