続・鮮血散らして ゆっくりと意識が浮上してきた。 肉体に意識が同化していくような感覚。 上半身が裸だからこそ味わえるシーツの肌触り。 永遠に身を委ねていたくなるような心地よい温もり。 「・・・ん・・」 羽根でふわりと撫でられたような感覚が胸の上を滑ったかと思えば、顎先から喉仏を辿って鎖骨のくぼみまで撫で下ろされた。 甘い匂いが鼻先を掠める。 やわらかな重みを受け止め、そのままじっと瞳を閉じていると、首の付け根に痛みを感じた。 なんてことはない、軽い痛みだ。 それよりも、首に押しあてられた唇の感触と、血を吸い出した後に傷痕を丹念に舐める舌の動きの方がよほどヤバい。 ゾクリと、快感が背筋を這い上がる。 「ごちそうさま、ルルーシュ」 しかし、奥歯を喰いしばって耐えていた俺を無視して、一連の原因である女は実に呆気なく身を離すのだ。 こいつの『ごちそうさま』は朝の挨拶と同義。 気だるさを押しのけて瞼を持ち上げれば、芽吹いたばかりの若葉のような色をした髪がちょうど視界から消えるところだった。 吸血鬼が夜行性というのは誤った認識だったらしく、そう早い時間でもないが女は朝起きて昼間活動し、夜に眠っている。その寝台で俺も寝ているのは、 寝覚め一番に新鮮な血を飲みたいと云う女の我儘に付き合わされているからだ。 当初、もちろん俺は抵抗した。 しかし俺の代わりにナナリーを贄にしてもいいんだぞと脅されては、屈しないわけにもいかず。 外界の情報すらまともに入手できない籠の鳥に甘んじるより他はなかったのだ。 首を動かして長い髪を追うと、白いワンピースを纏った華奢な肢体にたどりつく。眠そうに目を擦る仕草は幼いが、こいつを構成するものすべてが幼いわけではない。 そして、日が増すごとにじりじりと高まっていく衝動の正体を知らないほど、俺も幼くない。 焦がれるような、滾るような、渇いたような・・・できることならこんな形で意識したくなかった、本能。 有り体に云えば欲情しているのだ 「雨、か・・」 屋敷から出ることなどないくせに、女はいつだって外の様子を気に掛ける。 籠の鳥なのはこの女も同じことで、そうした存在が生きとし生けるものを包み込む大きな世界に興味と憧れを抱くのは必然なのだろう。 だが、同じ籠に囚われた存在に関心どころか一瞥すらくれないとは・・・・・それこそ天文学的数字の確率で拉致監禁された俺が納得できない。 寝食や衛生は保障されている。 脱走の恐れがないと判断されてからは外の情報も少しずつ入るようになった。 待遇は日々改善されていると思う。 だが、それだけでは足りない。意に沿わない滞在を強いられているのだからその程度のことは当然で、 毎朝吸われ続けている血の対価は是が非でも別途請求してやりたい。 ・・・いいや、してやるさ。 淡く色づいた、果実のような唇を存分に味わって。 鈴の音に劣らない玲瓏な声を甘く蕩けさせて。 華奢だがハッと驚くほどやわらかな身体を堪能し尽くしてやろうじゃないか。 「C.C.・・」 寝台を降りようとした女の腕を取り、肩を抱き寄せて、力任せに寝台の中へと引き戻した。 はずみで側頭部に食らった拳は正直キツかったが、ようやく組み伏せることに成功した女を存分に愛せることを思えば、些細なことだ。 抵抗される前に、と無理やり塞いだ唇は、微かに血の味がした。
『続・鮮血散らして』 吸血鬼パラレル 了 2009/10/12 up |