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   オカシな一日




 山の中のちいさな家で迎える、初めての晩秋である。
 今日は10月31日         ハロウィン。
 今まで季節の行事に興味などなかったC.C.は、しかしたまにはイベントのひとつでもしてやろうかと考えたりしていた。 というのも、ルルーシュが学生であった時分には 必ず生徒会企画のイベントに巻き込まれていて、迷惑そうな態度をとっていたわりには満更でもなさそうに見えたものだから、ここは一肌脱ごうかという気になったのである。
 もちろんC.C.自身には害がないよう、朝からキッチンを占拠して菓子作りに精を出した。
 焼き上がったのは、タルト・タタン。カボチャを切らしていたため、リンゴを使った菓子にしたのはご愛敬だ。
 ルルーシュが菓子類を作り置きしていないことも確認済み。
 もっとも、ルルーシュの困った貌を見ることができればC.C.としては満足なわけだから、イラズラと云っても散らかりに散らかったキッチンの後片付けをさせるとか、 その程度のことを考えていた。
 ・・・・・・・のだが。






「trick or treat」


 ソファーに掛けたルルーシュの膝に乗って、一言。そしてルルーシュが瞠目したところまではよかったのだが、何やら思案顔で黙ってしまったものだから、C.C.の方こそ 動揺してしまった。
 こういうとき慌てるのがルルーシュの役割のはず。そう信じて疑わないC.C.としてはおもしろくない。
 それとも、これくらいのことなど動揺する価値もないのだろうか。
 C.C.の表情が自然と消えていく中、唐突にルルーシュの指がC.C.の顎を持ち上げた。


「両方、でいい」
「・・・は?」


 今度はC.C.が目を瞠る番だ。
 そうこうしているうちにルルーシュの顔が近付いてきて、唇にあたたかいものが触れた。しかし、ただ触れているだけでルルーシュからは求めてこない。
 やられた、とC.C.は思った。
 ルルーシュにはすぐに用意できる菓子がない。それなのに“ 両方 ”とルルーシュは云う。そして差し出された唇。これらの状況から考えて、『菓子の代わりに なるような甘いキスで手を打て』ということなのだろう。ルルーシュから求めてこないのは、C.C.に主導権を渡すことでイタズラの部分を満たそうという考えだろうか。


「・・・・・・・・・」


 都合がいいようにあしらわれたような気がしてならないが、何だかんだ云ってルルーシュに甘いC.C.は、差し出された『菓子』とやらをいただくことにした。
 ただし、これはC.C.が勝ち得た『イタズラ』でもあるから、腰に伸びてきた不埒な手はバシリと叩き落して、唇だけに意識を向けさせる。閨でなければ絶対にしない 濃厚なくちづけにしばし耽って、しかし不意に顎の下を撫でてやれば、ルルーシュはおもしろいくらい身を震わせた。
 得られた結果に、C.C.もようやく満足する。
 唇を離し、潤んだ瞳でルルーシュを見上げると、ひどく期待した貌の男と視線が合った。


         勝った!


 心の中でC.C.はニンマリと笑う。
 ここで放置すればイラズラ完了だ。すかさずルルーシュがハロウィンの決まり文句を投げてくるはずだから、美味しそうに焼けたタルト・タタンを出せばいい。 ついでにルルーシュに紅茶を淹れさせてティータイムにしよう。キッチンの後片付けもルルーシュに任せればいい。
 決めたら早いC.C.は、計画に従ってルルーシュの膝の上から退いた。


「美味しかったぞ、ルルーシュ」


 人をバカにしたような笑顔でそう告げれば、ルルーシュは眉を跳ね上げる。
 さあ来い、とC.C.は更なる罠を仕掛けて待った。
 しかし何を思ったのか、5秒ほど押し黙ったルルーシュは呆れたように溜息を吐いてソファーから腰を上げた。


