記憶の更新のためでも、記憶の解放のためでもなく、ただ相手を感じるために唇を合わせて。
 頭の奥がじんわりと痺れるまで吐息を重ねて。
 躊躇いがちに出し合ったのが嘘のように、夢中で舌を絡めて。


 息苦しくなっても交わし続けたくちづけは、10分や15分程度の短い時間ではなかっただろう。


 たかがキス。
 されど、キス。
 ようやく唇を離したときには互いに息が切れ、下にいたC.C.の口端からは飲み下せなかったふたりの唾液が零れ落ちていた。
         熱い。
 汗が吹き出る。涙で視界が歪む。
 しかし拭おうともしないのは、ルルーシュの背に回した腕を離したくないからだ。
 同じ理由で唾液もだらしなく伝わせたままで。髪とシーツが湿って首のあたりがゾワゾワとするが、意識の大半はルルーシュに向けているため、 どちらかと云えばどうでもよかった。




「C.C.・・」




 耳を打つ低音に、身体の芯が甘く痺れる。
 やさしい囁きだが、ナナリーへの呼びかけのようなやさしさとは違う。もっと惹きつけられ、すべてを委ねてもいいと思わせるような囁きだ。 だから、チュッ、チュッ・・と唇を啄ばまれる間に伝いっぱなしの唾液を親指の腹でそっと拭われ、そのまま大きな手に首筋を撫でおろされても抵抗しなかった。
 なのに・・・・・




「・・・るるぅ、しゅ?」




 不意にルルーシュが上から退いてベッドに身体を横たえたものだから、このまま抱かれるのだろうと思っていたC.C.は茫然としてルルーシュに呼びかけた。
 なにしろキスの途中から、硬くて熱いものがずっと太腿に当たっていたのだ。
 それが何であるのか、そしてそれが示すところの意味を理解しているからこそ、この期に及んで足踏みする男に驚きを隠せない。
 妙なところで生真面目なルルーシュのことだから、なし崩しに身体の関係をもってしまうことに抵抗を感じているのか。 それとも過剰演出が得意、かつ案外ロマンチストな性格がこのシチュエーションに不満を爆発させて『待った』をかけているのか。 あるいは、やり方が分からないとでもいうのか。
 いずれにしても顕著に現れた身体反応をきれいに無視してしまうあたりがいかにもルルーシュらしくて、C.C.は感心すらしてしまった。
       だからだろうか・・・ルルーシュが零した一言に心が揺さぶられたのは。




「・・・お前を、大切にしたいんだ」




 旋毛のうえから届いた、やさしい響き。
 身体を抱き寄せられて、もう休むぞ、とばかりに最近めっきり習慣となっていた腕枕の添い寝スタイルが完成したあとに聞かされたものだから、なおさら ルルーシュの想いを肌で強く感じた。
 昨日今日出会ったばかりというわけではないのに、どこまでC.C.の気持ちを先回りして考えているというのか。
 莫迦で、鈍くて、ときどき的外れで        でも、なんてあたたかいのだろう。




「期待しているぞ、ルルーシュ・・」




 盛大に見栄を張られたから、今夜は襲われる心配など皆無で。
 身体中の熱を煽られたおかげで手先足先までポカポカしているから、これなら明け方に寒くて目を覚ます、なんてこともきっとない。
 それなりに厚い胸に頬を摺り寄せながらC.C.が「んぅ・・」と鼻に掛った甘い声を出しただけでギクリと身を堅くするルルーシュにとっては 拷問にも等しい夜になるかもしれないが・・・・・そこは自制心が過ぎる男の自業自得だろう。
 穏やかかと思えば急に跳ねてみたりと、まるで拙い子守唄のようなルルーシュの心臓の音を聴いているうちに、安心しきったC.C.の瞼はゆるゆると下がる。
 心地よいぬくもりに包まれて、やがてC.C.は眠りに落ちていった。












『子守唄をわたしに』




2010/ 3/13 up