こどくとせんそう




 パチッと目が覚めた。
 寝覚めの良さは誰に似たのか、あたたかなブランケットに包まれた身体はすぐにシーツの海からモゾモゾと這い出る。
 床に降りてから靴を履くのにかなり苦戦したけれど、それでも懸命に挑んだのは、優しい母親が「えらいな」と頭を撫でてくれることを知っているからだ。


「・・・できたっ」


 大仕事を成し遂げた幼子は喜びに満ちた貌でそう云って、意気揚々と立ち上がった。
 しかしリビングへは直行せず、ベッド脇のベビーベッドを覗く。
 そこには幼子が期待した通り、白い産着を着せられた赤子がすやすやと眠っていた。
 まあるい頬。
 ふわふわの髪。
 ちいさな手。
 かわいい弟を撫で撫でしたかったけれど、柵に掴まってやっと爪先立ちをしている状態では手を伸ばすことはできなくて、 代わりに幼子は小さな声で「イイコイイコ」と囁いた。
 そんなことではちっとも起きない、ちいさないのち。
 ずっと眺めていても飽きない寝顔をしばらく眺め続けたあと、幼子はリビングに向った。
 頭よりも高い位置にあるドアノブをなんとか回してリビングに出ると、ソファーに掛けた父親の後ろ頭を見つけた。
 しかし、いくら見渡しても母親の姿が見えない。
 幼子が昼寝から起きたときはいつも一番に気がついて、笑顔で迎えてくれるのに。


「・・・・おかあさん?」


 心細くなって呼んでみても、母親が姿を見せるどころか父親さえ気付かない。


「おとうさん・・!」


 絡まりそうになる足を前に出し、幼子はソファーに駆け寄った。
 大好きなソファーは、しかしこんなとき大きな壁となって幼子の前に立ちはだかる。
 見捨てられたような不安感が襲ってきて涙が溢れてきたけれど、泣き喚くよりも『わたしはここだよ』と気付いてもらうために幼子は頑張った。 ソファーを迂回して正面に回る。


「おとうさ・・ッ!!」


 そこで幼子は気がついた。
 父親は眠っていたのだ。足を組んで座り、さらには腕まで組んだままの恰好で。
 幼子が膝に手を置いても目を覚まさないくらい熟睡している。
 その隣には・・・・・


「おかあさんっ!」


 端に座る父親の隣には、ソファーの大部分をひとり占めして横になっている母親がいた。
 なるほど、これならソファーの後ろから見えないのも納得だ。
 頭のてっぺんをピッタリと父親にくっつけて眠る母親の、どこか幸せそうな顔。
 起きてほしかったけれど、ぎゅっとしてほしかったけれど、幼子は床に転がっていたチーズ色のぬいぐるみを拾い上げて、そっと話しかける。


「おひるねだから、し〜、ね? ちーずくん」


 それから幼子はもう一度赤子を見てくるため、自分の身体よりも大きなぬいぐるみを引きずって寝室へと戻っていった。












『こどくとせんそう』


夫婦のお昼寝風景



2011/ 2/23 Twitter投下ssを加筆修正してup