「それはどうも」


 ポンとC.C.の肩を叩いたかと思いきや、ルルーシュはキッチンに立つ。そのまま後片付けを始めてしまったものだから、C.C.は再び戸惑ってしまった。
 ルルーシュが読めない。
 ここまで予想を外したことなど、かつてあっただろうか。
 決してノリがいい男ではないが、やられっぱなしで黙っているような性格でもないはずなのに。
 妙な免疫がつくと楽しくないな、とここはそれで治めることにして、C.C.は気分を紛らわせることにした。






 ・・・・・・・のだが。
 いつ仕掛けられるとも知れない決まり文句に備えるというのも、意外と神経をすり減らすものだ。
 いや、別に待っているわけではないのだが、C.C.から一度仕掛けている以上、警戒しておくに越したことはない。しかしルルーシュの一挙一動にまで反応してしまって、 まさか気付かれてはいないだろうが、何だか期待しているみたいでC.C.は嫌だった。
 それなのにルルーシュはまったくの普段通りで。日常生活に加えて茶菓子にタルト・タタンの半分をふたりで食べて、残りは夕食の後に平らげて。 「お前、菓子も作れたのか」なんて失礼な発言まで付いてきたが、とにかく終始穏やかな様子だった。
 人は成長するものなんだな、とC.C.は感慨深く思う。
 ルルーシュはC.C.同様、時の歩みが止まった存在で、もう人とは云えないかもしれないけれど。それでもそんな存在になっても変化し続ける伴侶を、C.C.は 羨ましく思ったりして。


 この日は何とも心落ち着かない、不思議な一日となった。










 夜も更け、厚い闇の帳の中。
 いつも以上に疲弊した身体を休めるため、C.C.は早めにベッドへと潜り込んだ。それに従ったルルーシュが、しかし蝋燭の火を消さずにベッド脇のローチェスト上に 置いたものだから、見止めたC.C.は「ルルーシュ、蝋燭・・」と手を伸ばした。
 しかし、不意に手首を捕まれる。
 そのままベッドに縫い止められ、仰向けにさせられた身体にルルーシュが覆い被さってきたところで、ようやくC.C.は理解した。
 昼間の続きが、ここでようやく来るなんて。
 あの場ですぐに云わなかったのは、C.C.が逃げ道を万全に整えていたからだろう。だから何事もなかったような貌をして、 逃げ道をひとつずつ潰していったというわけか。
 ニヤリと意地悪く笑うルルーシュとは対照的に、C.C.は青ざめるしかない。




「trick or treat」




 C.C.の耳元で囁かれた、その言葉。
 ごく一般的に捉えれば “ お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ ” となるそれは、しかしこの状況下においては解釈がまったく異なる。


 気が狂うくらいメチャクチャに抱かれるのがいいか、
 物足りない、もっと、と懇願したくなるくらいやさしく抱かれるのがいいか、
 お前に選ばせてやるよ、と。


 つまり、ルルーシュはそう云っているのだ。




「~~~~~~~~ッ!」




 前言撤回。何が成長した、だ。放置プレイの腹いせをこんな風に晴らそうだなんて、輪をかけてガキっぽく、執念深くなっているではないか。
 喉の奥で唸り声を上げてみても威嚇にすらならなくて、背に冷や汗が伝う。
 対するルルーシュはひどく楽しそうだ。


「どうした? C.C.・・・このまま朝まで睨んでるつもりか?」
「・・っ」


 いくら選択権があるとはいえ、どちらを選んでも楽しいばかりではない時間が待っているのは確かで。
 というかそれ以前に、どちらを選んだと伝えることがまず嫌だった。
 何だその羞恥プレイは。頭の中でいろいろな叫びがグルグルまわるC.C.の頬に熱が溜まっていく。ルルーシュはおそらく、この状況さえも楽しんでいるに違いない。 そう思えば、C.C.の中で何かがブチッと切れた。




       両方でいい」




 その代わり、私を失望させるなよ、とC.C.が声も高らかに続ければ、ルルーシュは今にも獲物に喰らいつかんとする獣のような眼を細めて、「わかってるさ」と 笑った。
 せめて蝋燭の火を消してくれ、と云い忘れたことに気付いても、後の祭り。


 あとはただ、熱い波に溺れるだけだった。












『オカシな一日』


2011年ハロウィンssでした。




2011/10/31 up