おうちへかえろ 陽が沈んで間もない薄闇の中、ルルーシュは家路を急いでいた。 ギアス教会から仮住居としている家までは、急ぎ足で10分ほど。 構い倒すと怒るくせに放置すると拗ねる嫁が、般若面よりもよほど迫力のある無表情で待ち構えている様子が容易に想像できて、怖い。 しかも、「腹がすいた」だの「早く作れ」だの「ピザにしろ」だのと喚くのならともかく、最近はすっかり夕食の準備を整えて待っているから余計に恐ろしいのだ。 集中すると時間を忘れてしまうのは、確かにルルーシュの悪い癖である。しかし、それでもギアス教会の隠し地下空洞で見つけた嚮団の情報管理端末のシステムロックを あともう少しで外せる段階まで漕ぎつけたのだから、1時間くらい遅れもするだろう・・などと、誰が聞いているわけでもないのに言い訳の ひとつもしたくなるというものである。 尽きることのない日々だが、一日が24時間という制約は変わらない。 だから、あれもこれもと手を伸ばすことはできないと分かっているけれど。 決して相容れない願いではないはずなのに、どちらかを優先すればもう一方が疎かになる状況はルルーシュにとってもジレンマで、だから 今日も軽く息を切らしながら、C.C.の待つ家へと急ぐのだ。 木々のあいだを通る小道を抜ければ、テニスコート2面程度の広さしかない草原に出る。 その先に建つ、小さな家。平屋で、相当年季が入っていて、枢木の家の土蔵よりも狭いかもしれない仮住居。 その小さな窓からは、やわらかな蝋燭の灯りが漏れていて。 部屋のドアですら自動開閉が主流である現代ブリタニアの生活に慣れ親しんだルルーシュには不便だらけの生活だけれど、それでもこの家での暮らしに 不満を感じることなく生活していられるのは、こんなふうに灯りが漏れる窓に象徴されるような、 ルルーシュが幼いころから抱き続けてきた 『帰るべき、あたたかい家』 そのものの姿をこの家に見出しているからなのだろう。 おかえり、と云われているようで、ホッと安心するのだ。 コツコツとドアを叩くと、その響きだけでルルーシュとその他を聴き分ける嫁の足音が近づいてくる。 機嫌が悪くても欠かさず云われる「おかえり」の言葉に応えるため、ルルーシュは意識して息を整えた。
『おうちへかえろ』 2010/ 8/21 up |