別れの合図




 「どうだ」と云わんばかりの得意気な貌に、C.C.は危うく鼻で笑いそうになった。
 女の前で見栄を張る馬鹿な男に見えなくもないが、まるで小さな子どもが着せてもらった晴れ着を親に自慢している図のようではないか。
 仕立てあがったばかりの皇帝衣。
 白を基調とし、瞳と翼をモチーフに取り入れたその衣装は、左右非対称の外套の広がりが見る者の視線を集めるものの、際立つ身体の線の細さをカバーしきれてはいない。
 ひょろひょろと縦にばかり伸びて横が伴っていない男は、着痩せも手伝ってひどく貧相に見える。前皇帝のシャルル然り、歴代の皇帝たちはなかなか恰幅のよい 人物が多かったから余計にそう感じるのかもしれないが。


「貫禄がない」


 だから、これは純粋な感想だった。
 馬鹿にしているつもりは毛頭なく、似合ってないともセンスが悪いとも何とも云ってない。
 それなのに苦虫を噛み潰したような、あからさまな表情を見せたルルーシュは、明らかに不機嫌な声で低く唸った。


「悪かったな」


 その苦々しいセリフに、なんだ自覚はあったのか、と感心する。
 ・・・もっとも、現存する歴代皇帝の肖像画はある程度歳を重ねた姿が描かれており、しかも威厳が3割くらい上乗せされているのだから、 現時点でのルルーシュと単純に比較することはできない。
 ルルーシュにだって支配者の資質はある。それに外観が釣り合わないだけで、歳を重ねれば誰よりも皇帝らしく見えるだろう。


            歳を重ねることができれば、の話だが・・・。




「・・・・・、戻るのか?」
「ああ。どこかの誰かと違って俺は忙しいからな」
「・・・・・・・」


 だったらお前何しに来たんだ、とツッコんでやるべきだっただろうか。
 苦笑いを浮かべるスザクを伴って部屋を出ていくルルーシュを見送って、C.C.は溜息をひとつ零す。褒めてほしいのなら素直にそう云えばいいものを。 そう思いながら手近なソファーに身を沈めた。
 瞼を閉じなくても浮かんでくる、皇帝衣姿のルルーシュ。
 制服といいゼロの衣装といい私服といい、暗い色の服ばかり見慣れているC.C.にはほんの少し違和感が残る。 深い色が好まれる皇帝衣ゆえに、ルルーシュのそれが『聖職者きどりか』と陰で批判を受けるであろうことは本人も予想済みだが、その程度のことでは 皇帝衣は変わらない。あれはルルーシュが思い描く結末に、これ以上ない最高の演出をしてくれるのだから。


(・・・・・白、か・・)




 今のルルーシュのような迷いのない白に、鮮血の赤はさぞかし映えるころだろう。












『別れの合図』




2011/ 7/ 2 up