11月22日


 髪を梳かす母の手がやさしくて。
 背を預ける父が常になく寛いだ雰囲気で。
 ふたりの邪魔をしてはいけないと、幼心にそう思ったのだ。
 仲が良い父と母。父は母を愛し、母も父を愛している。だから父は何があっても母を護ってくれると信じていた。

       結果、その期待は見事に裏切られたわけであるが。

 しかしそれは幼かったルルーシュの勝手な期待であって、母はそんなこと望んではいなかったし、父を怨むどころか最期まで味方をしていた。
 やはり二人の間に愛はあって、たとえ実の子どもであっても理解不可能な、確かに夫婦のカタチがあったのだ。



 ルルーシュは閉じていた瞼を押し上げた。
 寝ていたのではない。前髪を梳くやさしい手を感じていただけである。
 古い山小屋のソファーの上。座ったC.C.の腿に頭を乗せて寝転がり、しばし時間を過ごす。これが最近の、夕食後の定番だった。
 C.C.の腿はやわらかいが程よい弾力もあって、枕にするにはちょうどいい。ギアス教会までの旅の途中、まだ想いを通わせる前からこの膝枕には何度も世話になっていて、心地良いと思っていたのだ。それが今では名実ともにルルーシュのものなのだから、最大限に活用するのは当然のことである。
 膝枕をすると、C.C.は大抵前髪を梳いてくる。それもまた好い。これまで他人に隙など見せられない生活をしていたのが嘘のように、いまC.C.の前では肩の力を抜くことができた。
 不思議なものだな、とルルーシュは思う。
 大切なものほど遠ざけるスタンスだったルルーシュの、いま一番大切な人は一番近くに居て。
 干渉を嫌い、皮肉を云い合った女が、いまではルルーシュの一番の理解者であり、すべてを曝け出せる伴侶となった。

「ルルーシュ、交代だ」
「・・・ああ」

 C.C.の声にルルーシュは身体を起こし、ソファーに腰掛ける。すかさず腿に乗ってきたC.C.の頭を受け止めて、今度はルルーシュがC.C.の頭を撫で始めた。
 小さな頭。やわらかい髪。瞳を閉じたC.C.が、別に寝るためにそうしているわけではないことをルルーシュは知っている。たぶん、理由はルルーシュと似たようなものだろう。

「・・・・・」

 C.C.と穏やかな時間を過ごすと、たまに両親のことを思い出す。
 ルルーシュも伴侶を得たからこそ、黄昏の間で決別したときとはまた違った目線で彼らを見ることができるようになった。時間が経過したことで、すべての出来事を客観的に見ることができるようになったからだろう。
 今だから理解できることや、共感できることもある。そしてやはり自分たちとは違うと気付くことも多かった。
 有事の際、ルルーシュは何があってもC.C.を護ると決めている。
 しかし同時に、C.C.もルルーシュを護ろうとするに違いない。
 それは男の立場からするとあまり面白くないわけだが、それでも他の誰でもないC.C.だからこそ、護られる自分を許せたりもするのだ。

        それがいまの自分たちのカタチだと、ルルーシュは思っている。






『11月22日』

いい夫婦の日2017(遅刻)


2017/11/24 up