クプレA 電気すら通っていない山奥のひっそりとした暮らしであるから、朝も夜も早くなってしまうのは自然なことである。 アッシュフォード学園のルルーシュの自室に匿われていたときとは比べものにならないほど規則正しい、かつ、家事や簡単な農作業などを手伝う 健康的な生活を送っていることもあって最近は特に寝付きがよく、C.C.はベッドに入るなり安心できるぬくもりに擦り寄り、瞳を閉じた。 睡魔はすぐにC.C.の意識を奪おうとする。 しかし 「C.C.・・・お前は、子どもをほしいと思うか?」 予想だにしていなかった言葉と穏やかな声色に眠気を吹き飛ばされてしまったものだから、C.C.はパチクリと瞬きをしてルルーシュを見遣った。 「・・・・無理、だろう?」 質問への返答として不適切な言葉が出てしまったのは、それだけ非現実的な話だと思ったからだ。 深い紫紺の瞳から冗談や揶揄の意図を感じ取れなかったこともC.C.の動揺を誘った。・・・・・いや、元から冗談や揶揄を好む男ではないのだけれど、 それでも諦める云々以前にそもそも子どものことなんて考えたことなどなかったから、急な話に驚いたのである。 それなのに、ルルーシュは至って平然とした貌で「確証はないが・・」と続けて。 「可能性はゼロじゃない。今の俺はお前と時の流れが同じだからな」 思わせぶりな指の動きにハッと気付いたC.C.は、目元のあたりから頬までをほんのりと染めた。 そこには2日ほど前にルルーシュが咲かせた薄紅色の花片がまだうっすらと消え残っていて、いつまでも肌の上で続く自己主張に、毎度のことながら辟易していた ところだったのだ。 さすがルルーシュの残した跡だけのことはあるな、などと、今のいままで軽く流していたのだが、他のだれでもなくルルーシュに愛されたときだけは そのすべてが身体に刻まれるのだと意識した途端、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。 たとえそれが、コードによる力の奪い合いが起こった証拠だとしても、だ。 ルルーシュの顔が直視できない。 「で、どうなんだ?」 「う・・・ん、・・・・・・・・いたら・・楽しい、かも、しれないが・・・」 たぶん、しあわせすぎて泣きたくなる。 ルルーシュがコードを継いで今ここに居ることさえ、キセキに等しいというのに。 「・・・・・・そういうお前はほしいのか?」 「・・・・、・・どうかな。あまり考えたことがない」 「は? じゃあなんでこんなこと訊くんだ?」 そう訊きながらも、愛することに貪欲なルルーシュのことだから、愛情を注ぐ対象が一人である現状に満足できなくなったのだろうとC.C.は勝手に予想していたのだが。 「俺だって一度くらいは・・・歯止めをかけずに、お前を・・」 羞恥に耐えているような、それでいて熱の籠もったルルーシュの眼差しを直に受けてしまったものだから、C.C.はカァ〜ッと熱くなる頬を抑えることができなかった。 さりげなくルルーシュから離れようとする。 冷静に逃げようとするな、と云われても、危険を回避しようとするのは生物の本能なのだから仕方がない。抱き寄せようとする腕には逆らわず、 しかしC.C.は非難の眼を向けた。 「お前、私を壊したいのか?」 ルルーシュの云うところの『歯止めをかけた状態』でも悔しいくらい喘ぎ啼かされてきたというのに、これ以上無茶なことをされたら身が保たない。確実に。 「ばッ・・、人聞きの悪いことを云うな!」 「でも、そういうことになるだろう?」 「そうじゃない! 〜〜〜〜だからっ、・・できないようにとか、そういうことを気にしながらやりたくないだけだ」 ルルーシュもそれなりに恥ずかしかったのだろう、語尾はほとんど聞き取れないくらいに勢いを失くしていたけれど、C.C.はもっと赤面していた。 こういう場合、ルルーシュの言を肯定していいのか否定するべきなのか、迷う。 鉄の理性で徹底的に自制している男の箍が外れた場合、痛い目を見るのは決まって女の方なのだから。 「・・・・・・・」 重く圧し掛かってくる、なんともいえない雰囲気。 しかし、それを意識的に無視して、C.C.はルルーシュの胸に額を押しつけた。 くぐもった声で告げたのは、なるべくやさしくしろ、の一言。 「・・ん? なにか云ったか?」 「〜〜〜ッ、何度も云わせるな、このバカッ」 思わず頭突きを食らわせたくなった衝動を抑え、C.C.はさらに額をぐりぐりと押しつけた。 聞こえなかったのではなく、聞こえないフリだったのは分かっているのだ。背に回された力強い腕が、その事実を雄弁に語っている。 考えたことはなかったけれど、もしルルーシュとの間に子どもが生まれたら、魔女としてこれまで受けてきた苦しみも哀しみもすべてが帳消しになって、それどころか おつりが溢れるくらい幸福に感じるに違いない。 子どもができなくても、ルルーシュに愛されている時間はひどくしあわせで。 結局のところ、C.C.にはルルーシュを拒む理由など、ひとつとしてないのである。 そんなC.C.の心中までキッチリ把握しておきながら聞こえないフリをするなんて、どれだけ意地の悪い男なんだと腹立たしく思わないこともないけれど。 ルルーシュの腕の中ほど落ち着ける場所はないと常々感じているC.C.は、小さく頬を膨らませるだけに止めておいた。
『クプレA』 こんな会話をしておきながら、 妊娠発覚時に父はうろたえるという(笑) 2010/ 6/25 up |