運命は分岐する ひとり歩くとすれ違う男が十人中九人は振り返る美少女が時計台の下で佇んでいれば、明らかに待ち合わせをしていると分かっても、声を掛けたくなるものなのだろう。 あらかじめ順番が決まっていたかのように代わる代わる云い寄ってくる男たちを相手に、C.C.は冷めた態度をとることすら面倒になり、視線すら合わせなくなっていた。 飲食店にC.C.を残して図書館に行ってしまったルルーシュが恨めしい。 見て回りたいところもなく、早くから待ちぼうけを食らっているからこそ特に、だ。 何百年もかけてようやく巡り逢えた男より魅力的な男など当然いるはずがなく、そもそも魅力あふれる男が軽々しくナンパしてくるはずもないから、暇つぶしにもならない。 「俺たちと遊ぼうよ」などとありきたりな言葉を並べて肩を抱こうとする十数人目の男の腕を払おうとして、しかしC.C.は横から伸びてきた別の腕に捕らえられてしまった。 「連れに、何か用でも?」 頭上で響いた声は、耳に馴染んだ声だ。 遅い、と文句を云いかけて、ナンパ男たちの呻り声にかき消される。 若干うんざりした貌でルルーシュを見上げると、目深に被った帽子の下の瞳は圧倒的な迫力を湛えていた。 そこまで大きな都市ではないが、交通の要であることは街の外からでも窺えたから、念には念を、ということで、ルルーシュは特殊マスクで顔を変えている。 それに合わせてカラーコンタクトレンズも入れ、顔の造形自体はルルーシュの学友に似た十人並みのものになっているというのに、 やはり滲み出る気配は変えようがないのだろう、下に人を従えて生きる者が放つ独特の威圧感にナンパ男どもはあっさりと気圧されてしまった。 しかし、敵わないと分かっていても足掻く者はいるもので。 男のひとりが「こんなヒョロいガキが満足させられるのかよ」と下卑たことを吐き捨てたものだから、C.C.は付き合っていられないとばかりに鼻を鳴らして、 しかしルルーシュの腕に腕を絡めた。 「生憎、この男以上に私を満足させる男はいない」 そう云いながら意味ありげに艶やかな笑みのひとつでも浮かべてやれば、美少女の色香と絶対的な敗北に打ちのめされた男どもは苦々しい表情を浮かべて 押し黙るより他はない。 騒ぎが大きくなる前にその場を離れると、今度はルルーシュから呆れたような溜息が零れた。 「・・・・・誤解を招くような云い回しはやめろ」 「誤解もなにも、お前以上の契約者はいなかったのだから、事実だろう?」 C.C.はケロリと返す。「契約者ね・・」とルルーシュがぼやいたような気がしたけれど、こんな往来で問い質しても答えるはずがないと分かっていたから、C.C.も 聞こえないフリをした。 晩秋の陽は短い。 日の入とともにグングン気温が下がっていく街に、C.C.はルルーシュと腕を組んだまま、とりあえず歩を進める。 きちんとした寝床で休める好機はあの石畳の街以来12日ぶりで、今日のルルーシュは特殊マスクで変装もしているから、どこかホテルにでも泊まるのだろう。 交通の要所であり、また観光都市でもあるこの中規模都市には宿泊施設が多く、それこそピンからキリまで選ぶことができる。 酒場の宿屋もないことはないのだが、ホテルと比べて圧倒的に数が少ない上に値段も法外的に違うこともないし、治安強化のため警官などが立ち入ることもあるようで、 ワケありでもない限りはホテルに宿泊するのがこの辺りの常識のようだ。 ルルーシュは一度クレジットのキャッシュ機能を使って金を引き出し、また黙々と歩き続ける。そしてこの街は素通りするのかとC.C.が思い始めたころ、 ようやく目的地に着いた。 それは中心街から少し離れた、一見するとアパルトマンのようなホテルだ。 すでに話はついているのか、二、三ほど言葉を交わしただけでキーを預かったルルーシュは、フロントの右手奥に見える階段を上がるようC.C.に目配せをして、 旅行カバンを片手にC.C.の後をついてくる。 3階の一番奥の部屋。それが今晩の宿だった。 アンティークグリーンを基調とした、落ち着いた柄の壁紙といい、シンプルならがも温かみのある調度品といい、ホテルというよりも家というイメージが強い部屋だ。 C.C.は基本的にどんな場所でも状況でも寝泊まりできる自信があったが、寛げる雰囲気と旅の疲れにすっかり気を緩め、 真っ先にベッドへ潜り込もうとした。 