ヒトの成長というものは驚くほど早い。
 たとえ眼には見えなくても、毎日少しずつ変化しているのだろう。        至近距離に迫る男を見上げながら、C.C.はそんなことを思った。
 しかし、いくら身長や体格で負けようと、生きてきた年数が桁外れに違うのだ。
 たかだか生まれて18年のお子様に気圧されるような甘い人生とは無縁で。
 背後には壁があり、正面には男がいて、顔のすぐ両側の壁につけられた男の腕に囲われて身動きできない・・という状況にも焦ることはなかった。
 そんなことよりC.C.の意識を占めるのは、男の左後方2メートルの位置に無残にも転がっている仮面である。
 ここはナイトメアフレームの格納庫だ       斑鳩の。
 何時どのタイミングで誰が入ってきてもおかしくない状況の中、ゼロの衣装を纏った男の足元に仮面が落ちていれば、確実に正体がバレるというのに。




「・・・お前、何がしたいんだ?」




 押し殺した怒声が男への脅しになるとは思えない。それでも云わずにはいられなかった。


         ゼロ・・!!」
「・・・・・・、ッッ・・・!」


 偽りの名を呼んだのは敢えてのこと。
 C.C.の左上腕に視線を走らせた男は、次の瞬間、固めた右の拳でC.C.の耳の脇の壁を殴りつけ、舌打ちをしながら踵を返した。
 途中で仮面を回収し、きっちり装着した状態で格納庫を出る。そのことにC.C.はホッと安堵して、同時に眉根を寄せた。


(なぜ私が・・)


 ゼロの正体の心配をしているのか。
 C.C.にとって最も重要なのはコードの継承が可能になるまで契約者を死なせないことで、ただそれだけのために傍にいるのに、 これでは『ルルーシュ』自身を大切にしているようである。
           特別な感情なんて、抱いても不毛なのに。




(・・・・いいや、違う)




 C.C.は頭の中で否定する。
 別に、『ルルーシュ』が特別なわけではない、と。
 ああいうタイプの人間が野望を叶えようと必死なとき、つまり追い求めるものが他にあるとき、まずもってC.C.は執着の対象にならないから。だから今の『ルルーシュ』を 成り立たせているものを崩壊させないようにする一環として、ゼロの正体がバレないように協力しているだけなのだ。


「ただ・・それだけだ」


 右手で左の上腕に触れると、サラリとした絹の感触が指に伝わる。
 先程の戦闘で負った傷の応急処置に使ったソレは、先程までゼロの首元にあったスカーフだ。
 止血のためではなく驚異的なスピードで癒えていく傷を人目に晒さないよう男が結んだその端を、C.C.はギュッと掴む。
 C.C.だけがもつ『不死』という反則的かつ最強のカードを、男は決して利用しようとしない。
 それどころか軽い怪我すら負わせないようにしているのではないかと 感じるときもあって、そのたびにC.C.は胸を締め付けられるような想いを味わってきた。


         バカだよ・・・本当に」


 ポツリと呟いた声は反響することなく格納庫に消える。
 静寂を取り戻した空間の中で唇を引き結んだC.C.は、すべてをふっ切るように颯爽と歩き出した。




 様々な感情が交錯した格納庫には、しかし何も残らなかった。












2011/ 1/26 up