Ti Amo 春にオープンしたショッピングモールは、初めて迎えたクリスマスということもあって、オーナメントが一際華やかで鮮やかだった。 目玉は何といってもショッピングモールの中心に据えられたクリスマスツリーだ。4階の天井に届くツリーには金銀のモールやカラフルなグラスボールがセンスよく飾り付けられていて、見る者の 目を楽しませている。オーナメントだけでもクリスマスらしい雰囲気満載だが、イルミネーションが灯ればさぞかし綺麗だろう。 吹き抜けの1階からツリーを眺めていたルルーシュは、しかし15秒と経たないうちに袖をクイクイと引っ張られて、小さく溜息を吐いた。 隣に居る女は、クリスマスツリーに何の魅力も見出せなかったのだろうか。 ・・・もっとも、ツリーを眺めていても腹は膨れないから、納得できないこともないのだが。 映画前に昼食をとる予定だったのに、大幅に寝坊した女の所為でショッピングモールに着くのが遅くなり、昼食を食べずに映画を見てきたのだ。そろそろ15時を回ろうとしているこの時刻、ピザを 食べたいと駄々を捏ねるC.C.にすっかり主導権が移っているのだから仕方がないと云えば仕方がない。 かく云うルルーシュもC.C.同様昼食抜き、しかも朝食がC.C.よりも4時間早かったとあって、非常に空腹だったりする。 デートのときくらいピザの存在を忘れろよ・・と思ったりしなくもないが、無駄な期待はしないことにしている上にルルーシュも空腹に耐えかねているものだから、ここはとりあえずC.C.に従うことにした。 そして、ピザが絡むときだけひどく積極的な女の後について一歩を踏み出した、そのときだ。 「あ」 「やあ」 「・・ッ」 「まぁ!」 タイミングが良いと云うべきか悪いと云うべきか、こういうときに限って遭遇してしまう親友と従妹。 あちらもルルーシュたちに気付いているので見てみぬフリはできない。 天然バカップルと学園でも有名なふたりが、いかにも『恋人です』と主張するように仲良く手を繋いでいるのが目に入って余計に力が抜けたルルーシュは、溜息を零してげんなりと肩を落とした。 「うまくいってるみたいだね」 ピザ屋の円形テーブルを4人で囲んでいるこの状況。ルルーシュの右隣にはスザクが、左隣にはC.C.が座っていて、賑わう店の喧騒に紛れるようにこっそりと声を掛けてきたのはスザクだった。 これが厭味でも何でもないことくらい、解っている。 C.C.の話はあまりしないから、スザクなりに心配していたのだろう。 どうしてそこまで情報を共有する必要があるのかと気味悪く思えるくらい恋愛事情を暴露するのが好きな人間もいるようだが、ルルーシュには生憎そういう性分が備わっておらず、沈黙を貫いてきたのが原因だ。 ・・・改めるつもりはまったくと云っていいほどないが。 「そうか?」 フォークにパスタを絡めながら、ルルーシュは小声で返す。 朝に弱いC.C.に合わせて昼から映画、その後にショッピングをして、帰宅時間など特に決めていないルルーシュたちに対し、スザクたちは昼の映画までにショッピングをして、ルルーシュたちと会 わなければそのまま帰る予定だったらしい。いくらなんでも早すぎないかと呆れたが、ユーフェミアの姉・コーネリアの口出しが厳しいのは今さらの事実であるし、ユーフェミアの家のクリスマスパー ティに行くのだとナナリーが嬉しそうに話していたから、その準備もあるのだろう。 それでも恋人と少しでも長く居たいと思うのは道理で、ふたりはルルーシュたちに着いて来ることで滞在時間を延ばす作戦に出たのだ。 その割にはユーフェミアとC.C.だけで映画の話で盛り上がっているけれど、冬休み中なので明日会えるわけでもないし、何より今日観た映画は以前C.C.がユーフェミアから借りた恋愛小説を 映画化したものだったから、とにかく感動を分かち合いたいらしい。 こういうときは女の子同士の方が話が弾むもので、喋るのは専らユーフェミアの役割と化しているが、相槌をうつC.C.の貌はルルーシュといるときよりもよほど楽しそうに見えた。 「だって、君たちがこんなところでデートするなんて思ってなかったから」 「それは俺も同感だな」 一週間前、母親から映画の招待券をもらわなければ、ルルーシュがC.C.とショッピングモールに来ることはなかっただろう。 「絶対にC.C.とふたりで行くのよ」とにこやかに命令した母親は、クリスマスは家族で過ごすものだからとか何とか理由をつけて、仕事の関係でブリタニア本国に滞在中のシャルルの元へ行ってしまった。 ちなみにナナリーはユーフェミアの家のクリスマスパーティに参加した後そのまま泊まることになっているから、今夜は本当にルルーシュとC.C.のふたりきりだ。 ・・・・・だからといって今さら意識することもないし、そんなことよりC.C.が夕食もピザを食べたいとか云い出すのではないだろうかと、ルルーシュはそちらの方を結構本気で気に掛けている。そ んなルルーシュの胸中など知りようもないだろうが、C.C.を眺めるルルーシュの視線をどう解釈したのか、「やっぱり君たちらしいね」とスザクが苦笑した 「あら、C.C.