部屋でせっせと会計簿をつけていたナナリーは、居間から聞こえていたはずの話声が止んでいることにふと気が付いた。
 あれから30分くらい経っているだろうか。
 いつから止んでいたのか分からないが、いつもは時間が許す限りじゃれ合っているふたりであるから、めずらしいこともあるものだと不思議に思った。
 外出・・・は、絶対にない。ナナリーに声を掛けずに行くなんて、まず考えられない。

 では、一体何が      ・・?

 ナナリーの脳裏に、先日C.C.と一緒に観てしまったサスペンスドラマの一場面が鮮やかに蘇る。
 痴情のもつれで恋人を殺してしまった犯人の男が見せた、ひどく愕然とした貌。その動揺の裏で、無意識のうちに殺人を隠そうと画策しているのが印象的だった。
 そのときは俳優がどこかルルーシュに似ていると、C.C.とふたりで笑ったものだが・・・

「・・・・・、・・」

         いや、それこそ万が一にもありえない。
 しかしつい先ほど、兄がストレートに怒りを顕わにするところを生まれて初めて目撃してしまったものだから、そのときの驚きも相俟って、ヒヤリとした感覚が胃に落ちる。
 ないと分かっていても、自分の眼で確認するまでは本当に安心できないのが人の性というもので。
 ナナリーは潔く会計簿を閉じ、逸る鼓動を抑えて立ち上がった。

 ・・・・・・・・のであるが。




「まぁ・・」

 居間の障子戸を恐るおそる開けたナナリーは、目の前に広がる光景に目を丸くした。
 畳の上には本当にC.C.が転がっていたのだ。
 驚くべきことに、ルルーシュも。

 ・・・・・もっとも、サスペンスでも何でもなく、ただの昼寝なのだけれど。

 風邪をひかないようにという配慮なのだろう、先ほど脱いだ上着でしっかりと包み、これは俺のだ、とでも主張するかのように婚約者をぎゅっと抱きしめて眠っている兄。その腕枕で眠る義姉の 貌は、すごくすごく穏やかだ。
 しかしこのままでは本当に風邪をひきかねないので、ナナリーはブランケットを取りに行こうと踵を返した。その途中でふと閃いて、足取りも軽やかに部屋へと向かう。
 手にして戻ってきたのは、ブランケットとデジカメだ。
 ふたりに子どもが生まれたら山のように写真を撮ってあげようと、先日購入したばかりのデジカメ。それがこんなに早く活躍することになるとは思っていなかったが、微笑ましい思い出が増えるのは大歓迎である。
 パシャリ、という軽い音とともに、室内が一瞬だけ鮮烈な光で満ちて。
 さっそく出来栄えを確認したナナリーは、にっこりと笑顔を浮かべる。


 小さな液晶画面には、しあわせそうに眠る兄と義姉がいた。






2009/11/ 2 up