※裏要素全開につき、ご注意願います。
















 引き締まった皮膚を伝って滴り落ちてくる汗のように。
 もの云わぬはずのアメジストの瞳から際限なく降り注ぐ想いに、私は酔わされる。


 ときに激しく。
 蕩けるように甘美で。
 焼け付くほど熱く。
 常に労わりと優しさに満ちて。


 でも、私はその想いに応えることができない。
 いつも心を置き去りにして、身体だけが呑み込まれてしまうから         ・・・










   角砂糖が溶ける前に










 C.C.が重い瞼を押し上げると、首と繋がる皮膚の複雑な繋ぎ目がぼんやりと眼に入った。
 男にしてはきめ細かく滑らかな、白い肌。
 何故そんなものが眼前に晒されているのか一瞬だけ本気で考えて、しかしカラカラに乾いた喉の特有の痛みですべてを思い出した。


(・・・・・・めずらしい・・)


 ルルーシュが隣で寝ている        それはC.C.にとってあまり馴染みのない光景だ。
 眠りに落ちるのはC.C.の方が早く、起床は絶対的にルルーシュの方が早い。
 最中に飛んだ意識が真夜中に戻って、ごく稀に暗闇の中でルルーシュの寝顔を眺めることはあるけれど、朝日が滲む中でじっくりと眺めるのは初めてである。


(寝顔はこんなに可愛いくせに・・)


 夜はどうしてあんなにも性質の悪い貌を見せるのか。
 ぐっすりと眠っているらしいルルーシュをしばらく観察したC.C.は、顔を見るために反らせた背を戻し、元の腕枕の体勢に落ち着いた。
 この腕枕も、朝に限定すれば貴重な体験だ。
 腰に回されたもう一方の腕の重みも、軽く絡んだ脚の温かさも、繋がったままで朝を迎えた身体の感覚も。
 唯一喉の痛みだけが馴染みの感覚だなんて、物足りない。
 クタクタに疲れてコロッと寝てしまうがゆえに、普段知り得ない部分。それを徹底的に記憶するように、C.C.は全身でルルーシュを感じようとした。


「・・・・・」


 昨晩の名残でしっとりと汗ばんでいる肌にそっと手を伸ばして、首の付け根から胸までを撫で下ろしてみる。
 C.C.では到底望めない良質な筋肉で覆われた胸は、厚みがあって逞しい。確かに細身だが決して貧相ではなく、 必要な肉が必要な部分で程よく引き締まっている身体。
           この身体に、どれだけ翻弄されたことか。
 童貞だ、坊やだ、と余裕でいられたのは初めての、しかもほんの序盤だけ。
 よほど相性がよかったのか、ルルーシュの若さと探究心も手伝って、今ではC.C.が一方的に喘ぎ啼かされている毎日だ。
 悔しい、と思う。感じやすい体質ではどう足掻いてもイニシアチブを取れないと解っているけれど。


「・・・・・・・・・・・」


 指先で触れたところをじっと観察した後、C.C.は脳裏を掠めた考えを実際に実行してみることにした。
 サラサラと流れてしまう長い髪を耳に掛け、ルルーシュの胸に顔を寄せる。
 先程指でなぞったルートを辿るようにチュッ、チュッ、と唇を押し当てて、最後に興味本位で皮膚の表面をちょこっと舐めてみた。
 ほんのり塩辛い、汗の味。
 意識が飛ぶくらいメチャクチャに愛された、その証。
 舌の上に広がる味に酔ったC.C.は、恍惚として瞼を閉じる。
             だが・・・






「なかなか可愛いことをしてくれるじゃないか」






 今この状況で聴くには心臓に悪すぎる台詞と低音に、C.C.はカッと目を瞠った。
 反射的に身を剥がしてベッドから這い出ようと試みたけれど、しかし繋がったままの身体では思いが叶わず、おまけにすかさず背に回された腕にいよいよ動けなくなる。
 苦肉の策で逆にべったり顔を胸に押し付けると、大きな手がやさしく頭を撫でてくる始末。


「〜〜〜〜〜〜〜ッッ」


 ずいぶん年下の坊や相手に、もう勝てない気がした。
 時刻はそろそろ普段ルルーシュが起床するのであろう時間に差し掛かっているから、このまま何もない可能性もあるとC.C.は予想したのだが、 所詮は淡い期待だったと思い知る。
 内側で勢いよく育っていくルルーシュを無視できなくなって、思わず漏らしてしまった吐息が婀娜めいた熱を帯びる。
 しまった、と思ったときにはもう遅かった。
 あっさりと体位が変わって、気付けば精悍な身体の下。
 朝日が注ぐ寝室の、甘ったるさを色濃く残す澱んだ空気を背負ったルルーシュの貌には、寝起き特有の気だるさの中に、欲情した男の貌が潜んでいた。
 女を煽って、拒めなくさせる貌だ。
 ここで嫌がると余計に焔がついて手に負えなくなるのは目に見えていたから、C.C.は仕方がないと半分諦めた心境でルルーシュの腰に脚を絡める。
 こんな朝一番から情事に耽るなんて、ものすごく気が引けるけれど。




「ぁ・・っ、ルルーシュッ・・・・・ふぁ、・・あァンッッ」
「・・・ッ、C.C.・・」




 求められることが嬉しくて、        涙が零れるくらい嬉しくて。
 残りわずかだと解っていても、幸福で。


 このまま時が止まってしまえばいいのにと、どうしても願わずにはいられないのだ。












『角砂糖が溶ける前に』


儚い幸福を、身体に刻む




2011/ 2/16 up