シャワーを浴びてからにしろ、と肩を掴まれてしまってはベッドにダイブすることもできず、C.C.はしぶしぶと従う。もちろん、ここでさっさとシャワーを済ませる、 なんて真似はせず、バスタブに湯を張って、むしろ嫌がらせのようにたっぷり1時間半ほど長風呂を楽しんでやったのだけれど。 遅いと不満全開のルルーシュは無視してベッドに転がると、疲れが和らいだことと身体が芯から温まったことで、驚くほど気持ちよく眠りに就くことができて。 ふと目を覚ませば、時刻はそろそろ正午をまわろうとしていた。 室内にルルーシュの姿はない。 ダブルベッドの空いたスペースにルルーシュが寝ていた痕跡はあるものの、肝心の男がどこへ消えたのか見当すらつかない。 ルームキーも消えているから外出したことは確実だが・・・伝言のメモすらない。 ついでに、 「・・・・・・・・・・・・」 上体を起こしてしばらく虚ろな目をしていたC.C.は、上体を傾けて再びベッドへと倒れ込んだ。 少し硬めのスプリングが撓って、C.C.の細い身体が跳ねる。しかしその心中は跳ねるどころか、軽く怒りに支配されていた。 いかにもルルーシュらしいと云えばルルーシュらしいが、アッシュフォード学園での同居生活時ならともかく、ホテルだから身の安全が保障されているとはいえ、 知らない街で知らないうちに留守番をさせられるとは思っていなかった。 しかも、寝込みを襲う気など一切ないらしい潔癖ぶり。 別に襲われたかったわけではないけれど、・・・ルルーシュは大切にしたいと云った自らの言葉を実行に移しているだけなのだろうけれど、おそらく仮にもたぶん『恋人』という 表現が一番しっくりくる関係に落ち着いたというのに、この期に及んで何をそんなに躊躇する必要があるのだろうか。 私に魅力が足りないとでも云うのか・・?などと考えてはイラッとしつつ、しかし最も不本意なのは、こうやって悩んでいる自分の方こそ欲求不満みたいだと感じることで。 「・・・・っ、冗談じゃない・・!」 そう苦々しく吐きだして、C.C.がギュッと目を瞑ったところで、ドアの方からカタンと音が聞こえた。 ルルーシュが戻ってきたのだろう。起きて迎えるのも違う気がして、C.C.は目を閉じたまま気配を探る。ふわりと漂うパンの香りと共に、 警戒心を抱かせない馴染んだ気配がまっすぐ部屋に入ってきて、紙袋特有の乾いた音が聞こえたかと思えば、数秒の空白の後にベッドへ圧力が掛かった。 ルルーシュがすぐ傍に腰掛けたことはスプリングの沈み具合で分かるが、寝たフリを続ける。すると、頬を冷たいもので撫でられた感覚がした。 その冷たいものがルルーシュの指で、顔に掛かった髪を彼が払ってくれたのだと悟るころには、突き刺さる視線に白旗をあげ、C.C.は瞼を持ち上げていた。 「お前は・・・いつまで寝ていれば気が済むんだ」 呆れたような口調とは裏腹に、ルルーシュの声は優しい。 身長差があるから目線の高さは元からルルーシュより低いものの、横になっているところを見下ろされるのには慣れていなくて、C.C.は「うるさい」と 小声で返しながら身体を起こした。 「それで、どこに行っていた?」 別にさみしいとは思わなかったが、少し不安になったのは事実である。 するとルルーシュは明らかに面白くなさそうな貌をして、ソファーの方へ移動した。 深く腰掛け、足を組むのはルルーシュが考え事をするときの癖だ。なにか引っ掛かることでもあるのだろう。 「教会だ」 「教会・・?」 「ああ。その窓からも見えるが、このあたりで一番大きい教会らしい。そこで先代のC.C.の記録がないか探っていた」 「ッ、・・・!」 さすがにここでシスターの話がでてくるとは思っていなかったC.C.は動揺した。 しかし、目指すギアス教会はもう目と鼻の先なのだ。 教会にもコミュニティーがあり、もし同じコミュニティー内に異色の教会が存在するのであれば、その異端性を審議する審査会や裁判などが行われたはずである。 まして、シスターが存命のころから『不老不死の魔女がいる』と云われて民衆から敵意を向けられていたギアス教会を他の教会が無視していたはずがない。 ならば当然、シスターに関する記録が残っていてもいいはずなのだが。 