シャーリーは広い部屋にひとりポツンと座っていた。 部屋の主はいない。・・・いや、いないのではなく隣室で休んでいるだけだが。 この部屋に置き止められて7日目。戻ってきた彼とようやく話ができると喜んだ自分が馬鹿だったとシャーリーは項垂れる。つらそうな様子ひとつ見せなかったけれど、 目の下に濃い隈を作った彼は明らかに寝ていなかった。「悪いけど、少し休んできていいかな」と薄く笑った彼に「あ、うん・・・ゴメン、ゆっくり休んでね」としか 云えなかったのがまた情けない。 シャーリーの唇から長い溜息が零れた。 ルルーシュの力になろうと決めた、イケブクロ駅で。 彼を探していて遭遇したロロと対峙していたはずなのに、気付けばロロが構える銃をルルーシュが押さえていた。 殺されそうになったという感覚こそなかったものの、ルルーシュがひどい剣幕でロロを叱り飛ばしていたから、結構危なかったのだろう。 しかし、守ってくれた その後詳しい事情も解らないまま彼についてきて、今に至る。 ルルーシュは忙しかった。当然だ、エリア11で学生をする傍ら、海の彼方でゼロの活動をしているのだから。 それに引き換え、シャーリーは時間を持て余していた。 ブリタニア人を目の敵にしている黒の騎士団の艦船・斑鳩の中を歩くのは危険だからと、シャーリーはこの部屋を訪れてから一歩も外に出ていない。 食事は1日3回、二重扉に挟まれた空間までワゴンで運ばれてくる。部屋に散らかっていた物はゴミとそれ以外に分類したけれど、 収納されていた場所を知らないから片付けようもなく、部屋の隅にまとめて放置状態だ。 「・・・・・・・・・」 部屋を散らかしたのであろう人物の顔が脳裏にチラつく。 ルルーシュと口論した末に部屋を出て行った美少女。シャーリーがこの部屋を訪れるまでここに棲んでいた彼女をルルーシュは「ただの共犯者だ」と云ったけれど、 ふたりの間には親密そうな雰囲気が漂っていた。 ・・・・ルルーシュがあそこまで感情を露わに怒っている姿なんて初めて見た。 それだけ信頼関係ができている証だとルルーシュは思わないのだろうか。そもそも『共犯者』とはどういう関係なのか。友人や恋人ではなく不倫や浮気の相手のような アブナイ感じがするし、切っても切れない一蓮托生の響きがある。 シャーリーはもう一度大きな溜息を吐いた。 美少女はルルーシュに云った。「私がここにいる必要はない」と。 ルルーシュは引き止めたがっていたように見えた。「意味が解らない。何を怒っているんだ」と。 結局、彼女は部屋を出たまま一度も戻っていない。それに関してルルーシュは何も云わないが、 今日部屋に戻ってきたときの貌は疲労の中に明らかな失意が含まれていた。 あの子は一体、ルルーシュの何なのだろうか。彼に伝えたいこと、聴きたいことはたくさんあるはずなのにいつの間にかこればかり考えていて、 心はモヤモヤした気持ちでいっぱいになる。 シャーリーは頭を左右に振って思考を切り替えようとした。 悩みをいつまでもじっと座って考えるのは得意ではないし、性に合わない。良くも悪くも行動力があるシャーリーは勢いよく立ち上がった。 マナー違反だと知りつつも、ルルーシュの部屋に忍び込む。 灯りが落とされた部屋。寝るだけの空間にしては大きめな部屋に、あるのはベッドと簡素なデスクだけ。住居ではなく艦船なのだから無機質な内装に なりやすいのは理解できるが、これはあんまりだ。まるでルルーシュの心を表しているようで、シャーリーはこっそり「私が何とかしなきゃ」と使命感に燃えた。 そっとベッドに近づく。 ルルーシュはなぜかベッドの端に横臥の体勢で眠っていた。 眉間には皺。それでも深く眠っているようで、シャーリーの気配に起きる様子もない。 少しホッとしてベッドの脇に腰掛けた。 ルルーシュの眉間に人差し指を当て、凝りをほぐすようにゆっくりと円を描いてみる。それでも起きない彼はよほど疲れているのだろう。 シャーリーの心はちくりと痛んだ。 「君のことは、俺が守る」と云ってくれた彼。だけど、「俺を信じてくれ」とは云わなかった。 シャーリーの父の死を招いたのが彼なら、その記憶を操作して混乱させたのも彼だ。だから信じてくれなんて云う資格がないと思ったのかもしれない。 しかし、頭で考えるよりも先にシャーリーはルルーシュの手を取っていた。 『私ッ、ルルの力になりたいの!』 もちろん、好きな人に「守る」と云われて嬉しかった。 でも、身の安全だけを保障してほしかったのではない。心を通わせて、ずっと寄り添っていたいと思っていた。それなのに距離はどんどん開く一方だ。 咄嗟に出た言葉に嘘偽りの気持ちはないのに、それを実現できない自分が悔しい。 「・・・ルル」 そっと頭を撫でる。 サラサラの髪を梳いて、顔に掛かった髪を除けた。 相変らずキレイな顔だ。もっと笑ってくれればいいのにと以前は思っていたけれど、教室でよく見せた醒めた態度も、皇族や貴族に対して示していた嫌悪感も、 今の険しい表情も、彼がブリタニアを憎んでいると知った今ではすべてが納得できる。 せめてこのときだけでもゆっくりと休んでほしい。 私が、傍で守ってあげるから 「・・ん」 「ッ!」 瞼をピクリと引き攣らせて身じろぎしたルルーシュに驚いて、シャーリーは手を引っ込めた。 起こしてしまったかもしれない。 寝ているところに勝手に入ったと知られたら嫌われるだろうか。それとも呆れられるだろうか。今さら恐くなって腰を浮かせる。
『無垢な咎人』 2012/ 1/ 5 up |