人の真の価値は、その人が亡くなったときにどれだけの人が心から涙を流すかで解るという。
         それは、まさしくその通りなのだろう。
 “悪逆皇帝”の死に、泣き嘆く観衆などいない。湧くのは歓声だ。やさしい世界を実現するためとはいえ、世界に揺さぶりをかけて 何百万という人の生命を犠牲にしてきたのだから、当然すぎる最期であるし、自ら望んだ結果でもある。
 だから、ルルーシュにとってそんな世間一般の評価など、どうでもよかった。
 ・・・・むしろ、思い描いていたよりもずっと僥倖に恵まれただろう。


 ナナリーが自分のために泣いている        ルルーシュはそれだけですべてが報われるような気がした。


 世界すべての人間に好かれるなど不可能であるし、意味もない。それと同じで、一番大切な妹が永遠の別れを悲しんでくれるなら、それだけで充分すぎるほどだ。




『俺は、世界を壊し・・・・世界を、創る・・』




 最期の最後に残したこの言葉は、ナナリーを慰めるものではないけれど。
 どうやら真実を悟ってしまったらしい妹には強くあってほしいから、だからこれ以上心を乱すようなことは云いたくなかった。
 歓声に混じる慟哭。それも次第に聞こえなくなる。
 やさしい世界の礎になれたのであろう達成感に包まれながら、ルルーシュの意識は眠りに落ちるようなスピードで遠退いていく。












 次に重い瞼を開けたとき、そこには見知らぬ天井が広がっていた。












 ここは何処だろうか。
 本気で解らないルルーシュは周囲を見渡そうとして、しかし身体が動かないことに気が付いた。
 指一本ピクリとも動かせないのに瞬きだけできるというのも不思議な話だ。これで身体中を打ち付けたような痛みを感じていなかったら、 とてもではないが生きているとは実感できなかっただろう。
 スザクに心臓を貫かれ、ナナリーの傍で最期を迎えた記憶はあるが、本当にゼロ・レクイエムは成功したのだろうか・・?
 呻き声すら上げられない身体にもどかしさが募る中、ふとルルーシュの視界の端に影が差した。


「・・・ルルーシュ?」


 そっと囁くような、その声。
 あぁ、こいつも無事だったかとルルーシュが安堵していると、視界に女の顔が映る。
          よほど泣いたのだろう、目を赤く腫らした女の顔が。


「気が付いたか・・」


 緊張の糸がふわりと解けたような表情を見せて、C.C.はルルーシュの肩にそっと手を置いた。しかしルルーシュは言葉を返すことすらできず、 それも承知しているのか、C.C.は「無理するな」と云い置いて視界から消える。
 引き止める隙もない。
 眼球の動きだけとはいえ不本意にもC.C.を追ってしまったルルーシュは、ジクジクと痛む肺から細く細く息を吐き出し、再び目を閉じた。


 柄にもなく、動揺している。
 いや、昔から不測の事態にはめっぽう弱いが、動じた理由が理由なだけに戸惑いも一入なのだ。
 瞼の裏に浮かぶのは、泣き腫らしたC.C.の貌。誰のための涙であったかなど火を見るより明らかで、だからこそ胸がざわめいた。       ナナリーが 泣いてくれたことに対しては純粋に喜びさえ感じたというのに・・・。
 笑顔を約束したのに泣かせてばかりだとか、コードの発現を承知しているC.C.には泣く動機がないはずなのに、とか、ナナリーとの状況の違いはある。しかし それだけでは説明のできない何かをC.C.に感じているのだ。


 これまで感じていた全身の痛みとはまた違った、ぎゅっと引き絞られるような痛みを訴え始めた胸。
 身体の回復を待たずに意識だけ戻ってしまった現状を恨めしく思いながら、それでもルルーシュはC.C.が戻るのを待つしかなかった。












2011/ 8/ 1 up