鮮血散らして この日、私へ捧げられたのは生意気そうな面構えをした、黒髪の少年だった。 「・・・ 「はい、然様でござ 「ふざけるなっ!今すぐ解放しろっっ!」 私の問いかけに答えようとした下部の言葉を遮って、少年が叫ぶ。 おやおや、どうやら自分が置かれた状況を理解していないようだ。 ・・・あぁ、それとも、理解しているからこその発言か。 悠然と椅子に掛ける私の前で後ろ手に拘束され、跪かされているのが余程気に食わないのか、 貴石を思わせる上質な紫色の瞳が怒りに震えながら、こちらを睨んでいる。恐怖を隠すための見せかけではなく、本気の怒りだ。 ・・・もっとも、おもしろいと思いこそすれ、畏怖など微塵も感じないのだが。 それよりも・・・・・ 「こんなひょろいヤツ、一度で死にそうだな」 “食糧”として機能するかどうかの方が、よほど心配である。 しかし私の言葉にキリキリと眉を吊り上げた少年は、「黙れ、化け物」だとか「いい加減にしろ」などと叫き散らした。 まったく、失礼な。 自分たちだって相当な雑食だろうに、そこに“生き血”が加わっただけで私たちを化け物扱いするのだから、人間とはつくづく身勝手な生き物だ。 椅子から腰を上げて、少年のもとへ寄る。 一層高まった警戒に、遊び心が擽られた。 「さて、少年。どこから血を吸われるのがお好みだ? 首か、胸か、それとも腕か?」 「どこでも同じだろうがっ!」 「そうか? 腕ならば採血と差はないぞ?」 俎上の魚であることには違いはないがな。 だが、選択権が残されている状況であれば、相手の優位に立った気分を味わえるだろう? 少年は仮にも食糧提供者。こちらも気遣ってやったというのに。 「どこがだ!」と吠えるとは、可愛げのないヤツだ。 「俺はまだ死ぬわけにはいかない! ナナリーが・・」 「恋人か?」 「違う、妹だ。俺に残された、たったひとりの・・・・・」 「そうか。・・・だが別に、お前を殺すとは云っていない。毎日少量の血をもらうだけだ」 当然、妹のもとへすぐに帰してやるわけにはいかないが、それでも命までもらうつもりは毛頭ない。 大体、考えてもみろ。人が死ぬほどの血を一度に摂取できるはずがないじゃないか。 私たちにとって生き血とは栄養剤のようなもの。一日に200mlも摂れば充分だ。 ちなみに、血を吸った相手を仲間に変える、などといった不思議な力があると実しやかに信じられているようだが、それも根拠のない嘘である。 蚊に食われて蚊になったという話は聞いたことがない。同じことだ。 そもそも、食糧として捕らえてきた人間を仲間に変える必要がどこにあるのか。 そんなことをしたら、需要は増える・供給は減る、の一方通行で、どう考えても成り立っていかないだろう。 ・・・まぁ、吸血願望が後天的に顕在化する例が皆無だとは云えないが。 それも、混血児である場合がほぼ10割を占める。 「では早速、お前の血をもらおうか」 混血とは無縁そうな顔をした少年の正面に膝をついて、その襟元を寛げた。 リクエストがなかったから、人間界における吸血鬼のイメージそのままで攻めることにしたのだ。 シャツのボタンを3つ外して・・・・・ああ、痩身に見合った白い首だな。 肌理細かい肌の触り心地は、まあまあ・・・ 「ばっ、・・やめろっ!」 途端に、少年が暴れ出した。 顔が真っ赤だ。 ・・・撫でられて感じたか? それとも、単純に擽ったかったか。 どちらにしろ、可愛い反応であることに変わりはない。 「くどくて、自己主張の激しそうなお前の血で我慢してやるんだ」 ありがたく思えよ? と嗤ってやれば、たちまち激昂してこちらを睨んできた。 その隙だらけな首筋に唇を寄せて、牙を立てる。
『鮮血散らして』 吸血鬼パラレル その1 2009/10/ 2 up |