ep.1 ハシュベスの難民キャンプにて 「ごはん出来たぞ」 そんな呼びかけに顔を上げたL.L.は、自身の空腹に思い至って「もうそんな時間か」と考えた。 端末を傍らに置いて、バックパックの上に出ていたダイニングソフレを床に敷く。C.C.から受け取った大皿を並べ、取り皿を用意すれば準備は概ね完了だ。あとは一度外に出て手を洗い、食卓に着く。 今日の夕食も豪華だ。ふたりで食べるには充分すぎるボリュームと品数。この辺りでは食事の支度は女性の仕事なので、周囲に不審がられないようにとC.C.が毎食せっせと用意してくれる。しかもすべてこの辺りの郷土料理を、だ。ベッドの上で宅配ピザを貪っていた時分には想像もできない変わり様に、イライラと神経を尖らせていた当時の自分へ見せてやりたいくらいだった。 「いただきます」 日本に居た頃の習慣で、手を合わせてから食事を始める。砂漠の真ん中だというのに彩りのよいメニューが並ぶ食卓は何とも贅沢で、シュナイゼルが世界人道支援機関の配給品にまで細かく手を回していることが窺い知れた。抑止としての軍事力だけでなく人々のサポートに手が届くのは、ナナリーが望むやさしい世界が形になりつつある証拠なのだろう。 一口含んだスープは五臓六腑に染みて、知らず頬が緩んだ。 美味い。 声に乗せればC.C.は安堵したように眉尻を下げた。玉子料理を口に運び始めたL.L.を余所に、これは誰からのお裾分けだの、こっちは誰それの自信作らしいだの、料理には手を付けず説明に忙しい。 別にいちいち説明を受けなくてもL.L.は解っている。配給品でやり繰りしなければならない状態でこれだけの品数をC.C.ひとりで用意できるはずがない。たったふたり分を作るのが逆に手間だということも、近所のご婦人方が年若く見える自分たちふたりを気遣ってくれていることも。 「判るさ」 食事の支度を自分ひとりの功績にしないところはC.C.の美徳かもしれない。 しかしそう予防線を張らなくても、L.L.は確かに判るのだ。 「お前のが一番美味いからな」 身体に馴染んだ味とでも云えばいいのか。ブリタニアにはない料理だとしても、C.C.の作ったものは不思議と口に合うのである。 それはC.C.がブリタニア風の味付けとかけ離れないようにスパイスを加減しているからかもしれないし、意識がない1年の間にC.C.が作った食事をとり続けたことで脳がC.C.の料理の癖を覚え、これが一番安心して食べられる味だと判断しているからなのかもしれない。 せっかくの作りたてなのだから温かいうちに食べればいいだろうに。そんな親切心から発したL.L.の言葉に解説を中断したC.C.は、しかし口を噤んだきり固まって動かなくなっていた。声を掛けてみても拗ねた貌で「ルルーシュのくせに‥」と小さくぼやくだけだ。秘すべき真名が出てしまっているあたりにC.C.の動揺を悟りつつも、己の発言のどのあたりがC.C.をそこまで追い込んだのか察することができないL.L.に為す術はなく。 食欲をそそる匂いとともに立ち昇る湯気はくるりと螺旋を描き、ふたりの間で音もなく消えていった。
『幕間の話 ep.1』 2020/ 5/ 6 up |