手袋越しの指先 つい先ほどまで響いていたはずの音が途絶えたことに気付き、C.C.は瞼を上げた。 ここは黒の騎士団のトレーラー内、ゼロの私室。ソファーに伏せているC.C.の前方にはルルーシュがいて、微動だにせずパソコンに向き合っている。 ただ、電源が落ちているパソコンの黒い画面に映るのは彼自身であり、その紫の瞳は明確な対象物をとらえているわけではなかった。 おそらく思考の渦中なのだろう。結ばれた唇が軽く歪んでいるところを見ると、答えの出ないことを延々と考えているのかもしれない。 これだから頭でっかちは・・と、C.C.は呆れた。 しかし生まれつきの性質というのは、もはやどうすることもできないのだ。 「・・・枢木スザクか?」 問いかけると、深い溜息が返った。 「まったく・・・ギアスをかけてしまえば済 「ギアスは一度しか使えない。仮定での話は無意味だ」 ルルーシュの声がC.C.の言葉を遮る。だが、別段C.C.の感情に波は立たなかった。 椅子ごと向きを変えたルルーシュの顔に苛立ちが見られなかったからかもしれない。 ルルーシュは静かに立ちあがると、退けとばかりにC.C.の横へ腰掛けた。疲れているのであれば場所を空けてやらないこともない・・と、C.C.は伏せていた身体を ゆっくりと起こす。 そのときだ 慌てて手を引っ込めるような真似はしない。そんなことをすれば相手に揶揄われることくらい、互いによく理解している。 だから結局ソファーに投げ出されたふたりの指先は触れ合ったままで、まっすぐ合わせてしまった視線も絡んだままだ。 『ゼロ』 の手袋越しに、相手の指先の感触が伝わる。 互いに見つめ合う形になって、いったいどれくらいの時間が流れたのだろうか。 息が詰まるような空気の中で、ふいにルルーシュの指先が動いた。 そろり、と、C.C.の指先を撫ぜる。 その、まるで壊れやすいものを扱うような、大切なものを慈しむかのような仕種から色濃く触発された記憶はふたりとも同じだった。 再契約を交わしたあの夜の延長線上に、一度だけ。 たった一度だけ、熱を交わした。 それは傷の舐め合いというより傷のえぐり合いのような行為だったけれど・・・・・だからといって後の抑止力になるとは限らないのだ。 互いにゆっくりと距離を縮めて、唇を重ねる。 どちらが先に瞳を閉じたかなどということは気に掛けたりしない。そんなことよりも、この応酬の主導権を握ることの方がよほど重要なのだから。 深さを増す口付けに、漏れる吐息。 舌の暖かな感触は脳髄に直接響いて、体温は上昇の一途をたどる。 一進一退の攻防戦。 先に王手へと手を掛けたのはルルーシュだった。 まるで壊れ物を扱うかのように優しくC.C.をソファーへ押し倒す。無理な体勢は若さゆえの柔軟性で補って、離れていく唇を追った。 C.C.も拒まない。 拒む理由がないのだ。ルルーシュの肩に手を添え、凪いだ瞳で彼を見上げる。 ソファーに散る若草色の髪。 軽く紅潮した頬。 唾液に濡れた唇が紡ぐ、乱れた呼吸音。 誘われるがままにルルーシュは距離を詰めた。赤い鳥を隠す前髪に、長めの黒髪が交じる。そして吐息と吐息が絡んだ、そのときだった。 『ゼロ、ちょっといいかな』 コツコツ、と扉を叩く軽快な音とは裏腹に、焦りを隠せていない男の声が聞こえた。 『至急下に来てほしいんだが・・』 声の主を誰何する必要はない。 ドアへと視線を向けていたルルーシュはちらりとC.C.を一瞥して、それからあっさりと身を起こした。わかった、すぐに行こう・・と返事をする傍ら、仮面を取り上げる。 やがて完全に“ ゼロ ”を纏ったルルーシュは、C.C.を顧みることなくドアの向こう側へ姿を消した。 ひとり残されたのは、C.C.。 床にまで届いてしまった髪を気に掛けることもなく、強く吸われた所為で少し腫れ気味の唇に光る唾液を拭うこともなく、そっと眼を伏せる。 吐き出された細い息は、音もなく部屋に溶けていくばかりだ。 気分は沈んでいく一方であるのに、こんなときばかり意識は浮上して眠れもせず・・・・真摯に見つめる紫の瞳が脳裏を掠めては、きつく唇を噛みしめる。 ・・・愚かなのは・・私、か・・・、と。 ぽつりと呟かれた言葉は誰にも
『手袋越しの指先』 STAGE20の直前 『その妥協時間〜』とは別世界 2009/ 1/25 up |