「・・・その様子だと、なかったんだな」 浮かない貌をしたルルーシュを見れば、結果など一目瞭然だった。 C.C.の指摘にピクリと眉根を寄せたルルーシュは、しかし組んだ手を腹の上に置いて、思案顔を浮かべる。 「隠しているか、もしくは過去の遺産を正しく把握していないかのどちらかに決まっている」 ルルーシュがそう呟くのを聞いて、C.C.は改めて納得した。 教会にとって、不死とは絶対に認められるものではない。その唯一の例外が彼らの神であり、神と同列の存在など他に許されないからである。だからこそ先代C.C.が死んだ 事実には何よりの価値があり、悪魔と契約を交わして不老不死を語った魔女を処刑したと大々的に記録が残るはずなのだ。 ルルーシュは魔女裁判かそのあたりをテーマに研究する大学生という触れこみで先代C.C.のことを聞き出そうとしたのだろう。 しかし教会側はそんな事実も記録もないと主張し、現在に至る、といったところだろうか。 「それで? これからどうするんだ?」 C.C.はあくびを零しながらルルーシュに訊いた。 知らぬ間に事態がどんどん展開し、事後報告を聞くだけという状況に退屈ぎみなのだ。それなのにルルーシュが咎めるような視線を注いでくるものだから、C.C.も 負けじと不満を顔中に貼り付けたら、今度は溜息を吐かれた。 さすがにムッとする。しかしルルーシュが「・・昼食だ。着替えてこい」と云ってパンが覗く紙袋を指さしたので、今回もC.C.は従わざるを得なかった。 ルルーシュ曰く、どれだけ揺すり起こしても熟睡していて起きなかったのだという。 教会にアポを取りつけていたので行かないわけにもいかないが、しかしC.C.が無事にチェックアウトを済ませる確信も持てなかったので、 「連れが体調を崩したのでもう一泊させてほしい」とホテル側に願い出たらしい。 するとフロントの老婦人は快諾してくれた上に医者まで紹介してくれたりと、それはそれで大変な目に遭ったそうだ。 体調不良を理由にした手前、C.C.は少なくとも夕方までホテルに待機するのが無難だろうと云ってルルーシュは再び部屋を後にしたが、 特にすることもないC.C.はまた暇を持て余す。だから結局ベッドに逆戻りしたわけだが、ぬいぐるみを抱えてゴロゴロしながら、C.C.は教会にあるという 先代C.C.の記録について考えていた。 ルルーシュは別の教会をあたってみると云っていた。しかし今の時代、魔女狩りは教会の黒歴史と化している。それを外部の人間にすんなり開示するとは思えなかったし、 大学生という触れこみでコンタクトをとったのなら、研究の対象にされるなど堪ったものではないと逆に警戒されるのではないかとも思う。 ルルーシュにあっさり却下されるのは予想できるが、どうしても真実を聞き出したければショックイメージを使うのもひとつの手だ 時間にして1時間半ほどだろうか。 どんな事情があったか分からないが、思っていたよりも随分早い。 やはり浮かない表情のルルーシュに、C.C.は困ったように笑った。 ルルーシュはC.C.の前で感情を偽らない。喜怒哀楽、すべてだ。それがアッシュフォード学園で共同生活をしていたころから嬉しかった。 「それで? これからどうするんだ?」 つい2時間半ほど前に訊いた質問を意地悪く繰り返す。 ソファーに掛け、蟀谷に指を当てたルルーシュは「どうする、か・・」と呟いた。 ルルーシュが煮え切らない理由は想像に難くない。 この街に先代C.C.を土台としたギアスやコードの手掛かりが残っているかもしれないのに、現存するかどうかも分からないギアス教会を探す旅を続けることに躊躇いを 覚えているのだろう。 冬はもうすぐそこまで迫っている。 凍死や餓死の心配がないというだけで、寒さや飢えの感覚自体は普通の人間と変わらないことをルルーシュは知ってしまった。だから仮にギアス教会に 辿り着けたとしても、これから迎える厳しい季節をギアス教会もしくはその周辺で凌ぐことができるのか、 実際に踏んだこともない土地ということもあって判断しかねているのだ。 「お前は、どうしたい?」 いつの間にかルルーシュの瞳はC.C.を捉えていた。 しかしギアス教会はあくまでギアスやコードを解明するための足掛かりとして選んだのであって、その場所自体が最終目的地ではない。 