走る、走る。 息切れして、喉は痛くて心臓が破裂しそうでも。 昇る、昇る。 譲ることができない、たったひとつのために。 ライモンダの慈愛・後 持久戦モードに思考を切り替えたからといって、体力が飛躍的に向上するわけがなく。 イベント開始から40分後。大勢に散々追い回されたルルーシュは、茂みと校舎の間に身を潜めながら痛烈な吐き気や息切れ、耳鳴りと闘っていた。学園中に仕掛けたトラップとロロの協力、そ して自身の運動神経でなんとかここまで繋いできたルルーシュだったが、さすがにいろいろと限界だった。 コードが発動すれば一瞬で全回復するというのに、残念ながらこの程度で人は死なないらしい。 ルルーシュは携帯電話で時間を確認した。終了予定時刻まであと20分。C.C.から緊急の着信もなく、ルルーシュの体力以外は順調に進んでいる。 壁に背を預け、ルルーシュはもう一度大きく息を吐いた。 大変だった。ものすごく大変だった。ここまで敵が増えるなら恥を忍んで咲世子に影武者を頼めばよかったと後悔するくらい大変だった。 ルルーシュ狙いの女子生徒よりも、クラブ命の生徒を相手に逃げる方が大変だったように思う。ラグビー部のトライ、科学部のロケット攻撃、演劇部の幻惑作戦、等々。特に幻惑とは何事だ。世 界革命を終えて自分自身と向き合う時間ができてから、確かにそういう方面にも興味は出てきた。が、しかしルルーシュが心惹かれるのはC.C.だけだ。あの雪原のように白く艶やかな肌を、蜜が 滴る嬌声を、狂おしいほどの快楽を知ってしまえば、どれだけ過激な格好を見せつけられたところで他の女など霞んで見える。男の哀しき性もルルーシュには関係ない。むしろC.C.にどの衣装を 着せたら燃えるか考える方が確実に滾る。・・などと考えるあたり、やはりルルーシュも単純で健全な男だった。閑話休題。 ルルーシュは再度時間を確認した。吐き気や息切れは治まったし、時間的にも頃合か。 現在はロロが学園の反対側で陽動作戦を実行中のため、茂みの向こうに人影は少ない。 そろそろ約束の場所へ向かおうとルルーシュが腰を浮かしかけたそのとき、赤い物体がルルーシュの居る茂みに飛び込んできた。 「っ!!」 「!?」 くすんだ青色の瞳と眼が合って、それがカレンの赤毛だと気付く。 慌てる必要はない。カレンはルルーシュに興味がないはずであるから、そのまま茂みを出ればいいだけの話だ。一瞬の判断でルルーシュは立ち上がろうとして、しかし俊敏な動きで距離を詰め たカレンに後頭部を押さえられ、そのまま地面に押し付けられた。 受け身を取れず強かにぶつけた顔面が痛い。 だが、茂みの向こうで「カレンさーん」と隣人を呼ばう声が聞こえるものだから、保身のためにルルーシュは現状維持で我慢した。 ただし、何度でも云うが顔面はすこぶる痛い。 やがて声の主が遠ざかったタイミングでカレンの手は離れ、ルルーシュも上体を起こした。地面が芝生でまだ良かった。これがコンクリートやレンガだったら確実に流血騒ぎだ。 「痛いじゃないか、カレン」 「ごめんごめん。でもアンタだって見つかったら困るでしょ?」 尤もな言葉だが、他に方法はあっただろうに。貌を歪めたルルーシュの考えを正しく読んだのだろう、カレンはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 黒の騎士団に居た頃のように、あちこちに跳ねた赤い髪。強気な眼と男勝りな態度。かつての病弱設定が綺麗さっぱり吹き飛んだ、素の紅月カレン。 「君も大変だな。お嬢様じゃなくなったのに、熱心なファンがいて」 「お生憎さま。自分より弱い男なんて興味ないわ」 「君より強い男を探すのは難しいと思うが・・」 「なんですって!?」 何を以って強いと判断するのか不明であるが、カレンの身体能力は天賦の才だ。その力には個人的にも騎士団の長としても幾度となく助けられた。しかし卓越しているが故に同等以上の実力 者かつカレンの眼鏡に適う人物を見つけるのは相当に難しいだろう。という趣旨の発言だったのだが、カレンはめくじらを立てて怒り始めた。何故だ。 ゼロと零番隊隊長なら円滑にいく関係も、クラスメイトで同じ生徒会メンバーとなると途端に破綻するのだからどうしようもない。 