夜明け前の寸劇 眼下に広がる光景は、地獄以外の何物でもなかった。 血溜まりに沈むのは、母親だ。 無数に開いた穴から吹き出た血で全身が染まり上がって、最早どこに銃創があるのかも解らない。 とっくに事切れているはずの身体がピクピク痙攣しているように見えるのは、母の腕の中で妹が震えているからだろう。 「〜〜〜〜ッッ!!!」 衝撃のあとは衝動が襲った。 母を、妹を助けなければ。その想いに突き動かされ、根が生えて竦む足を何とか一歩進める。 必死だった。動きは鈍くとも、決死の行動だった。それなのに、呆気なく執事に取り押さえられる。 「ッ、離せッ!」 「なりませんルルーシュ様!」 暴れて抵抗しても、所詮子どもの力では振り切れない。 想いとは裏腹に、危険から遠ざけられる。 だめだ。そんなのは嫌だ。僕が助けなければいけないのに。 「 ハッと目を開けると、そこはベッドの上だった。 世話になり始めて日は浅いが、見知った壁のおかげでここがどこであるのかすぐに悟る。 意図的に息を吐き出し、C.C.は緊張していた全身の筋肉から力を抜き去った。 (また、この夢か・・・) 瞼の裏にこびり付いて離れない、先ほどの夢。 もちろんC.C.はマリアンヌの殺害現場を直接見ていない。 しかしあの一幕は想像力の産物でもない。 あれは記憶なのだ。 (これでは休息にならないだろうに・・) かなりの高確率で悪夢に魘される男に起こされたことは一度や二度のことではない。C.C.も夢見がよい方ではないが、しかしここまで極端なことはなかった。 おそらくルルーシュは精神が不安定になっているのだろう。 無理もない。絶対遵守の力で人を死に追いやり、異母兄を自らの手で殺し、友人には拒絶され、さらには学生とテロリストの二重生活まで送っているのだ。・・・・・だからと いって、ここで優しく揺すり起こしてやる義理などC.C.にはないが。 「 しかし、C.C.が手を下すまでもなくルルーシュは跳ね起きた。 荒い息遣いがしばらく続いた後、衣づれの音とともにベッドが軽く揺れる。そのままベッドを離れるかと思いきや、気配は遠ざからなかった。 背を向けて横たわるC.C.からは正確にうかがい知れないが、ルルーシュはベッドの端に腰かけたらしい。 ここまで気にかけてやる必要はない、と。 (・・・二の舞は御免だ) 情をかけ過ぎたためにC.C.への依存が高まり、壊れていった契約者たちが過去にはいた。 ルルーシュは幼子ではないし、干渉をひどく厭う男だから、このまま放っておくのが無難だろう。 ルルーシュが気付いて振り返らないよう、そっと寝返りを打つ。 そして 「ぅぐっ」 程よくスピードをつけた膝で、脇腹に蹴りを入れてやった。 殺気立って振り返るルルーシュのことなど寝たふりで無視する。千年近く年季の入った狸寝入りだ、頬が引き攣るなんてこともなく、すっかり騙されたルルーシュはC.C.の 寝相が悪いだけだと判断したらしい。ルルーシュの呆れたような溜息にイラッとしないこともなかったが、過ぎた干渉はしない、という自ら決めたルールに則り、C.C.は 寝たふりを通した。 しかし、ふと、空気が動く。 不意にブランケットが素肌を擽って、C.C.は思わず身を捩った。 どうやら膝蹴りを食らわせた際に乱れたブランケットをルルーシュがご丁寧に掛け直してくれたらしい。本っっ当に、「お前は母親か!?」と云ってやりたくなるような 世話焼き体質だとつくづく思う。 (〜〜〜〜この男は、・・) 他人を寄せ付けず、心の深層まで踏み入らせもしなければ明かしもしないくせに、他人には平気で干渉してくる。 そんな自分勝手な男は厄介以外の何物でもなくて、C.C.は内心で眉を顰めた。 夜明けはまだ、遠い。
『夜明け前の寸劇』 2011/ 7/15 up |