真実は闇の中でも


 ソファーで新聞を読んでいるルルーシュが最高に不機嫌な貌をしていることに気が付いたC.C.は、しばらく放置しておいたものの、やはり気になって「どうした?」と背もたれのうしろから声を掛けた。
 途端にずいっと付きつけられる新聞。
 気は進まないものの声を掛けてしまった以上は無視するわけにもいかなくて、C.C.は示された記事にしぶしぶ目を通していく。
 合点はすぐに行った。


「・・・・・またか」


 “悪逆皇帝の影にひそむ美女の存在”       そんな見出しで悪逆皇帝に関する新しい論文の発表が報じられている。なんでもルルーシュ皇帝には寵愛していた女性がいて、彼女のために 帝国どころか世界さえも手に入れ、彼女の望むがままに悪逆の限りを尽くした、というものだ。
 この手の『傾国』説は何もいま初めて発表されたものではないが、最近新たに発見された写真がこの説を裏付ける有力な証拠として働きそうだ、という方向で記事は締め括られている。
 そこにはいつ撮られたのか覚えのない一枚の写真が載っていた。
 カラー刷りの新聞ではないし、主に写っているのは皇帝服に身を包んだルルーシュの後姿である。しかしマントの端から拘束衣の裾とおぼしき服の一部が覗いており、今まで物的証拠がなかっ た『悪逆皇帝は拘束衣の女を片時も離さず連れていた』という元皇宮関係者の証言と一致することから、帝国の運命を狂わせた女性の存在が信憑性を帯びてきたらしい。


「『美女』には違いないのだがな」
「・・・自分で云うな。厚かましい」


 ルルーシュ皇帝は廃嫡させられた恨みから反逆しただとか。
 はたまたルルーシュ皇帝は傀儡で、裏で糸を引いていた人物がいたとか。
 そもそもルルーシュ皇帝は皇族の血を引いていないとか。
 それどころかナンバーズ出身だっただとか。
 人々の記憶に壮絶な最期を刻み込んで逝った悪逆皇帝に関してはいまだ様々な憶測が飛び交い、近代史に多くの謎を残している。
 しかし今回の記事・・・『傾国』説はルルーシュが最も嫌うものだ。
 たとえそれが真実でなくても、少なからずC.C.が気に病むと思っているのがひとつの理由。

          そして何より、ルルーシュの矜持が許さないというのが最大の理由である。

 悪逆皇帝のふるまいや演出は他でもないルルーシュの意思によるものだ。
 すべてはゼロ・レクイエムのため。
 だからルルーシュを憎む声が絶えなくてもルルーシュ自身は一向に構わないし、犯した罪や踏みにじった命を前に開き直るわけではないが、計画通りだと喜ばしく思いさえする。
 C.C.と出会ったからでも、ギアスを手に入れたからでもない。
 ルルーシュが考え、選び、進んだ道。それがだれかによって狂わされた結果だなどと云われるのは、屈辱以外の何物でもないのである。
 本当にプライドの高い男だ、と感心半分、呆れ半分で記事に目を通し終えたC.C.は、新聞相手に臍を曲げてしまった坊やをどう扱おうかと考えを巡らせる。

「フッ・・美女を侍らせるどころか、その実体は女心の分からない童て     ぅわっ・・!」

 唐突にふわりと身体が宙に浮き、ドサリと投げ落されたような感覚を味わった。あまりに突然の出来事に、言葉が途中であることすら忘れてC.C.は目をパチクリさせる。
 視界に入るのは逆さに映ったルルーシュの顔。背景は天井。先ほどよりも拗ねたような表情が少し子どもっぽいな、などと考えてしまったが、ルルーシュに引っ張られてソファーに転がり落ちた ことは明白だったものだから、C.C.は瞳の幅をほんの少し狭めてルルーシュを睨めつけた。

「乱暴だな」
「その不名誉な称号は返上したはずだが?」
「だから、今もそうだなんて云ってないだろう?」

 C.C.と比べれば、ルルーシュの方がよほど感情が貌や態度に出やすい。
 女心が分からないのは今も同じだけどな、とC.C.が淡々と続ければ、ルルーシュは面白くなさそうにそっぽを向いてしまった。
 C.C.はクスリと笑みを零す。
 憎しみの象徴となった悪逆皇帝の実体なんて、所詮はこの程度なのだ。血も涙もない冷酷で残酷な暴君など、ここにはいない。
 乱れたスカートの裾を正しつつルルーシュの膝に頭を乗せたC.C.は、意外と癇癪持ちな男の機嫌をどう直したものかと、再び考えを巡らせ始めた。






『真実は闇の中でも』

理解者が隣にいるから、問題はない


2010/ 5/ 9 修正して再up