イライラしているカレンを横目に、ルルーシュは茂みの向こうを探る。人はいないようで、出るには良いタイミングだ。 カレンは此処に残るだろうか。人を撒くだけなら隠れているのが上策だが。 一応声を掛けてから行くかとルルーシュがカレンを見遣ると、縹色の瞳とぶつかった。 「・・・ねえ」 その表情は厳しい。声も硬い。 問い詰められると一見して解る雰囲気に、後にしてくれとルルーシュは云い掛けて、しかしカレンの勢いが勝った。 「アンタ、いつまで此処に居るの?」 「・・え?」 「いつまでこんなところで油売ってるの? いつまでその帽子被ってんのよ?」 それは君に邪魔されたからだ。・・とは云えず、ルルーシュは瞠目した。 カレンが何に怒っているのか解らない。 「C.C.は? さっさと探してさっさと帽子交換しなさいよ! ゼロのときもC.C.とふたりだけの世界作っちゃって、何だかんだ激甘で、ここ最近はずっとC.C.にご執心だったクセに、彼女になったら もう無関心? いつまで経ってもナナリーナナリーって・・、アンタC.C.が一番大切じゃないの!?」 「それは 反論する隙もなく、あっという間に胸倉を掴まれる。制服の首元が絞まって正直苦しいが、カレンの腕が力強くてまったく解けそうになかった。 それだけカレンの頭に血が上っているということか。 3日前、生徒会室でカレンがC.C.に耳打ちしていたのはこの件だったのだろう。 あのとき中等部の不参加をまず確認したのは、C.C.よりもナナリーが大切だからというわけでは決してない。ナナリーの意思ではどうすることもできない身体的ハンデをフォローするのが家族と しての義務だとルルーシュが自負しているからであり、車椅子ごと転倒すると単身での転倒よりもはるかに危険で、その可能性が高いイベントにはそれなりの備えが必要だからである。その上で C.C.を誰にも渡さない完璧な作戦を練るつもりでいたのだから、カレンの言い分は誤解だ。 とりあえず胸倉を掴む手を引き剥がそうとルルーシュが苦労していると、より一層カレンの腕に力が込められた。 「シスコンだけでも充分気持ち悪いのに、女の子に追い掛けられて嬉しそうにいつまでも楽しんで! 見損なったわ!!」 おい待てそれは冤罪だ! と叫びたくても叫べないうちにカレンがルルーシュの帽子をむしり取る。 「いつだって秘密主義で何も話してくれなくて、アンタの心なんて何処にあるのか判らないのに、何で今日に限ってまだ頭に乗せてんのよ!!」 こんなものっ、と苦々しい声とともに帽子がブン投げられる。勢いよく校舎に激突した青いソレは、呆気なくぽとんと地面に落ちた。 ルルーシュとしては帽子が茂みの向こう側に投げられなくて安堵が半分、直情的なカレンの蛮行に呆れが半分だ。誤解は後で解くか、まあ解けなくても問題はないが、今はとにかく時間が迫っている。 どうにかカレンを振り切ろうとその手首を掴んだとき、視界から離さなかった帽子の傍に人影を捉えた。 「ッ、・・ルル!! カ、カレンっ!?」 「「!!」」 ふたり同時に振り向くと、そこに居たのはシャーリーだった。その貌は驚愕と困惑に満ちている。 距離の近いふたりは、カレンがルルーシュに熱烈に迫っているようにも、カレンが今にもルルーシュを殴ろうとしているようにも見える。シャーリーは後者の雰囲気だと察していて、だからこそ困 惑の表情を浮かべたのだが、それはルルーシュを前にしたカレンの貌が恋する乙女のソレというよりも鬼気迫る武神の形相だったからである。 それを知ってか知らずか、どちらにせよ気まずかったのであろうカレンの手がルルーシュから離れる。咳込む程ではないが、解放された安心感はあった。出自もあり、ルルーシュは直接的な荒事にあまり慣れていない。 「シャーリー、助かったよ」 「あ、うん。どういたしまし、て? ・・・・・ねえ、この帽子ルルの?」 シャーリーは足元に転がる青い物体を拾い上げる。 ルルーシュの頭から帽子が消えていれば普通はそう思うだろう。そこで教室での人間サークルにシャーリーの姿があったことを思い出し、しかし帽子には刺繍で各自の名前が入っているため 誤魔化すこともできず、「そうなんだ、落としてしまって」と軽い調子で答えるしかなかった。 