poco a poco




 クラブハウスの自室にあるベッドは決して小さくないが、それでもシングルサイズなのである。妥協に妥協を重ねてベッドを共用しているというのに、 詰めて寝ろと何度云ってもまるで聞く耳を持たず、ベッドを占有するように真ん中で堂々と眠っているC.C.を見下ろして、ルルーシュは盛大に眉を吊り上げた。
 定位置にもぐり込めないこともない。
 しかし、何が楽しくて高飛車な魔女とぴったり密着して眠らなければならないというのか。
 どちらかといえばベッドの奥の方が空いているけれど、いつも女が寝ている位置に横になるというのもあまりいい気分がしなくて、ルルーシュはグッと溜息を押し殺しながら C.C.の肩に手をかけた。
 軽く揺さぶる。
 危機意識を欠いた女はワイシャツ一枚という微妙に目のやり場に困る格好で寝ているため、上掛けを剥ぎたくない。だがそのまま奥に転がすと上掛けまで 巻き込まれてしまうことは明白で、余計に厄介だと考えた末の選択だった。
 本音を云えば、あまり身体に触れたくないのだけれど。


「おい、詰めろ」


 寝穢い女ではあるが、眠りが深いという印象はなかった。起こせばすぐに目を覚ますのだ。たとえ起きる必要がないと判断したときには速攻で二度寝するとしても。


「・・んぅ」
「C.C.、奥に詰めろと      ・・」


 だからぼんやりと瞼を開いたC.C.に、ルルーシュは揺さぶる手を止めて再度促した。
 しかし、言葉は中途半端に途切れる。
 C.C.がふわりと上掛けを剥ぎ、腕を広げたからだ。


「・・・ほら、おいで・・」
     な、っ・・!」


 俄かには信じられないが、どうやら寝ぼけているらしい。
 普段では考えられないC.C.のやわらかな声と響きにルルーシュはクラリと酩酊したような感覚に襲われ、そんな自分自身にひどく動揺した。
 おそらく別の誰かと勘違いしているのだろう。過去の契約者に幼子がいたことはすでにルルーシュも承知している。


(・・だからといって、こんな・・・)


 シーツの上に散らばる若草色の美しい髪。
 あどけない寝顔。
 乱れた襟元から覗く鎖骨と白い柔肌。
 華奢ながらもまろやかな起伏を描く身体のライン。
 思わずまじまじとC.C.を観察してしまったルルーシュは、ハッと我に返って視線を逸らした。
 他人のベッドを占領するような図々しい女は共犯者であって、それ以外の何者でもない。だからこそ続けられる同居生活は、たとえC.C.が女であると認識はしても、 意識したら終わりなのだ。
 それでも        ・・・


「・・・・・、・・・っ」


 ルルーシュはC.C.に上掛けを掛け直し、踵を返した。
 示された通りに隣へもぐり込むことも、反対側に回ってベッドに入ることも、今日だけは絶対にできないと判断したのだ。
 疲れが溜まることは確実だが、ソファーへと乱暴に身体を投げ出して、ルルーシュはグッと瞼を閉じた。












『poco a poco』


それでも芽生えてしまう、意識




2010/ 6/ 6 up