魔女の記憶 2 四季の移り変わりが生活に華を添える都市・洛陽。 世界の3分の1を占める中華連邦の首都であり、天子が住まう朱禁城を抱くその都市は、面積・人口ともに世界屈指の大都市である。それゆえに貧富の差も格段に 大きく、特に先代の天子が急逝し、5歳にも満たない幼女が天子の地位を継いでからこの方、発言力を増す一方の大宦官一族とその恩恵を受ける一部の人間だけが 私腹を肥やしているような国内情勢だ。 朱禁城から遠ざかり旧市街に近づくにつれてその日の食事にも困る者が路上に溢れ、落ちぶれた民家の朽ちかけた塀に凭れて蹲る者が増えることに気がついたC.C.は、 東洋人と偽るには白すぎる肌を隠すように帽子を目深に被りなおした。 友人であるマリアンヌが何者かに殺害されてから、1ヶ月。 神を殺して他人と思考を共有したところで人間の愚かしさは変わるはずもなく、やはり死への希求は止まないだろうと思い至ったC.C.がV.V.から逃れるために選んだ 中華連邦は、C.C.の予想以上に荒廃が進んでいた。下級層が着るような質素な平服を纏っていなければ、今ごろ物乞いたちに付き纏われていたことだろう。 木を隠すなら森の中、と都市部に身を寄せようと考えたのは間違いだったかもしれない。 もう少し山間の方で暮らせる場所を探そうとC.C.が思い直した、そのときだった。クンッと袖が引かれる感覚とともに、今にも消えそうな声がC.C.の鼓膜を震わせたのは。 「・・たすけ、て・・・」 振り返ると、そこにいたのは少年だった。 痩せ細った身体。パサパサして艶のない銀髪。一見して栄養失調だと解るその子どもの瞳は、しかし生気のない声とは裏腹にギラギラと強い光を放っている。 筋力が落ちた子どもの手だ、振り払うことができないわけがない。 しかし、どうしてもC.C.は少年を振り払うことができなかった。 マリアンヌの息子と同じ年頃だ、と思ってしまったが最後、振り払おうとした腕が凍りついてしまったからだ。 できることなら、友人の忘れ形見も一緒に連れてきてやりたかった。 母親の死を、・・・それも銃殺などという悲惨な死に様を目の当たりにして光と足を失った妹と、 強力な後ろ盾など望めない中、幼い妹を守りながら魔物の巣窟を渡り歩くことを余儀なくされた兄。 ひとりで何百年も生き抜いてきたC.C.だ、子どものひとりやふたり育てながら自給自足生活くらいやってのける 自信はあった。 しかし、C.C.が行動に移す前に兄妹の父親がふたりの身の振りようを決めてしまったから。 ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、C.C.は中華連邦へと逃れて来たのである。 袖を掴んで離さない少年とマリアンヌの息子の容姿に似通ったところはない。 ただ、ナイフのようにギラギラと光る瞳の強さが友人の息子を思い出させた。 あのとき力になれなかった後悔を、別の子どもで慰めようとしているのかもしれない。それは同情でも何でもない、ただの自己満足だ、と 「お前、・・・生きる理由はあるのか?」 それでも、C.C.は問わずにはいられなかった。
『魔女の記憶2』 2011/ 6/26 up |