すぐに回収してC.C.の元へ向かわなければ。 どうやって切り抜けようかと知恵を絞っている間に、シャーリーは青い帽子をぎゅっと抱きしめた。 ルルーシュは目を瞠る。隣でカレンも息を呑んだようだった。 「ルルっ、これ、・・・よかったら私が 「ダメだシャーリー。返してくれないか」 「どうして? 私、ルルのこと」 「シャーリー」 「でも、だって会長のこともあるし・・」 会長。その言葉に、ミレイの所為で事態がややこしくなったことを思い出した。 もしやシャーリーは事前にミレイの悪ふざけを知っていたのだろうか。だから部費のために人間サークルに加わっていたのだろうか。 シャーリーが自分に惚れているという事前情報はあっても、これまで実感を伴わなかったルルーシュは、時間がない焦りもあって、つい感じたままを云ってしまった。 「部費の件は俺から会長に掛け合ってみるから。だから・・!」 帽子を返してくれ、と続けようとして、云える雰囲気ではないことを悟った。 「部費!?」 「アンタ何云ってんの!?」 初めはきょとんとしていたシャーリーが、見る間に険しい表情に変わったからである。 ついでに隣からの殺気もすごい。 何か選択を間違えたことは明白だった。しかしチェスや軍事などの心理戦には強いクセに、恋愛になると途端に鈍くなるルルーシュは、何がいけなかったのか皆目見当もつかない。 俯いて震えていたシャーリーがキッと顔を上げる。そのアップルグリーンの瞳が薄く涙に濡れているのを見止めて、ルルーシュは動揺した。 「これは私が預かるから!!」 「なッ・・!」 シャーリーは芯が強い女性だ。柔軟な考え方もできる。しかし怒ると感情的になるところが厄介ではあった。 返さないとシャーリーが云った以上、説得するには時間が掛かる。そしてルルーシュには時間がない。こんなときC.C.が居れば、と考えて、ふと気付いた。 シャーリーが抱える青い帽子。 カレンの言葉。 待っているであろう、好きな女。 次の瞬間、ルルーシュは茂みから飛び出していた。 走る、走る。 ルルーシュが姿を見せたことで色めき立った生徒たちも、ルルーシュの頭に目的の物がないと判るや、「帽子を探せ!」と散っていく。中には「私の帽子を受け取って〜」と追いかけてくる女子 生徒もいたが、それは校舎内のトラップで撒いた。 階段に足を掛ける。追手はいない。 まさか帽子ひとつでここまで違うとは。これなら最初から切り捨てればよかったとさえ思う。 みんなにとってルルーシュの帽子は部費を獲るための、あるいは恋人になるための道具だ。 それはルルーシュの中にあって、ルルーシュを動かすものだ。ルルーシュと切り離せるものではないし、ましてや他人の間を往ったり来たりするものではない。 帽子がどうなろうと好きな女は唯ひとりだけ。たとえ2週間、他の誰かの恋人役を務めなければならなくても、ルルーシュの想いが変わることは決してない。 コードを継承したときに、それはルルーシュの中で確かなものとなったのだから。 不老不死になる過程において、ルルーシュは肉体的にも精神的にも一度死んだ。ただの人間にコードを組み込んで再び人間を構築するために、まずは分解と破壊が必要だった。 ひとつひとつペルソナを剥がされていく感覚。ゼロとしてのルルーシュ。ルルーシュ・ランペルージとしてのルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしてのルルーシュ。それぞれのルルーシュ に付随する役割も肩書きも、すべてがバラバラに切り離されて繋がりを断たれて、核とも云うべきただのルルーシュだけになったとき、それでも心から消えなかった唯一の女がC.C.だったのだ。 思えば、C.C.はいつも傍に居た。ルルーシュがどんな仮面を被っても被らなくても、常に本音で変わらず接することができた唯一の相手だった。 それは心を許しているのと同義で。 まったく特別感がない、けれどとても特別な女。まるで自分の半分のような女。 失えない。そう思ったが最後、C.C.への想いは一気に芽吹き、ルルーシュ自身が持て余すほど大きく育ってしまった。 ルルーシュは断言できる。 世界を手に入れるよりも大変で、しかしどうしても傍に置きたい女は、C.C.