熱暑のトワイライト


 暑かった。
 室内は冷房が利いているけれど、とにかく外は暑かった。
 アーサーが花壇を荒らしてくれたおかげで修繕作業に従事させられ、多少西に傾いてもなお激しい太陽につい先ほどまで炙られていたのだから、暑いのも当然だろう。
 後始末が済んだ直後に汗だけはシャワーで流したものの、身体の内に籠った熱までもがあっさり流れ去るはずがない。加えて、長時間太陽に炙られたルルーシュは元から乏しい体力を根こそ ぎ奪われ、驚くほど疲労感に苛まれていた。
         だからだろうか、ベッドに俯せて雑誌を読んでいるC.C.のことが気になるのは。
 腿を半分も覆わない白のショートパンツに、飾り気のない細見のキャミソール一枚という恥じらいの欠片もない格好・・・・・は見慣れたので、あまり気にならない。
 そうではなく、ルルーシュが気にしているのは      ・・・


「・・・おい、どうにかしろ      その髪・・」
「んぅ?」

 机に肘をついてベッドを見下ろすルルーシュの声に、C.C.は顔を上げた。
 若葉色の髪がさらりとシーツの上で流れる。校内ではおとなしい女子生徒よろしくシンプルなリボンでふたつに結われているその髪は、なぜかルルーシュの部屋においては束縛から解放され ていることが多いのだ。現に今もC.C.の背を伝ってベッドの上に散らばっている。
 確かに、綺麗な髪だとルルーシュも思う。
 めずらしい毛色だが、決して暑苦しい印象を与えるものではない。
 癖ひとつないところはむしろ涼やかだ。
 それでも・・・・・

       鬱陶しい・・!」

 長い髪が首や肩を覆っている事実こそが、今のルルーシュには我慢できなかった。

「はぁ? 鬱陶しいとは失礼だな」
「見ていて暑苦しいんだよ」
「では見なければいいだろう」
「では視界から消えてくれ」

 つまりは『出てけ』と主張するルルーシュに、今度はC.C.の瞳が不穏な気配を帯びる。
 校内は制服着用が原則であるし、寮の自室に戻ればルームメイトのカレンがウエイトトレーニングに励んでいる真っ最中だ。なぜそこまでして体力作りに励むのかは知らないが、それこそ鬱陶し いこと間違いなしだから、夕食までの時間潰しはルルーシュの部屋で、とC.C.は決めていた。
 しかし、ルルーシュはそんな事情を露も知らない。
 せめて髪を結ってくれ、と脳内で盛大に愚痴を零すが、しかし次の瞬間に貌を強張らせた。
 C.C.が微笑んだのだ      驚くほど、艶やかに。
 それはルルーシュにしか見せない微笑みだったりするのだが、嬉しいどころか、その蠱惑的な表情の次に来るものが何であるかを充分理解しているルルーシュにとっては、厄介以外の何物でもない。
 かくして、魔女の一撃は寸分の狂いもなくルルーシュに襲いかかった。


「そんなことを云って・・・お前、女の長い髪、好きだろう?」


 若葉色の髪を指に絡めながら、C.C.は至極楽しそうに云う。
 一方、ルルーシュは絶句した。
 ランペルージ家の母妹は、ともに髪が長い。色の違いはあれど緩くウェーブが掛かったふわふわの長い髪はさすが親子と云うべきか、よく似ていている。
 そこで最悪なのが、C.C.が母妹と面識があるということだった。しかも、ルルーシュが妹を溺愛していることまで知っている。おそらくそれらの情報が先の発言に繋がったのだと思われるが、いく らなんでも短絡的すぎるだろう、とルルーシュは呆れた。

「・・・・・、・・・」

 しかし、暑苦しく見えるC.C.の髪を強制的に束ねてやりたいとは思っても、切ってやりたいとまで思わないことは事実で。
 気付けばC.C.の興味は再び雑誌に移っていて、ルルーシュのことを顧みてもいなかった。
 否定するタイミングをすっかり逃したルルーシュは、ついでにC.C.を追い出しそびれたことに、今さらながら気が付いたのである。






『熱暑のトワイライト』

第12期拍手 (7月19日〜10月4日)
友だちでもなくカレカノでもないけど、一緒にいるのです。


2009/10/ 6 up