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   夜伽草子・25


「正しい選択だったのか、考えていた」

 C.C.が発したのはこれだけだった。
 感情を読ませない声色。しかしそこには確かに迷いが含まれている。
        あるいは、後悔も。
 何に関しての選択か、思い当たる節が多すぎてルルーシュの方こそ言葉を失った。
 己の行動には責任を持つべきであると考え、それを実行しているルルーシュは、普段であれば「何を甘えている」と呆れただろう。しかしC.C.に対して選択を強いてきたのは常にブリタニアであ り、いつだって大勢の命をその細い背に負っていた。ある日突然祀り上げられた深窓の姫君には荷が重すぎたのだと納得することはできる。
 ・・・・・・いや、違う。それはただの詭弁だ。
 ルルーシュと関係を持ったことを後悔している、そう告げられるのがただ怖かった。
 意味もなく冷や汗が流れる。喉がカラカラに乾いて、声すら出ない。それだけの時間を要してもC.C.は何も云わなかった。急にC.C.が遠く感じて、ルルーシュは思わず手を伸ばす。掴んだ上腕 は細く、ルルーシュの手指でぐるりと一周掴めるほどで。
 あまりの細さにまた心が騒ついた。
 C.C.は振り返らなかった。視線を寄越す気配すらない。さらに俯く女の肩から髪が音もなくサラサラと零れて、うなじが露わになる。
 白い首、薄い肩、細い腕、幅のない背。
 この女を構成するモノは、こんなにも儚い。


         解っている。考えても無駄なのだと」


 不意にC.C.が零した。
 無理に相槌を打つことはせず、しかし続きを促すようにルルーシュは腕を掴む手に力を込める。

「だが、・・・先人たちが守り抜いてきた国の姿に手を加えてまで生きていく意味が、本当にあるのか・・」
「・・・どういうことだ?」
      城の禊池は、この山岳地帯と水脈で繋がっている」

 禊池。神秘的な光景を初めて見たときの、あの衝撃が蘇る。あの場所の重要性は理解しているつもりで、だからこそルルーシュは奥歯を噛み締めた。
 水脈だとか、そんなことまで知れているということは、この辺りも神聖な地域と考えられているということなのだろう。だからこそ人の手が入らず、そのままの状態で保存されていたのだ。
 C.C.の沈んだ表情にも合点が行く。先人たちが遺してきたものが目の前で壊されていく様を見せつけられて、己が身を傷つけられるのと等しい痛みを感じたに違いない。安い同情では慰めに もならない、そんなことは解りきっている。
 しかし、ルルーシュにとって聞き捨てならないことがあった。
 まるで生きることを放棄したがっているような言葉。より良い明日を求めて今を全力で生きるルルーシュには、死にたがりの考えを抱くことすら許せない。
 触れることを躊躇っていたのが嘘のように、自然と身体が動く。
 背後から抱きしめた身体はいつもより頼りなかった。

     間違っている」
「え・・?」
「間違っているぞ、C.C.」

 耳元で力強く断言すれば、C.C.はわずかに首を竦める。さらに小さくなった背を掻き抱いてルルーシュは続けた。


「生きることを放棄するのは、死者に対する冒涜だ」


 この侵略戦争で生命を落とした者たちは、生きたくても叶わなかった者たちである。その者たちの存在を知りながら死を望むのは最早無神経でしかない。
 ましてやC.C.は責ある立場の人間だ。市民に生を放棄させることなどできないだろうに。
 何より、先のアリエス襲撃事件でルルーシュは思い知った。家族に生きていてほしいと、強く願う自分を。しかし大切なのは何も家族だけではない。友人、仲間、恋人など、人は自らを取り巻く多 くの人たちが変わらず在ることを望んでいるはずだ。
 生きる上で必ず苦しみも味わうだろう。しかし死んでしまっては苦しみ以上の幸福を手にすることも出来ない。すべては生きていてこそ、だ。
 そして、自らの最期を自分で決めるのならともかく、信頼していた統治者に命じられて生命を断つのではあまりに遣る瀬ないし、不幸でしかない。自国民にそんな道を強いる統治者は統治者として失格である。
 C.C.も頭では解っているのだろう、反論はなかった。
 ルルーシュもC.C.を責めたいわけではないから、それ以上何も云わない。
 気まずい沈黙がふたりの間に落ちる。

「C.C.」

 多少強張っていても尚やわらかい女の身体。肩口に顔を埋めて呼びかけると、C.C.はピクリと身体を揺らした。


「生きていなければ、俺たちが逢うこともなかった」


 それでもお前は死を望むのかと問えば、抱き竦められながらもC.C.はふるりと首を横に振る。その答えにルルーシュは心底安堵した。
 ふたりの出逢いは意味あるものだったと、他でもないC.C.が認めているのだ。
 そして、この関係も。
 胸にじんと響くものがあって、ルルーシュはあらわになったC.C.の首筋に唇を落とした。途端に暴れ出した痩躯を抱き固め、唇を這わせたまま「嫌か?」と問う。そんな刺激にさえ過敏に応える 女は、目元を染めてルルーシュを睨めつけた。
 こういう反応をするときは大抵ルルーシュの行動を肯定している。ただ素直に答えることができないだけなのだ。
 そんなつれない反応もC.C.らしくて、愛おしい。
 こんな彼女も情事の最中は甘くとろける素直でかわいい女だからこそ、余計に。
 ルルーシュは薄い笑みを浮かべ、C.C.の小さな顎を掬ってくちづける。しばらくは彼女好みの穏やかな応酬を。それから次第に深く激しいものに変えていくと、縋るものを求めてルルーシュの首に手が添えられた。
 細く、冷たい指先。遠慮がちに触れる程度だったそれが熱を帯び、自らルルーシュを引き寄せるように力が込められる、その瞬間にえも云われぬ悦びを覚える。それをC.C.にも伝播させたくて、 吐息すら奪うように夢中で唇と舌を貪った。

「っ、     ぁ、・・ふ、・・・・・・・ぅん・・・っっ、はぁ‥」

 掻き乱しても絡まることのない絹糸のような髪も、涙と熱で潤む蜂蜜色の瞳も、薄紅色に染まったやわらかい頬も、唾液に濡れて妖しく光る魅惑の唇も、このときだけはすべてルルーシュのものだ。
 傷付け壊してしまわないように優しく手を這わせ、着衣を乱していく。
 しっとりと汗ばみ吸い付くような柔肌の触れ心地を堪能しながら、ルルーシュは肌蹴た薄布からまろび出たふくらみをわんわりと刺激し始めた。






皇子と夜伽パラレル・その25


2013/ 4/10 up
2018/ 3/31 一部改変、表公開