糖度を増す関係 手が滑った。 あ、と思ったときにはすでに遅く、使い慣れた皿は一瞬のうちに床へと吸い寄せられていく。予想した通りの騒々しい音を立てて、その皿は割れた。 やってしまった。 特別に付加価値がある皿というわけではないが、長く使えばそれなりに愛着が湧く。それに人里離れた奥山暮らしではそう気軽に入手できる代物ではないから、生活に支障が出ないよう大切に使ってきたというのに。 だが、割れてしまったものは仕方がない。身を屈め、割れた皿を片付けようと手を伸ばしたそのとき、隣で皿を洗っていたルルーシュが制止の声を上げた。 「待て、触るな!」 ルルーシュはさっと手を拭いたかと思えば、てきぱきと破片の片付けに取り掛かる。それをぽかんと見守ってしまったC.C.は、呆れたように溜息を吐いた。 「私は子どもか?」 不満たっぷりなその言葉にちらりと視線を上げたルルーシュは、しかしすぐに作業を再開する。まるで手出し不要とでも云うような態度にもう一度溜息を零し、C.C.は腰を上げた。取ってきた麻袋をルルーシュに渡して、あとは箒と塵取りを手に、ルルーシュの作業終了を待つだけだ。 ぼんやりと見下ろしていると、C.C.が手を出さないとようやく確信したらしいルルーシュから返事があった。 「お前は怪我することに無頓着すぎる」 「・・・小さな切り傷程度なら一瞬で治るからな」 「だからだ。普通の人間として暮らしたいのならコードに慣れるな」 そこで一旦言葉を切ったルルーシュが立ち上がった。 C.C.はいつもの角度で見上げる。見下ろされるのが嫌だったのだろうか、とC.C.が内心首を傾げていると、ルルーシュは真面目くさった貌で、云った。 「もっと自分を大切にしろ」 思わず瞠目する。無意識のうちに「えっ?」と間の抜けた声が出て、それで逆に冷静を取り戻した。 次に襲ってきたのは可笑しさだ。 特殊すぎる身体ゆえに、心配されることに慣れていなかったC.C.が人並みに扱ってもらえる歓びを覚えたのは、ルルーシュと出逢って割とすぐのことだった。それから短い間にふたりを取り巻く状況は目まぐるしく変化し、ルルーシュとの関係も利害が一致しただけの共犯者から質を変えていったけれど、彼の矜持と姿勢は変わらないどころか拍車が掛かったようで、今ではすっかり愛妻家の魔王様である。 そんなルルーシュの眼を通したら、どれだけC.C.が気を付けていても「もっと大切にしろ」と小言を飛ばしたくなるように映ってしまうのだろう。これでもC.C.は自身の身体を以前よりも格段に大切にしているというのに。 「お前、私のことが大好きだろう?」 くすくすと笑いながら、C.C.はイタズラめいた眼差しを向けた。 それに対する、ルルーシュの応えは
『糖度を増す関係』 復活公開記念に。 2019/ 2/10 up |