雪解けと共に消えてしまうのならともかく、季節がいくつ変わったところでギアス教会は逃げも隠れもしないのだから、生活方面での身の安全を考えるなら 春まで宿なりアパートなりを借りるのが賢明だろう。いくら変装をしているとはいえ交通の要所と云われるこの都市ではルルーシュも落ち着かないだろうし、C.C.の 目立ちすぎる容姿が噂となってナナリーやスザクの耳にどう入るとも知れないことが不安であれば、ここよりもう少し規模の小さい都市や街にでも一時的に 身を寄せればいい。そして冬が過ぎてからギアス教会を目指せばいいだけの話だ。 「私は、・・・・お前に従うよ」 だから、C.C.はあえて何も云わなかった。 選択肢すら挙げない。わずかに眼を細めたルルーシュに向かって淡々と事実を告げる。 「もう、心は決まっているんだろう?」 ルルーシュは自分で道を選ばないと気が済まない性分だ。そしてC.C.はルルーシュの選択を批判したことはあっても誘導したことはないし、 これからもそうだと思っている。 だから、あとは背を押すだけ。 「私が何か云って変えるようなお前ではないからなぁ」 諦めたような笑みを浮かべたC.C.に、ルルーシュは不貞腐れた貌を見せた。プイと顔を背ける子供っぽい行動が、本当の笑みを誘う。 ルルーシュの方が危機管理能力が高い。おまけに順応力も高く、完璧主義だから、彼といればどんなところでも大抵は快適に過ごせるに違いなくて、口では何と云おうと、 従わないなんて選択肢は存在しないのだ。 ・・・・・・・いや、そんな取って付けたような理由も要らないか。 ひどくシンプルだけれど身を焦がすような鮮烈な希求。 こんな想いを抱かせた男は、見ず知らずのナンパ男に堂々と宣言してしまえるくらい、ルルーシュだけ。 ルルーシュだけ、だから 「・・・まるで俺が狭量のような云い方だな」 「うん? 完全否定はまず無理だろう」 「〜〜〜〜C.C.・・!」 「それでも私は、一緒にいる」 強く云い切ったC.C.の言葉に、ルルーシュが振り返る。 鈍い男だが、これが約束でも何でもなく、ただC.C.の強い意志だということは汲んでくれるだろう。 もう一歩踏み込んで、なぜそう云い切ったのか、その理由まで推し量ってくれるとベストだが、そこまで要求するつもりはない。 案の定ルルーシュは「そうか・・」とだけ呟いた。 「そこまで云うなら・・・あとで不満は聞かないからな」 まっすぐ注がれるC.C.からの視線に居た堪れなくなったのか、そう釘をさしながら、ルルーシュはC.C.と正面から向き直った。 揺るがない、紫水晶の双眸。 ぬいぐるみを抱いてベッドに転がっていたC.C.も身を起して居住まいを正すほど、真摯な眼差しだった。 しかしこの後ルルーシュからどんな選択を聞かされようと、ゼロ・レクイエムの結末を明かされたときに感じた胸の痛みに比べたら、どれも無いに等しい程度の 困惑しか待っていないことは確実で。 落ち着いた心境で無言の肯定を返すと、それを受けたルルーシュは静かに云った。 「 およそルルーシュらしくない発言だと初めは感じたが、これまで死に急ぐように生きてきたからこそ落ち着いて暮らしたいと望むのかもしれない。 元より反対するつもりもなかったC.C.は、「わかった」と静かに頷いた。 それからはC.C.も一緒に外出して、もう数か所ほど教会を廻ったり、日持ちする食糧を買い足したり、この地方の地図を入手したりして過ごした。 夕食を済ませてホテルに戻ってくるころには、すっかり夜の帷の中だ。 またしばらくベッドと無縁の日が続きそうで名残惜しくはあるが、ルルーシュに促されるままシャワーを浴び終えたC.C.は、しかしベッドに直行せず、 部屋の灯りを落として窓際に寄った。 窓から望む景色が昼とは違った顔を見せるのが興味深い。 教会の大聖堂の壮大なシルエットが夜空にくっきりと浮かび、その手前にはアパルトマンの窓から漏れる光が無数に広がっている。 以前はこの光の下にいるだれかが忌まわしいコードを・・・不老不死の業を継いでくれるのかもしれないと思いを馳せるのが日課だった。 しかし、この旅からは違う。 闇を制する光の下で、コードやギアスの存在も歴史も知らず、ただ人々は穏やかな時間を過ごしている だれにも禍の芽を捲かず、だれからも迫害されず、果てのない生を停滞することなくルルーシュと共に『生きて』いけたなら、それだけで充分すぎるほどしあわせだ。 