「お前に与えてやれるものは・・・何もないぞ」

 そう明言したというのに、腕の力は強さを増した。
 抱きしめられているというより押さえつけられていると表現したほうが正しい現状を、C.C.はどうすることもできない。
 細い細いとばかり思っていたルルーシュの腕は、予想以上に逞しかった。
 こいつも男だものな、とC.C.は今更ながら思う。
 本当に、      今更・・。

「私はC.C.だと、お前もよく知っているはずだ」
     ああ」
「ナナリーが無意識に与えていた安らぎを、私は与えてやることができない」
「分かっている」
「友情の暖かさも、尊敬の眼も、絶対的な崇拝も・・・・・何一つとして、私は・・・」
「それでいい」

 泣いているのかと、C.C.は思った。
 胸にC.C.の顔を押しつける力が、後頭部にまわされた手が、抵抗を許さないから・・・泣き顔を見られたくないのかと思っていた。
 だが、身体に響いてくる声に余分な震えはない。
 つまり、泣いてなどいないのだ。
        では、なぜ?

(・・・こんな、行動を・・?)

 先が読めない人間の相手をするのは苦手だ。
 身体が接している状況も、苦手。どうしても殺しきれなかった動揺が直接伝わる。
 それは、C.C.として赦されないことだから。

「・・・ルルーシュ・・」

 戸惑いを悟られないように意識しながら、牽制の意を込めて相手の名を呼ぶ。緩むと見込んでいた拘束は、しかし力を増しただけだった。
 ぎしりと背骨が悲鳴をあげる。
        苦しい。
 だが・・・・苦しいばかりではないこの行為を、止めさせることができないのだ。
 逡巡の末に、ゆっくりとルルーシュの背に腕をまわす。
 その動きがぎこちなかったことに、羞恥を覚えた。

(なんで・・こんな・・・・)

 過去には契約者を抱きしめて慰めたこともあった。
 許容と慈しみの裏側に、過酷な運命を強要している罪悪感と、願いが遠のく落胆を隠しながら。
 しかし、今はそんなもの感じない。
 ざわりと胸が震えるだけなのだ。
 焦れるように、        歓喜するように。


「傍に、いてくれるんだろう・・?」


 耳のすぐ後ろで囁かれた言葉に、トクリと心臓が跳ねる。


「・・・・・・お前が・・・望むなら」


 その言葉に嘘はない。
 しかし本当でもない。
 魔女と、捧げられし生贄が辿る道筋。
 運命が永遠に交わったままでいられるはずはなく、遠からず、どちらかが先に死ぬ。
 “恋”という想いをはじめて知った今でさえ、契約という名の呪いに縛られる。
 だから・・・・・

(これが純然たる想いだったら・・よかったのにな・・・)


 交わす抱擁すら滑稽に思えて、しかし、どうしようもなく涙が零れた。






『DOOM』

C→←ルル
旧拍手でした


2009/11/22 up