以外いない、と。 昇る、昇る。 息は切れるし、腿が上がらなくなってきたが、それでも上へと急ぐ。 C.C.と約束した場所は屋上だ。ミレイの発案によりルーフトップガーデンが造られたそこは、身を隠す場所もあるし、敵に見つかったときに逃げるための充分な広さもある。ルルーシュが今まで中 庭や正面広場で逃走劇を繰り広げていたのは、終了時刻ギリギリまで他生徒の眼を引きつけるためだ。ミレイのひと声によって当初の計画以上の効果が出て、ルルーシュは帽子を失ってしまった けれど、C.C.が無事ならそれでいい。 階段を昇りきる頃には、多少回復させた体力が再び尽きようとしていた。 呼吸を整える間もなく屋上に出る。 鮮やかな青空が広がる空中庭園。その片隅で柵に寄り掛かり、正面広場を眺める女の後姿があった。 結んだ若草色の髪が、ピンク色のリボンが、黒のスカートが、風にふわりと揺れる。 「C.C.・・!」 明らかに息切れしている声だったが、女は振り返った。 ルルーシュの頭上に帽子がないからだろう、C.C.は少し驚いた貌をして、それから呆れたように優しく微笑む。それはルルーシュが帽子を奪われると予想していた貌で、それでも必ず来ると信じ て待っていてくれた彼女に、胸がじわりと熱くなった。 C.C.はきっちり帽子を被っている。あとはアレを貰って被れば任務は完了だ。 駆け寄る元気こそないものの、一歩一歩C.C.の方へ進んでいき 「ぉわッ!」 見れば、足元には青い帽子が落ちている。頭に当たったのは十中八九ソレで、屋上の出入り口近くには帽子を投げたらしいカレンと、頬を膨らませたシャーリーが居た。 「・・・これは」 「ルルのだよ。まったくもう、いきなり往っちゃうんだから」 拾い上げた帽子には、確かにルルーシュの名が刺繍されている。 でも、何故。 困惑したルルーシュの表情を見て、シャーリーが笑う。 「云ったでしょ、私が預かるって。みんなルルの帽子を狙ってるんだもの、ルルが被ってるより私がセラに届けた方が安全だよ」 つまり、シャーリーはここまで帽子を持ってきてくれた、と。そのためにルルーシュを追い、屋上まで上がってきてくれた、と。そう云われてルルーシュは驚くしかない。 それでシャーリーが得るものなど、ひとつもないだろうに。 「私はルルが好き。だからルルには幸せになってほしいって思ってる。そのために手伝えることがあるなら、私は手伝うよ。そう伝えようとしてるのに、ルルったら全然聞いてくれないんだもん、 困っちゃった。カレンは・・」 「私はシャーリーの護衛。仕方なく、だけどね」 シャーリーが大事そうに青い帽子を抱えていれば、ルルーシュのものだと宣言しているようなものだ。そしたら部費狙い組の標的がルルーシュからシャーリーに変わるのは必至。 ルルーシュの帽子はどうでもよかったものの、シャーリーが危険な目に遭うのは忍びないと考えたカレンは、ここまで護衛役として降り掛かる火の粉を払ってきたのだ。 「シャーリー・・・、カレン・・」 ルルーシュは言葉に詰まった。普段であればよく回る口も、素直に礼を述べようとすると急に重くなる。 シャーリーの真意に気付かず、下で酷いことを云った自覚が芽生えたものだから、余計に。 そんなルルーシュを見てどう思ったのか、顔を見合わせたシャーリーとカレンは苦笑いを浮かべて再びルルーシュを見た。 「ルル、時間ないよ」 「私たちの苦労を無駄にしないでよね」 じゃあね、と云い置いて、ふたりは扉の向こうに消えていく。 手に残った帽子。それはふたりの好意だ。無駄にはできないと振り返れば、C.C.は一歩も動かずに同じ場所で待っていた。この距離なので、会話はすべて聞こえていただろう。気まずさを感じ つつもC.C.のところまで行くと、淡く笑んだ女は自らの帽子を脱いでルルーシュの頭にしっかりと乗せた。 ルルーシュは驚いた。まさかC.C.の方から自主的に帽子をくれるとは。 長く片恋が続いたものだから、今でもルルーシュばかりが求めている感覚でいた。そう気付かされて、少なからず動揺する。 もうそんなことはないというのに。 「ここから時々お前が見えたよ。ただ守られるのは慣れないが、たまにはいいものだな」 云って、C.C.