「 振り返れば眉を顰めたルルーシュが立っていて、C.C.は淡く微笑んだ。 湿り気を帯びた髪が頬や首筋に貼りついて、男のくせに驚くほど色っぽい。シャワーを浴びるために特殊マスクを外したからルルーシュの本当の顔がそこにあって、 だからこそ加算される色気があるのだろう。 C.C.の手を取ったルルーシュが「・・冷えてるじゃないか」とぼやいたけれど、C.C.にしてみればルルーシュの方が風邪をひきそうだと思った。 コード保有者が風邪をひくのかどうかは別として、とにかく乾かしてやろうと珍しく親切心が動く。それに、このまま寝たのでは盛大に寝癖がつきそうだ。そんなことを 考えながらルルーシュの手を引いて鏡台まで移動しようとしたC.C.は、しかし腹にまわったルルーシュの腕に動きを止められてしまった。 思わず離してしまったルルーシュの手が、今度は前から肩をぐるりと抱く。 「・・・・・・・逃げるな」 「逃げ・・? って、何の話だ」 身に覚えのないことを非難されても困るもので。 C.C.はとりあえず腕の中から抜け出そうと試みたけれど、やんわりとした拘束は意外と強くて、結局叶わなかった。 「おい、ルルーシュ?」 「 「はぁ?」 ルルーシュは一体何を云っているのだろうか。 逃げるも何も、昨夜は早々に寝入ってしまって、部屋の外にすら出ていないというのに。 「・・・・・、ッ!?」 ルルーシュが吐いた溜息が耳の裏を擽って、ゾクリとしたその瞬間にC.C.はようやく答えに辿り着いた。声にならない声をあげてC.C.がビクリと身体を震わせると、 こんなときだけC.C.の心中に敏いルルーシュは、溜息交じりに「お前も鈍い」と呟きながらC.C.の肩口に額をつける。 腕の拘束力が強まるのに比例して、C.C.も身を硬くする。・・・が、ルルーシュが云ったことを何度も頭の中で反芻しているうちに可笑しくなって、C.C.は クスクスと笑ってしまった。 緊張もゆるゆると解ける。 右肩に乗る頭に触れると、ひやりと少し冷たかった。 「そこで寝込みを襲わないのがお前らしいよ」 「当然だ。そんな趣味はない」 「私を大切にしてくれるそうだからなぁ」 「・・・だから、してるだろ」 「なら、今は嫌だと云ったらやめてくれるのか?」 「・・・・・・・・・・・・」 明確な返事はなかった。 代わりに、ルルーシュの腕が緩む。その隙に身をくるりと反転させたC.C.は、ルルーシュの頬を両手で包みこんで、きゅっと結ばれた唇に唇を押しつけた。 触れ合いは、ほんの一瞬。 唇を離すと、ちゅ、と可愛らしい音がした。 身長差を補うために上げた踵を床に下ろして、ルルーシュの様子を窺う。そこには様々な感情を綯い交ぜにしたような表情を浮かべるルルーシュがいて、感情が原動力の 癖に理性的であろうとする男が今この状況下でどの感情を優先させるのか、とても楽しみだった。 ( まるで電池が切れたおもちゃのように寝入ってしまった昨夜、まさかルルーシュにお預けを食らわせていたとは考えもしなかった。 起きたら姿がなかったし、戻ってきてからは教会とシスターの話ばかりだったから特に、だ。 ぴたりと合っているようで微妙に噛み合わない歯車がいかにも自分たちらしくて、クスリと笑みが零れる。 そこへ、唇が降ってきた。 ただし与えられたのはママゴトのようなキスではなく、もっと深くて攻め立てるようなキスで。 どうやらルルーシュは理性と一番縁遠い感情を優先させることにしたらしい。 「・・・髪、乾かしてやろうと思ったのにな・・」 蟀谷から手を差し入れて黒髪を梳きながら云えば、目を細めたルルーシュは「次の機会でいい」と云いきって再び唇を塞いできた。 口内を弄る舌の動きに、腰を抱く手の熱に、クラクラと目眩を起こしそうだ。 それでも・・・・・ 「愛してる そっと囁かれた初めての言葉に胸が詰まって、でもそれ以上にしあわせで。 長く、つらい旅の果てにようやく巡り逢えたしあわせを逃さないように、C.C.はルルーシュの背に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
『運命は分岐する』 2010/ 9/27 up |