傷 「・・・・一体なにと闘ったんだ、お前・・」 朝 そうこうしているうちにルルーシュは足早に近づいてきて、指先でそっと左頬を撫でる。 瞬間、微かな痛みを感じた。 「あ・・」 「気付いてないのか? 切れているぞ」 「・・・え・・?」 自分でも反射的にパッと指先を当ててみて、確かに切れていることを確認した。 自慢のなめらかな肌に、普段は感じない段差がある。横一直線に5センチくらいの長さで走っているだろうか。そこに触れると違和感満載のピリリとした痛みが走るから、 切れていることが分かるのだ。 幸いなことに、血が出るほど深くは切れていないらしい。 はて、洗顔するときに鏡を見たはずだが、こんな傷はあったか・・などと考えていると、「あまり触るな」とルルーシュに怒られた。 「大した傷じゃないから、数日で治ると思うが・・・」 そう云われつつ至近距離でじっと頬を見つめられては、さすがのC.C.も恥ずかしさが募っていく。 見ている方はただ傷を観察しているだけかもしれないが、見られている方は一点に集中する視線がむず痒いのだ。瞳同士ならば見つめ返して視線が絡んで、まるで 会話をしているように意志を通わせることができるから何とも思わないけれど、ただ見つめられているという状況はひどく恥ずかしい。 次第に上気していく頬を押し止めるよりもルルーシュを退ける方が早いと判断したC.C.は、ルルーシュの両肩に手を置いて、離れろ、と意思表示をした。 「・・・・・・・・」 すると何を思ったのか、ルルーシュはチラリと一瞬だけC.C.の瞳を捕らえ、さり気なく傷をペロリと舐めてから身を離したのである。 これにはC.C.も飛び上がって驚いた。 頬にキスされることはあっても、舐められることなんて・・・・・ベッド以外ではまずありえない。 思わず両手で覆ってしまった左頬が痛いほどに熱くて、向けられた背を蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られる。 なのに、チラリと振り返られた眼差しに身体が動かなくなって、C.C.は仕方なく断念した。 次の日の朝 出血まで至らなくても、かさぶたはできるらしい。その所為で昨日よりも傷口が目立っていることに気がついて、C.C.はうっすらと眉を顰める。 そっと指を這わせると、指の腹に感じる、硬い感触。不老不死であった時分にはこんな傷、一日と云わず三分で完治していたというのに・・・。 こんなとき、些細なことだけれど、ああ人間に戻れたのだなと改めて実感する。 たぶん、ルルーシュも同じようなことを思っているのだろう。 昨日と同じようにダイニングで迎えたルルーシュが、しかしおはようの言葉よりも先に頬へ指を滑らせたのである。 その紫水晶が、じっと頬の傷を注視しているのにどこか遠くを見つめているようで、どう反応を返してよいものか迷う。 結局、ルルーシュの気が晴れるまでC.C.はその場に立ち尽くすしかなかった。 その次の日の朝 さらに次の日の朝 しかし、ルルーシュはホッとしたような貌で「よかったな」と云うのみで、一向に触れてくる気配がない。そのことに 引っかかりを覚えたC.C.は、そういえば、と思い返した。 C.C.を厄介者扱いしていたかと思いきや、俺のものだと主張したり。 八つ当たりしたかと思いきや、笑わせてやると云って引き止めたり。 なのに、有事が去ればいつもの素っ気ない態度に戻ってしまうのである、ルルーシュという男は。 よかったな、という言葉が厚意であることに変わりはないから、「ああ、そうだな」と応えつつも、ここ数日の過剰なスキンシップの所為で物足りなさを 感じてしまっているC.C.は、ズカズカとルルーシュに歩み寄った。 ルルーシュが当てにならないのなら、自分から行けばいいのだ。 ちゅ、と可愛らしいリップ音つきでルルーシュの頬にキスを落とす。すると眼を瞠って勢いよく振り仰いだルルーシュの頬が見る見るうちに染まっていったものだから、 3日前の仕返しが叶ったようで、C.C.はこの上なく満足そうに笑った。 特殊すぎる体質ゆえに様々な傷を受けてきたけれど、これほど記憶に残る傷はないだろう。 ルルーシュのやさしさや、想いやりや、・・・ダメなところも 頬の赤みを留めたまま面白くなさそうな貌をするルルーシュを見下ろしながら、たまに怪我するのも悪くないものだ、と、C.C.は そんなことをぼんやり考えた。
『傷』 この日からほっぺちゅーがおはよう代わりになるのです。 2010/ 1/ 6 up |