愛し子とともに




 あ〜ん・・などと云わなくても、口元に匙をもっていけば、小さな口はパカリと開く。
         それなのに、つい「ほら、あ〜ん」と云ってしまうのは、どうしてなのだろうか・・・?


 そんなことを考える自分さえ楽しみながら、C.C.は幼子に離乳食を与えていた。
 離乳食、と云っても真剣に乳離れさせようとは考えていないから、リンゴをすりおろしたものや野菜スープなどを少し食べさせている程度だ。思いのほか食いつきが よくて驚いているが、それも悪いことではないとC.C.は思っている。
 まるで耳かきを大きくしたような、幅が狭いうえに深さもない離乳食用の匙。
 その上に乗る量など高が知れているというのに、その一口が精一杯な小さい小さい口が、もっと食べたいと強請って開く。
 この食い意地は、一体誰に似たのだろうか       そう思ったC.C.は、閃くものがあってニヤリと笑った。


「あ〜・・」


 すりおろしたリンゴを小さな匙に掬って、もの欲しそうに開く幼子の口元にもっていく。
 幼子の下唇に匙をつけ、すっかり食べさせてもらえる気でいた幼子がそれを合図に口を閉じようとした瞬間。
 C.C.は、ひょい、と匙を幼子の口から離した。
 ぱくん、と閉じる口。そこに期待したものがなくて、幼子はきょとんとした表情を見せる。


「ふふっ」


 もしこの場にルルーシュがいたなら、「何をしているんだお前は!」とでも云って確実にC.C.を叱り飛ばしただろう。
 こんなふうに子どもを揶揄って遊べるのは、親の特権だというのに、だ。
 しかし2回ほど同じことを繰り返したら、今度は幼子の方が怒りだしてしまった。
 うー、とも、ぶー、とも聞こえる声を発しながら、両手でテーブルをバンバン叩く。


「はいはい、分かったよ」


 まだ言葉では伝えられない幼子の感情表現は、ひどく拙い。
 口に入ると思っていたリンゴを得られなかった怒りだけでなく、それをC.C.に伝えられないもどかしさが更なるストレスとなって、テーブルを叩かせているのだろう。 ただ泣くだけだった赤子の頃と比べると大いに進歩しているが、人間にはまだまだ遠いようだ。
 今度はいじわるせずに食べさせてやると、幼子はようやく納得したような表情を見せた。


「お前の短気はルルーシュ似だなぁ」


 なにせ、怒った貌がルルーシュそっくりなのだ。
 顔立ちはどちらかと云えばC.C.似であるのに、不思議なものである。


「ほら、これで最後だぞ」


 ルルーシュは今、山を挟んだ向こう側の街に出掛けている。
 昨今の世界情勢を確かめるだけなのに、山を下った町ではなく、わざわざ遠い街に足を運ぶのは、万が一でも悪逆皇帝が生きていると露見した場合にC.C.と幼子が この地を離れる時間を少しでも稼げるように、との配慮からだ。C.C.は逃げも隠れもしない心づもりだったが、幼子のためと云われると弱くて、今ではルルーシュの好きに させている。
 心配は、あまりしていない。
 命の危険ならば、それこそ黒の騎士団の指導者として活動していたときの方が心配だったし、こっそりと跡をつけては陰から見ていた時期もあった。 それが今は不老不死なのだから、命に別状がないことは疑いようもないだろう。
 しかし、C.C.が幼子の面倒を見ながら家でのんびりと待っていられるのは、命の心配をしなくてよくなったからではない。
 ルルーシュが帰る場所はここなのだと、確かに信じているからだ。
 万にひとつもない。無駄に知恵のまわるルルーシュのことだから、きっとC.C.でさえ思いもつかない奇策で人々を捲いて、 何事もなかったかのように帰ってくるのだろうとC.C.は思っている。
 案ずることなど、何もない。


「帰りにリンゴ、買ってくるといいなぁ?」


 だから、幼子のぷくぷくとした頬をつついて、C.C.は笑っていられるのだ。












『愛し子とともに』


帰りを、待っているよ




2010/ 8/27 up