華燭




 一面を満たす薔薇の馨。
 満月の、冴え冴えとしながらも甘やかな光を浴びる女は、無数の蝋燭を灯したシャンデリアの下で見るよりも遥かに美しい。


 普段は引き結んでいる唇にささやかな笑みさえ浮かべながら、また一歩、彼女に歩み寄った。




「・・・・無理だ。私が愛した者は皆、悲惨な死を迎える」




 しかし、彼女が示したのは拒絶だ。
 顔を逸らし、伏し目がちに地面を見つめている     その様子から、返答は推測していた。




「面白みに欠いた断り文句だな」




 だから挑発するように鼻で笑えば、矜持だけは高い姫君は案の定、眉間にきゅっと皺を寄せて正面から睨みつけてきた。
 月光を含んだ琥珀の瞳は金色を増して、キラキラと輝いている。
 誘われるようにまた一歩近づき、手を伸ばした。彼女がビクリと身体を強張らせたことに気付かないふりをして、髪を一房掬い上げる。
 想像以上に細く、それでいて絹糸のような艶と滑らかさで男を楽しませる、薄翠色の美しい髪。
 恭しく唇に寄せると、姫君は貌を歪ませた。
 しかし、その目元にはほんのりと朱が注している。見逃すような失策など犯さない。


 だが違う、間違っているぞ・・と、紫水晶に似た瞳に力を込めて断言する。




「俺がお前を愛してやると言っているんだ。      問題はないだろう?」










 一面を満たす薔薇の馨。
 微かに耳へと届くのは華やかな円舞曲。
 虚栄と虚言ばかりが熱を高める偽りの城をそっと抜け出して、花園に身を潜めるふたり。




            果たして、美しき姫君の返答は・・・・?












『華燭』


高貴を目指して突発パラレル
ものすごくルル→→シー




2009/ 1/17 up