とある家族の場合 空気すらも黄金色の気配を帯び始める季節を迎えた、とある昼下がり。 農作物の様子を見て家に戻ったルルーシュは、玄関扉を開けた瞬間、思わず仰け反ってしまった。 なにせ、扉を開けた真ん前にC.C.が立っていたのだ。 間一髪で衝突を回避した自分の反射神経を内心で盛大に褒めていたルルーシュは、しかし困りきった表情のC.C.を見止めてサッと顔色を変えた。 C.C.は腕に幼子を抱いている。その彼女が「ど、どうしようルルーシュ・・」などと震えた声で云うものだから、なおさらだった。 とりあえず中に入り、玄関扉を閉め、C.C.を促してソファーに座らせる。幼子はグッタリしているどころかC.C.の腕の中でぴょこぴょこ手足を動かしながらご機嫌の 笑顔を見せていて、どこも具合が悪いようには見えないが、何かあったのだろうか。 C.C.の肩に手を添え、刺激しないよう努めて穏やかな声で「何があったんだ?」と尋ねる。 するとC.C.は膝の上の幼子をくるりと回転させ、正面から小さな顔を覗き込んだ。 「ほら、もう一回云ってみろ」 「ぅ?」 「・・・? おい、何を 「お前は少し黙ってろ、ルルーシュ! ・・・・・ほら、呼んでごらん?」 「・・・?」 ちょっと怖いくらいに真剣な貌をして幼子に呼びかけるC.C.に、ルルーシュは疑問符を顔中に貼り付けるしかない。 しかし、C.C.が真剣なのは見ていれば分かるが、『黙ってろ』はひどすぎではないだろうか。 少なからずイラッとしたルルーシュが「・・・C.C.」と唸った、そのときだった。その、愛らしい声が聞こえたのは。 「ちぃ〜ちゅぅ!」 ルルーシュが目を丸くする真ん前で、そんなことはまったく気にしていない幼子が極上の笑顔を見せる。 いつもであれば釣られて笑顔になるはずのC.C.は、しかし眉尻をこれでもかというくらい下げて、「ほらっ、聴いたかルルーシュッ!?」と助けを求めてきた。 C.C.、と。確かに幼子はそう云ったのだ。 「あぁ・・・すごいな」 「うぅう〜〜〜・・可愛いが、この子に呼びすてにされるのはっ、・・・・・でも可愛いッ!!」 そう云ってぎゅっと幼子を抱きしめるC.C.を見て、『いや、可愛いのはお前だろ・・』とルルーシュは思ったのだが、「どうしよう〜〜〜」と涙目で 見上げられて言葉に詰まってしまった。 お母さんと呼ばれるのがいいか、ママと呼ばれるのがいいか、議論に延々と付き合わされたのはつい先日のことである。 それが根底から覆される事態が発生しているわけだから、C.C.が動揺するのも無理はないのだ。 「C.C.・・」 「ちぃ、ちゅぅ」 「「・・・・・・・・・」」 ルルーシュが呼べば、幼子も呼ぶ このままではC.C.と呼ぶなと云われかねない。 あまりの立場のなさに嘆きたくもなるが、しかし幼子に対するC.C.の溺愛ぶりはすでにルルーシュもお手上げ状態なのである。 「・・・・・」 それでもルルーシュはC.C.の腕から幼子を奪って、C.C.の目の高さまで持ち上げた。 「お母さん、だ。お母さん」 「おいッ、・・・ルル 「おかぁ?」 「そうだ、お母さん」 C.C.をお母さんと呼んだ瞬間にゾワゾワ〜ッと鳥肌が立ったが、ルルーシュは我慢して念を押す。すると理解しているのか、いないのか、幼子はC.C.に向かって 腕を伸ばして「おかぁた」と呼んだ。 「ん・・・」 ルルーシュの手から幼子を受け取って、C.C.は小さな身体を抱きしめる。 その幸せそうな笑顔にホッとしつつ、今後も『お母さん』呼びを続けなければならないのかと思うと胃の裏側を抓られているような不快感を感じて、ルルーシュは 顔を歪めたのだが。 「・・・だが、お前にお母さんと呼ばれるのは気持ち悪いな」 「なっ、・・!」 よりによって気持ち悪い扱いされていしまい、ガックリ肩を落とすしかなかった。 誰もC.C.を自分の母親だと云っているわけではないし、思ってもいないというのに。 ・・・まぁ、C.C.はマリアンヌの友人だったから、その息子であるルルーシュに母呼ばわりされると抵抗を感じるのは分かるのだが。 「 ルルーシュだって、幼子の母であるC.C.ではなく、自分の女であるC.C.を求めているのだ。 いつになく大胆な発言にポポッと頬を染めたC.C.は、幼子が不思議そうに見上げる前で怒ったような貌を見せて、 しかしグッと息を詰めた後、ルルーシュに向かって照れたように微笑んだ。 やさしく細められた琥珀色の瞳は少し潤んでいる。 それは嬉しい気持ちを押し隠しているときの、C.C.の無意識的な反応で。 C.C.の反応と気持ち悪い発言から考えて、これからもC.C.を名前で呼んでいいのだと結論に達したルルーシュは、心底ホッと胸を撫で下ろした。
『とある家族の場合』 いい夫婦の日(一日遅れ)ssでした。 2010/11/23 up |