はルルーシュの手から帽子を取り上げる。そのまま被ろうとしたものだから、慌てて奪い返した。 薄汚れた状態で被らせるわけにはいかない。 丁寧に土埃を掃ってから頭に乗せると、C.C.は嬉しそうに笑った。 「C.C.」 堪らず抱きしめれば、C.C.は抵抗することなく腕の中に納まる。パズルのピースのようにぴたりと噛み合う、愛しい女。 「好きだ」と耳元で告白して、満点の返事をもらって、また強く抱きしめて。 イベントの終了を告げる礼拝堂の鐘が、恋人になった者たちを祝福しているようだった。 ふたり揃って下に降りると、広場には生徒たちが集まっていた。 恋人を得た者、恋破れた者、部員同士で友情を深めた者など、境遇も表情もそれぞれだ。しかしルルーシュたちを見つけると、皆一様に囃し立てる。中には「許すまじルルーシュ」やら「俺は認め ないぞ!」などと怨嗟の声も混じっていたが、概ねお祝いムードだ。 指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎでみんなの前に出たのが功を奏したのかもしれない。 人垣の向こうにはシャーリーとカレンの姿もあって、ルルーシュたちや他カップルの成立を祝っている様子だった。 「はあ〜い、みんなお疲れー」 声がして、人垣が割れる。クラブハウスの方から歩いてきたのはミレイだ。ルルーシュとC.C.の繋がれた手を見止めた彼女は、「良きかな、良きかな」と満足そうに頷いた。 過程よりも結果を重んじるルルーシュではあるけれど、戦略よりも体力勝負となった今回のイベントには正直なところ不満が残る。それが貌に出ていたわけでもないだろうに、ミレイは茶目っ気 たっぷりの笑顔で人差し指を立てた。 「私はちゃ〜んとルルーシュ囮作戦でセラを助けてあげたわよ。愛するセラちゃんの それは余計なお世話というものだ。しかしイベント中に同じような実感を抱いたルルーシュは、肩を竦める仕草だけに止めて反論はしなかった。 ミレイがキューピットの日の成功を高らかに告げる。 日が暮れたらクラブハウスのホールでダンスパーティーをしようだとか、学園のベストカップルを決めようだとか、ルルーシュ捕獲作戦に協力した部は部費を倍にしてもらえるだとか、みんなの貌 が明るい。ダンスパーティーでピザが出ると知ったC.C.は今日一番眼が輝いていた。 「それで? ルルーシュはみんなの前でセラは俺のものだぞ宣言しなくていいの?」 肘で突っつきながら、ニヤニヤ笑いのミレイがルルーシュに囁く。 帽子を交換した姿で現れて、恋人繋ぎまで見せて、まだ何か云えというのか。それもこんな大勢の前で。 恋愛面では極端に奥手で初心なルルーシュは、独占欲と羞恥心の間で揺れ動く。そんなルルーシュの姿をミレイが楽しんでいることに気付かないでいるうちに、ミレイは「ちゅうも〜く!」と声を上げてしまった。 だから、余計なお世話はやめてほしい。 「〜〜〜〜ッ」 突き刺さる周囲の眼にテンパったルルーシュは、ここは跪いてC.C.に結婚を申し込むしかないと腹を括って、しかし「ルルーシュ」と逆にC.C.から呼びかけられた。 伸びてきた白い手が肩に置かれ、顔が近づく。 やわらかい唇の感触を一瞬受け取ったのは、ルルーシュの頬だった。 ワッと歓声が上がる。ルルーシュに怨み言を零していた男子生徒たちも、C.C.からのキスでは涙を呑むしかない。 ここは唇にしておけよ、と惜しく思う反面、本当に唇にされていたら赤面していた可能性が高いと自己分析したルルーシュは、頬でよかったと自分を納得させて、そして呆気に取られた。 顔を真っ赤に染めたのはC.C.の方だったからだ。 その、伏し目がちで俯きがちの姿が胸のド真ん中を射る。髪を結んでいるため露わになった耳まで赤く、それを見たルルーシュは我慢できず、C.C.の後ろ頭に手を添えた。そのまま自らの胸に押し付けて、隠す。 こんな可愛い姿を他の男に見せてなるものか。 八方から飛んでくる冷やかしの声を受けつつも、ルルーシュはC.C.を庇い続ける。 できることならダンスパーティーになど参加せず、一晩中C.C.に溺れていたいと考えながら。
『ライモンダの慈愛・後』 学園公認カップル誕生 2017/12/16 up |