真夜中の寸劇




 「怨まれていないとでも思っていたのかい?」


 そう云って銃口を向けた金髪の男は、目のあたりが暗く落ち窪んでいた。
 表情はない。生気というものがまったく感じられない貌だ。芸術肌で感受性豊かであるが故にこの男は感情も表情も豊かだったことを知っているからこそ、 余計にそう見えるのかもしれない。
 男の隣には桃色の髪の少女が同じような表情で銃を構えていた。
 その後ろに続くのは知った顔であったり知らない顔であったり・・・しかし、その誰もが還らぬ人であることは明白で。


            あぁ、俺が殺した者たちだ・・と、すぐに知れた。


 各々が手に持つ武器が誰に向けられる物であるのか、これも容易に察しがついた。
 『撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ』       その信条に揺らぎはない。自ら手に掛けた者に屠られるのであれば尚更、 拒むつもりはなければ、拒む権利もなかった。
 しかし、今、俺には成すべきことがある。
 その一瞬の焦りと拒絶を読まれたのだろうか、無表情が一変して険しくなった異母兄は引き金に掛けた指に力を込めた。
 制止する間もなく、胸を貫かれる。その、刹那          胸ではなく全身に衝撃が走った。






















 ハッと目を開けると、そこは暗闇が広がっていた。
 白く細長い物体が目の前を横切ったような気がしたが、一瞬のことで正体が判然としない。背は柔らかな絨毯の下にある床の硬さを感じていた。
          絨毯と、床。
 ここで初めて、ルルーシュは自分がベッドではなく床に転がっているという現状を理解した。 それとほぼ同時に、白い物体が消えたあたりから声とともに女の白い顔が覗く。




「起きたか?」




 その言葉は、C.C.がルルーシュよりも早く目が覚めていたこと、・・・いや、むしろC.C.がルルーシュを起こした可能性を示唆していた。
 先程チラッと横切った白い物体はC.C.の足で、まさか足蹴にされたんじゃないだろうな、とルルーシュが口元を引き攣らせながら起き上ると、 定位置に戻ったC.C.が何事もなかったように欠伸を漏らして再び横になろうとしたものだから、冷やかしひとつないその態度に 自分の憶測が間違っていなかったと確信したルルーシュは小さく舌打ちした。
 夢に魘されて、おそらく呻き声でも上げてしまったのだろう。気遣って起こしてくれたことに対しては感謝するが、悪逆皇帝を足蹴にするとは いい度胸である。
 そうえいばコイツは寝相が悪くて、よく殴られたり蹴飛ばされたな、と。襲撃に遭って夢見が悪かったことは一度や二度のことではなかった、 と記憶を手繰っていたルルーシュは ベッドに戻って、ふと思った。




 寝相が悪いんじゃなくて、魘された俺を起こすために暴れたのだとしたら       ・・?




 可能性としては充分あった。
 なにせC.C.がクラブハウスへ来たばかりの頃は互いに干渉を厭っていたのだ。特にルルーシュはその傾向が強かったから、C.C.に心配されて揺すり起こされでもしていたら 我慢ならなかっただろう。それを正しく理解していたC.C.が気を利かせたと考えるのは自然だ。
 C.C.という女は、そういう女なのだから。


「いつからだ」
「ん・・? 5分も経ってないぞ」
「・・・そうじゃない」


 眠そうに瞼を下したC.C.の頬に手を添え、ルルーシュはやんわりと否定する。
 「いつからだ」と「そうじゃない」、ただそれしか云っていないというのに、ルルーシュの意を汲むのにどこまでも長けている女は、『一体いつから悪夢に魘される ルルーシュを寝相が悪いフリをして起こしていたのか』、その正しい問いを理解したらしく、少し困ったように微笑んだ。
 狭められた目から覗く、琥珀色の瞳。
 慈愛に満ちたやさしい色を湛えるそれを見止めたルルーシュは、胸をキュッと締め付けられるような、ひどく堪らない気持ちになった。


      C.C.」
「ん・・・」


 頬に添えられたルルーシュの手に手を重ね、しかしC.C.はゆっくりと瞼を閉じる。ぬくもりを感じるように掌へ頬を擦り寄せたかと思えば、C.C.はルルーシュの手を外し、 自身の背に導いた。
 まるで、抱き締めろ、とでも云っているようだ。
 掌から伝わる体温に促されるまま、ルルーシュはC.C.を抱き寄せる。




        甘やかすのが上手い女だと、つくづく思う。
 ルルーシュが距離を置きたいときには淡々と振る舞い、傍にいてほしいと思うときには手を伸ばしてくれるのだ。 傍若無人の印象が強いためにその甘さを感じる機会は少なかったが、今までこの女にどれだけ助けられ、         そして同時に、この女を どれだけ傷つけてきただろうか。
 こういうときほど、己の小ささを痛感するときはない。


「・・・・・・」


 C.C.の細い背をそっと撫ぜ、心の中で感謝と謝罪を伝える。
 首を擽る規則正しい寝息にC.C.が眠りに就いたことを知ったルルーシュは、いい匂いのする旋毛に唇を落とし、女に直接云えなかった万感の想いを、一言に込めて呟いた。




        いい夢を・・」












『真夜中の寸劇』


『夜明け前の寸劇』の続きのような




2011/ 8/22 up