油幕の内側




 穏やかな気候を約束されたアリエスであっても、年に数回は激しい雷雨に見舞われる日がある。
 稲妻とほぼ同時に轟く雷鳴は音量も迫力も満点であるし、離宮が建つ丘を削り取るような雨はまさに豪雨と呼ぶのに相応しく、このときばかりは離宮が建造されて以来、 焼失も崩壊もなく美しい姿を保っていることの方が奇妙に感じるくらいだ。
 まだ昼過ぎだというのに空は薄墨を引いたような色が一面に広がっていて、それが余計に稲妻の姿を鮮烈に浮かび上がらせている。


         よりによってこんな日にルルーシュが不在とは・・・・・


 お気に入りのカウチに寝そべりながら窓の外を見つめていたC.C.は、盛大に溜息を吐いた。




 ルルーシュは現在、超合集国連合最高評議会本部が置かれている蓬莱島へ召集されている。
 過去にも何度かそういうことがあったのだが、そんなときC.C.は合衆国日本に滞在しているナナリーの元を訪ねていたものだから、暇を持て余すこともなかった。
 しかし、今回はナナリーとの都合が合わなくて、C.C.ひとりだけアリエスの離宮に残される形になっているのだ。
 普段使用することのない区画を掃除してみるとか、天気さえ良ければやる気の起きたこともあるだろうけれど、換気すらできない日に埃を払ったところで、後に 残るのは淀んだ空気だけ。しない方がマシだろう。
 さらに、ルルーシュが生まれる前から勝手知ったる離宮なのだ、アリエスは。無駄に大きな住まいだが内部構造は完璧に把握しているから、今さら探検しようなどと いう気も起らないし、書庫の本は粗方読破済みなので、手に取る気力すら湧かなかった。


「暇、だな・・・」


        いや、普段だって今と同じように執務室のカウチに寝そべっているだけのはずである。
 それどころか悠久を生きる魔女であったときには、何もせず、何も考えず、無に沈んでいた時間も長かったというのに・・・。
 ルルーシュが居るのと居ないのでは、同じことをしていても感じ方が随分と異なるようになってしまったのだと、今さらながらに思い知らされた。


「・・・・・・・・」


 いつもは仕事中のルルーシュ越しに見遣る窓の外は、大粒の涙のような雨が降りしきっている。
 何がそんなに哀しいんだ、と。そこに何の意図も介在していないと知りつつも、思わずそんなことを問いかけてみたくなる。
 心のどこかで感じている寂しさがこの雨になっているとは、さすがに思わないけれど・・・・・




 早く帰ってこい、と、C.C.は心の中でルルーシュに念じた。












『油幕の内側』


ひとりでいるのは、さみしい




2009/ 6/28 up