だって羨ましいわ。夜もずっとルルーシュと過ごすんでしょう?」 私はお姉様が厳しいから、お泊りなんてできないもの・・と、眉を垂れるユーフェミアの声がひどく残念そうに響いたものだから、ルルーシュは思わず固まってしまった。 スザクですら笑顔が硬直している。 控えめな声量で会話を続けるユーフェミアとC.C.は、先の言葉がなかなか大胆な発言だったとこに気付いていないのだろうか。 しかし当然ながらルルーシュが何か云えるはずもなくて、仕方なく視線だけでスザクに早く帰れと伝えると、今回ばかりは正確に汲み取ってくれたスザクは門限を理由にユーフェミアへ帰宅を促した。 「じゃあまた、学校でね」 そう云い残したユーフェミアはスザクに手を引かれて店を出て行ったけれど、ルルーシュの中に生じた微妙な心境は簡単に消えるはずがない。 ユーフェミアの『夜も一緒にいたい』という言葉にこれほど衝撃を受けるとは思わなかった。 彼女は従妹で、幼いころから兄妹のように育った所為か、いつまでも穢れを知らない天真爛漫な少女の印象が抜けないのだ。 「ううーひゅ・・?」 「・・・・何でもない」 一つしか歳が違わない従妹に対する表現としては不適切かもしれないが、何だか娘を嫁に出すような心境に近い心痛を味わってしまったルルーシュは、ピザを銜えながらルルーシュの眼前でヒラヒラと手を振るC.C.の手首を捕まえて、そっとテーブルに戻す。 くだらないことが一瞬脳裏を過ぎったが、すぐに『ありえない』と自ら切り捨てて、ルルーシュは遅い昼食を再開した。 その後、腹が満ちたところでショッピングに切り替えたふたりは、C.C.が好きなブランドの服屋や雑貨屋など、とにかくたくさんの店をまわった。 強請るのはC.C.、支払いと荷物持ちはルルーシュの仕事だ。 3時間後には両肩からたくさんの紙袋を提げたルルーシュが完成していて、重くはないがとにかく嵩張る荷物に辟易するハメになった。 一番気まずかったのは電車の中だ。C.C.の云うことなど却下してタクシーに乗ればよかったと後悔したが、いつだって後悔は先に立たないもので、電車を降りた今も結局C.C.の意に沿って徒歩で家に向っている。 二歩手前を軽やかに歩くC.C.が少し恨めしい。 クリスマスプレゼントと称して、今日は無駄な出費をたくさん強いられた。もちろん中にはナナリーへのクリスマスプレゼントも含まれているけれど、ほとんどがC.C.の服だ。ルルーシュは自分のものなど一切買ってなければ、見てもない。 「・・・・・・・・」 それでも、心なしか嬉しそうに歩くC.C.の背を眺めているうちに、だんだん心が凪いできた。 気疲れが激しい一日だったが、悪くはないと思える。 順調すぎる親友と従妹に比べて足踏みばかりしているC.C.との関係だが、それが逆に自分たちらしかった。 ルルーシュはブリタニア本国の大学への進学を考えているから、C.C.も本国の大学に進学するとしても、ほぼ一年は確実に離ればなれになる。だから気が急いて、何とかC.C.の中に痕跡なり 居場所なりを作ろうと柄にもなく必死になった時期もあったが、はやり幼少時代から面識のある婚約者は幼馴染でもあり妹のような存在でもあって、いきなり恋人らしく接することができるはずもなかった。 いい雰囲気になって押し倒したことも2回ほどある。しかしC.C.の心がついてこなくて、結局どちらも未遂で終わった。そのことで怖気づいているわけでもないが、無理強いをしたいわけでもない から、成り行きに任せることにしている。 ・・・あまり考えたくない事態ではあるが、無理強いするのは籍を入れてからの最終手段だろう。 ズリ落ちそうになった紙袋の紐を肩に掛けながら気合いを入れ直していたルルーシュは、手に触れたやわらかい感触にハッと我に返った。 いつのまにかC.C.が隣に並んで、ルルーシュの指先を玩んでいる。 「・・・何だ?」 「そういえばお前のモノ、何も見なかったな」 「・・・・・何を今さら」 「まあな」 少しだけ絡んだ指を離すまいと握り込んだら、C.C.もキュッと握り返してきた。 華奢な身体がそっとルルーシュに寄り添ったのは、気のせいではないはずだ。 「・・・ま、私以上にほしいものなんてないんだろう?」 「・・・・・・・」 それを解っていて2回も待ったをかけるあたり、実は確信犯なんじゃないかとルルーシュは疑ってしまうのだが。 悔し紛れに「なんなら今夜もらってやってもいいが・・?」と答えれば、途端に頬を真っ赤に染めて「クリスマスプレゼントになるつもりはないッ」と口の中でモゴモゴ云うものだから、ルルーシュは小さく吹き出した。 ルルーシュにしか見せないこのギャップが、実はすごく愛おしかったりするのだ。 このまま真っすぐ帰るのは惜しい気がしたけれど、陽が沈んでグンと下がった気温にC.C.が少し震えていることに気付いていたから、ルルーシュはほんの少しだけ歩調を速めることにした。
『Ti Amo』 大遅刻ですが、2010年クリスマス話でした。 2010/12/28 up |