体温





 暑苦しさに負けて、意識が浮上した。

 季節は冬である。
 しかも外はようやく空が白んできたころであって、一日の中で一番気温が下がっている時間帯に暑苦しくて目が覚めるとは奇妙な話だった。
       だが、目覚めてしまったものは仕方がない。
 いつもより早いが、部屋を暖めて朝食を・・と考えたところで、ルルーシュはふと気が付いた。彼の薄い胸板にぴったりと顔を押し付けて、C.C.が眠っているのだ。

「・・・・・、・・・」

 ルルーシュがC.C.を抱き枕扱いして眠ること自体はめずらしくなくなった。現に今もルルーシュはしっかりとC.C.の背に腕を回していて、体温を掌に感じている。
 しかし、ふたりが向かい合って眠ることはめずらしかった。
 横臥したC.C.をルルーシュが後ろから抱き寄せる体勢が圧倒的に多いのだ。それはそちらの方が膝がぶつからないとか、ふたりとも少し背を丸めた無理のない体勢で眠れるとか、ルルーシュな りの考えがあってのことだったりするのだが、人は寝ている間にも少なからず運動するもので、向かい合う体勢が初めてというわけでもない。目を覚ますとC.C.の顔が触れそうなくらい至近距離に あって、思わず飛び起きてしまったことも過去に何度かあったくらいだ。
 しかし、今の状況はどうだろうか・・とルルーシュは思った。
 季節は冬である。ということは当然のことながら上掛けは少し厚いものになっていていて、C.C.はルルーシュの胸板にぴったりと顔を押し付ける位置にいるものだから、頭のてっぺんまで布団 に潜り込んだ形になっているのだ。
 ルルーシュが寝巻代わりに着ているシャツをきゅっと掴んで眠る姿は大変かわいらしいが、息苦しくないのかと心配になったり、そこまで寒くないだろうにと呆れたりもする。

「・・・・」

 布団に埋もれた旋毛をしばらく見下ろしていたルルーシュは、そこで我に返った。
 このままC.C.を凝視していても朝食は出てこない。そのことに思い至って、渋々ながらも早速ベッドから出ることにした。
 C.C.から身体を離せばふたりの間にはキンと冷えた空気が入り込み、肌を刺激して脳細胞を本格的な覚醒へと導く。そしてルルーシュは身体を起こしかけて、しかし、ぴたりと動きを止めた。
 「ぅ・・ん」と小さく鳴いたC.C.がさらにシャツを掴んで、顔をすり寄せてきたからである。

「っ、・・お    

 思わず声を発してから、素早く口を噤んだ。再び旋毛を見下ろして注意深く観察して、C.C.が目を覚ました気配がないことにほっと息を吐く。
 だが、これでは身動きできないことも同時に理解していた。
 まったく、こいつは・・と内心で毒突く。
 暖かさを求めて今はルルーシュを離さないくせに、起きたら「部屋が暖まっていない」とか「朝食はまだなのか?」と騒ぐに違いないのだ。その細やかな様子までリアルに想像してしまったルルーシュは、実に渋い表情を浮かべた。
 それでも、縋りついてくるC.C.に愛おしさを感じることは確かだから、結局は折れることになるのだ。
 改めてC.C.の背に腕を回して、掌で後頭部を支えて、苦しさを感じさせない程度に抱きしめた。心境的にはもはや卵を温める親鳥に近いかもしれない。
 親、というのはルルーシュの欲する役ではないのだけれど・・・

 気が付けば、ルルーシュもウトウトと微睡みかけていた。
 空はもうずいぶんと明るくなっていて、陽が昇るのも時間の問題になってきている。
 いつもであれば未練もなく起きられるというのに、今日だけはズルズルと下りていく瞼を制止することができなかった。


 ルルーシュが完全に寝坊したことを知ったのは、それから1時間後のことである。




  第10期拍手 (2月5日〜4月1日)

  ほのぼのルルシー夫婦ssでした。